21.
「——で、アレがなんなのか2人は知ってるの?」
「ロクでもない気配は感じたが、何かまでは我は知らぬ」
「妾は知っておるぞ。アレはこの世にあってはならぬモノじゃ。強大な力を得るのと引き換えに、その生物の魂は破壊されてしまう。そうなってしまえば、もうどうにもならぬ。ただの破壊の権化じゃ」
「へ~。ルナは詳しいんだね~」
「そうじゃとも。なにせ、少し前にアレを使う者らを滅するために人の街を襲ったのじゃからな。生き延びた者がおったとはしぶとい奴らじゃ」
なるほど、それで封印されちゃったのか。ルナは世界の為に動いただけなのに。とりあえず撫でておこう。偉い偉い。
だがアレがヤバいものだというのは僕にも分かる。なにせ、エリィのブレスを受けてなお原型をとどめているほどの強度なのだ。僕だって力を使っても凹ませるのがせいぜいだったし。あんなモノが一斉に湧いたらそれこそ世界が終わる危険がある。
ギャルドが口に何か含んでいたから、薬のようなものだろうか。ならば製造している者がいるはずだ。それを突き止めて製造方法ごと葬り去らないと永遠になくならないだろう。
まずは情報収集だ。困ったときのジェニーさーん!
「——まさかそのようなことが。伯爵家が関わっていたとなると事態は深刻ですわね」
「どこかに製造施設とか実験施設のようなものがあると思うんだけど、心当たりあるよね?」
僕とジェニーが視線を向けた先には、公爵がアニフィに拘束されて転がっていた。伯爵と繋がっていた公爵なら何かしら知っているはずだ。
「わ、私は何も......」
「知らないはずないよね?ていうか実物持ってるよね?出してよ。持っててもいいことないよ。アニフィ、見せてあげて」
アニフィの中から取り出されたのは、ギャルドだったもの。ゴトリと音を立てて置かれた真っ黒な物体に視線が集まる。
「これがブツを使った者の末路だよ。自我もなく人ですらなくなる。死してなお元の姿に戻ることすらない。公爵もこうなりたい?」
「そんな......。わ、分かった!全て話す!だから助けてくれ!私は騙されていただけなんだ!」
さすがにこうはなりたくないと思ったのか、観念する公爵。どのみち公爵には実際に使う度胸など無いだろうしね。
公爵が語ったことをまとめると、組織の生き残りと接触したギャルドが主導で研究を進めていたらしい。資産も徴収した税も大半をそちらにつぎこんでいたとか。やたら不明瞭な支出はほぼそれだったと。公爵も出資はしていたが、施設がどこにあるかまでは知らされていなかった。使えないなぁ。
ギャルドは用意周到な性格だから街の中など目立つ場所に施設があるとは考えにくい。人目に触れない場所かぁ。まさか......ね。
「とりあえず伯爵家にある書類は全部回収してきたから整理手伝ってよ。そしたら処遇は考えてあげるよ」
「な、なんでもする!だから助けてくれ......!」
ま、僕が何もしなくても間もなく来る調査隊によって連行されて王都で裁きを受けるだろうしね。それまでこき使ってあげなくちゃ。
「あ、それとジェニー。伯爵家全員いなくなっちゃったから負担増えるかもだけどよろしくね」
「えっ、急になんですの!?ここだけでも手一杯ですのに......。こうなったらライ様を代官に......」
「そうなったら僕は他所へ行くから。どこでも生きていけるし」
「そんなぁ......」
「国王がどう判断するか分からないけど、森やルナのこともあるし全部公爵領にするんじゃないかな」
それから3人で夜通し書類の整理に追われた。なにせ片っ端から回収してきたから量が膨大なのだ。そのうえ巧妙に隠蔽されていたりもする。例のブツ関連の書類とそれ以外に仕分けるだけでも楽ではない。
アニフィやルナも手伝ってくれようとはしたが、人間独特の言い回しとかは難しいようで諦めてしまった。代わりに眷属軍団には、組織の施設捜索をお願いしておいた。あっちにはウルスたちもつけたから大丈夫だろう。
そして空が白んで来たころ、仮眠を取っているところに怪しい施設のようなものがあると通信が入った。
眠い目をこすりながら共有で確認してみると、森の端のほうに地面に穴が開いていた。やや段差のようになっていて、まるで地下への階段だ。
まずはアニフィの分体を突入させて様子を見よう。人が十分入れるほどの大きさだし、中には明かりが灯っていた。慎重に進んでみると部屋がいくつもあったが、どこにも人の姿はなかった。逃げられちゃったかぁ。
おそらくペルディア内にいた組織の人間が伯爵邸の異変に気が付いて知らせたのだろう。それで急いで荷物をまとめて逃げたと。複数の人間が生活していた痕跡はあるものの、肝心の資料などは何も残っていなかった。
「製造に使うような器具とかも見当たらないし、ここは単なるアジトっぽいね。逃げ出した後だから誰もいないけど、一応みんなで確認よろしく~」
他にも施設があるということなんだろうけど、森の中を全部掘り起こしてみるのもひと苦労だしなぁ。またやることが増えちゃったな。困ったものだ。




