20.
プリエたちに子供を任せて、僕たちは再びペルディアへと戻って来た。
「さぁ、ケリをつけようじゃないか」
どれだけ怯えているのか、伯爵邸はすごい数の警備だった。ま、意味ないんだけどね。1番手薄そうな場所の兵士をアニフィが拘束して触手で首を絞めて失神させる。的確過ぎるし力加減も絶妙だ。どこで覚えてきたんだろう......。
扉も窓も、鍵がかかっていたって内側から普通に開けれちゃうし、アニフィの前では警備など無いも同じだ。
「ごきげんよう、ギャルド・ペルダン」
伯爵家の執務室。その豪華な椅子に座っていたのは、ペルダン伯爵——ではなく、長男のギャルドであった。
「......この警備をどうやって。いや、そんなことよりも......貴様、ラモールだな?」
「おや、バレちゃいましたか。さすがと言っておきましょうかね」
一応狐のお面つけていたんだけど、あっさり看破されちゃったね。どっちかっていうと、僕のことを覚えていたことのほうが驚きだけど。
「ふん、今更何の用だ?貴様は追放された身だろう。許しでも請いに来たか?」
「許し?そんなの必要ありませんね。どちらかというと、それはそちらのほうですし」
「何を言っている?即刻立ち去らねばこの場で息の根を止めてやるぞ」
「おー怖い怖い」
ギャルドは脅しではないとでもいうかもように、机から短剣を取り出して僕に向けた。なんで机にそんな凶器が入ってるんですかねぇ。
「僕がここへ来たのは警告......というより通告ですね。シュヴェーレン公爵との悪だくみは既に王家に知られてるから近いうちにここにも調査隊が来ますよ」
「なに......?それも貴様の仕業だというのか」
「僕は少し手助けをしただけですよ。それもというのは他に何か心当たりが?」
「......貴様が出て行ってからロクなことがない。森の封印は解けるわ、父上やラケーテはふさぎ込んでしまうわ。全て貴様のせいだ!貴様さえ生まれて来なければ全て上手くいっていたんだ!」
お、すごい。テキトーに言ってるだけなんだろうけど当たってる。まぁ、封印は偶然だし、あの2人に関しては自業自得なんだけどね。
しかし全てか。結局は自分たちのことしか考えてないんだよなぁ。そんな人たちに領主たる資格はない。
「どうでもいいけど、ペルダン伯爵家はここまでですよ。伯爵もあなた方兄弟も、裁きを受けていただきます」
「ふざけるな......!何が裁きだ!死ねぇ!ラモール!」
ギャルドが短剣を持って飛びかかってくるが、僕はひょいっと躱してついでに足を払ってあげたら見事なまでに転がっていった。テイム効果で僕自身の能力が上がっているのもあるけど、暇なときにルナやエリィと組手してるから人外2人に比べたら全然速さが足りないよ。
立ち上がったギャルドはまたも短剣を振り回しながら突っ込んで来たので、今度は避けつつ腕を持って投げ飛ばす。ギャルドは思ったより勢いよく飛んでいき、背中から壁に激突した。
「クソッ......なんでだ......なんで出来損ないなんかに......俺は、選ばれたんだ......何が何でもぶっ殺してやる」
気絶しないどころか、何やらブツブツ呟いていて不気味だ。そしてギャルドは懐から何かを取り出して口に含んだ。
「グッ......ラモール、これデ全ておワりだ。キさまもせカイも、ぶっ殺しテやる!」
突如、ギャルドの体が膨張して服が破け、体が黒く変色し始めた。どう見ても異常だ。何か隠し玉はあるだろうと思っていたけど、これはさすがに予想外だ。
「シねぇぇェぇぇ!」
変身を終えたギャルドが襲い掛かってくる。背は3mはあるだろうか......頭が天井に着こうかというほどだ。その大きい体は見せかけではないようでスピードも先ほどとはけた違いだ。とりあえず避けてみると、ギャルドの拳を受けた机が2つに砕けてしまった。
攻撃を避けつつ、体勢を崩そうと足を蹴ってみるけど全く効果が無い。まるで鋼を蹴っているみたいだ。仕方ない、アレを使うか。
——20%解放。エリィをテイムしたことでだいぶ耐えられるようにはなったが、それでもまだ20%だ。妖狐やドラゴンクラスの生き物をテイム出来る機会なんてそうそうあるわけないし、これ以上は気長にいくしかないかも。
向こうも僕の変化に気が付いたのか動きを止めて「グルル......」とうなっている。もう言葉までなくしたか。部屋の外からも何かが壊れる音が頻繁に聞こえてくる。やりすぎないように言っておいたんだけどなぁ。
さて、こっちはどうするかな。僕も強化したとはいえ、武器が無い。まぁあってもあの体には通用するとは思えないけどね。やっぱ物理で押すしかないか~。
しばらく殴り合い——僕は避けてるし一方的に殴ってるだけなんだけど——が続いた。ギャルドの体はところどころが凹んだり変形しているが動きが鈍る様子はない。
このままでは埒が明かない。ならば狙いを変えてみようか。アレが元々人間ならば脳みそは残っているはず。脳に衝撃を与えて揺らせばなんとかなるかもしれない。
ということで部屋を縦横無尽に動き回ってなんとか頭に攻撃を集中させる。身長差がありすぎてそれも簡単なことではない。転ばせたり、足を持って壁にぶつけたりしていると、ようやく動きが鈍ってきた。
「主!無事かの!」
「主殿、すまぬ待たせた!」
勢いよく扉が開いて、ようやくルナとエリィが助けに来てくれた。
「そっちは大丈夫だった?」
「もちろんじゃ!2人ともコテンパンにしてきたわ!」
「しかしこやつは他よりもデカいな」
「しかも硬くてね。どうしようか迷っていたんだ」
「こうなれば手はひとつしかなかろう。エリィ、外で待機するのじゃ」
「仕方あるまい」
エリィは窓を突き破って外に飛び出し、龍化した。なるほど、そういうことか。ルナと連携を取りつつ窓際に誘導し、息を合わせて飛び蹴りを喰らわせた。
ギャルドは窓から飛んでいき、待機していたエリィに掴まれて空中へ放り出され、最後にはブレスをもろに受けて落下した。
うわぁ、ドラゴンのブレスだぁ!実際に見るとすっごい迫力だなぁ。落下して地面に激突したギャルドはボロボロにはなっていたが、それでもまだ原型をと留めていた。あのブレスでも消滅しないなんて恐ろしいほど頑丈だ。
ひと息ついている僕たちの元へアニフィがぽよんぽよんと跳ねながらやって来た。屋敷にどんな被害が出るか分からなかったので、アニフィには屋敷中の資料の収納や人の保護をお願いしていたのだ。
とりあえずこれでひと安心かな。後始末が残ってるけど、それは後で考えるとしよう。




