17.
「じゃ、ドラゴンの涙と鱗についてはそんな感じでよろしく~」
ドラゴンの涙と鱗をどこに売るのかという問題については公爵とお話して、とても欲しがっているという侯爵に手紙を出してもらった。売る代わりに代金は個人の資産から支払うこと、また街の税を引き下げることなどの条件を出した。これなら民に悪影響が出ることも無いだろう。
公爵領の資金についても資料を解読したり公爵に聴取してなんとか目途がたった。まったく、領地の資金まで私物化してるなんてひどい話だ。領都でこれって、他の街はどうなっているんだろうか。そっちも調査しないとなぁ。
メーヴェの働いていた工房は正式に公爵家の管理となって、あのオッサンは追い出されてしまった。元々あの人の所有地でもなかったみたいだ。というか詳しく聞いたら真っ黒な労働環境だった。住み込みで働く代わりに給料らしい給料は殆どなく、サービス残業どころの話ではなかった。ということで、追い出すだけなんて甘すぎるので『道中急にフクロウに路地裏へ引きずり込まれる』の刑に処しちゃいま~す!
工房のほうはメーヴェに好きに使っていいよと伝えたら飛び跳ねて喜んでいた。ただし、夜にはきちんと家に帰るように釘を刺しておく。ジェニーといい、子供のころからワーカホリックなんて最悪だ。
その帰る家についてもジェニーからちょうどいい物件があったと知らされた。というか公爵名義の別荘らしい。なんで自宅と同じ街の中に別荘が必要なんだか......。長年放置されていたので掃除が大変だったが、屋敷と言えるほどに広くて部屋数も多い。今はまだシーニュにハーゼ、メーヴェくらいしか住人はいないが、これからどんどん増えることだろうし料理人なども雇うことを考えた方がいいかも。
どうせ部屋が空いているならと僕たちも宿を引き払ってそっちに移り住んだのだが、何故かルナやエリィも同室だ。まぁ2人とも人間じゃないしそもそも室内に住むという文化もないよね。寝る時も3人で1つのベッドである。僕がルナに抱き着いてモフモフを堪能していると、エリィが真似するように後ろから抱き着いてきて眠るといった形だ。3人とも子供の体だから欲情することはないし、全身に温もりを感じられてこれはこれで悪くない。
「主殿!おかわりだ!」
「むっ、こっちもおかわりなのじゃ!」
2人とも本当によく食べるなぁ。さすが人外というべきか。僕らの周りにはお皿が積み上がっている。というかここお店なんだから、おかわりを頼むべきは僕じゃないんだけどね。まぁ街の経済を回すためにはお金を使うのは悪いことではないし......とどんどん追加注文をしていく。幼女2人が爆食いしている光景ってすさまじいな。単に張り合っているだけのような気もするけど、ドラゴンと妖狐って相性良くないのかな?お互い変にプライドありそうだしなぁ。
「ほれ、子供たちよ、こっちじゃ!」
「なんの、こっちだって負けぬぞ!」
たくさん食べた後は少し休んでから孤児院で運動である。こうして遊んでいる姿だけ見ると、ただの子供なんだけどなぁ。
「いつも本当にありがとうございます。子供たちのこんなに楽しそうな顔を見ることが出来るなんて......」
「気にすることはないって。これが本来の当たり前なんだよ」
ここに住む子供の数も徐々に増えていっている。スラムのような場所で1人で生活している子供たちにプリエが声をかけて連れてきているのだ。ルナ、エリィ、アニフィ、フクロウたちのおかげすっかり馴染んでいる。そんな子供たちの姿を、ブランを頭に乗せた僕とプリエは日向ぼっこをしながら観察していた。シーニュたちが働いているおかげでプリエのほうもだいぶ余裕が出来てきたみたいで良かったよ。
そろそろここも増築が必要なんだけどどうしたものかな。いっそ、新しく建てちゃったほうが早いし何かと都合が良い気もする。......ということで、困ったときのジェニーさーん!
「——孤児院の新しい建物ですか。......かしこまりました。こちらで信用出来そうな職人を手配いたしますわ。費用は受け持ちますので、打ち合わせなどはライ様のほうでお願いしてもよろしいでしょうか?」
「ありがとう!助かるよ~」
「いえ、これくらいしか出来ませんので......。ライ様のおかげで街にも笑顔が増えて、感謝してもしきれませんわ」
ということで、現場の監督権をいただきました。やったね!ただの住居であれば、すでにある建物を使えばいいのだけれど、僕が想定しているのは学校のような教育する場を併設した孤児院だ。簡単な読み書き算数くらいは全員が出来るようにしておきたい。そうすれば子供たちの将来にも役立つだろうし、柔軟な思考を育むことにもつながる。今は教師役が足りないが、将来的には子供大人に関わらず教育を受けられるようにしていくのが狙いだ。
ジェニーに紹介された職人のリーダーは最初こそ懐疑的な視線を向けてきたものの、話が進むにつれて態度を改めて真面目に計画を立ててくれた。
しかし問題もあって、職人の数が少なすぎるということで完成までには年単位の時間を要するとのことだった。こればかりはどうしようもないかなぁ......と諦めかけていたのだが、ここでまたも活躍したのがアニフィだった。資材が運び込まれてきて作業を開始した職人たちを見て、アニフィが手伝いだしたのだ。分裂して触手を器用に使い、どんどん作業が進んでいく。職人たちはもはや作業ではなくアニフィに指示を出しているだけだ。その指示を受けて学習し、更に作業が洗練されていく。
眷属が増えたことでアニフィの力や体力もかなり強化されておりむしろ資材調達のほうが間に合わなかったほどだ。結局、年単位かかると言われていた新孤児院は、わずか1週間ほどで完成してしまったのである。