12.
「——お父様に何をしたんですの?」
朝から定位置に小鳥を見つけたジェニーが詰め寄ってくる。
「なに、少し話をしただけさ。ちゃんと分かってくれて良かったよ」
「どう見ても怯えていましたわよ?支配では駄目と仰ってなかったかしら?」
「国全体を支配しても駄目だよ。今回の場合は、公爵自身が色々とやらかしすぎてて更生の余地がないのと、彼に代わって正しく治めることが出来る人物がいるから必要と判断したまでさ」
「......なるほど、時には力を示すのも大事ということですわね。それで、私は何をすればいいのかしら?」
「そうだなぁ、基本的には好きにしてくれればいいよ。あ、、ひとつだけ......ペルダン伯爵家に関する一切のことは放置してほしいんだ」
「ペルダン?何かありますの?」
「今回公爵とも共謀して悪さしてたんだけど、少し泳がせたいんだよね。あそこは伯爵本人だけどうにかしても意味なさそうだし」
実際、今の伯爵は復活したルナールにビビりまくっているからね。おそらく、実質的に仕事を担っているのは長兄だ。
屋敷にいたころから盗聴してたけど、長兄は常に少し引いた場所から見ていて、ここぞという時に伯爵や次兄に助言のような指示を出していた。あれこそが伯爵家の黒幕だろう。陰から操るタイプが一番厄介だ。だからこそまずは格上である公爵家を抑えておこうと思ってこちらへ来たのだ。
「分かりましたわ。そちらはお任せいたします。これから忙しくなりますわね」
「そうだねぇ。お金の流れも全て洗い出さないといけないし、公爵に賛同して動いてた人もいるはずだから人員も整理しないといけないし、本当に大変だね」
「......手伝ってはいただけませんの?」
「そっちは任せるよ。相談してくれれば助言くらいはするけど、僕は僕でやることあるしね」
「お金に関しては自分でやるか信用できる人に任せないと怖いですし、そもそもその人員すらもいませんし......頭が痛いですわ」
「そう、何よりも大事なのは人だよ。貴族同士の繋がりだとか、牽制のし合いなんてくだらない。まずは人を育てないと何も為せないよ」
「そうですわね。その場も設けませんと......。やることがどんどん増えていきますわ......」
うん、面倒くさすぎて領地経営なんて大変すぎて絶対やりたくないよね~。
「ちなみに現時点でジェニーが信用できる人ってどれくらいいるの?」
「元々私は自分でなんでもやってしまうので、そう多くはありませんわ」
「なるほど。人材育成については少し僕に考えがあるんだ。今すぐにとはいかないけどね」
「本当ですの?それが最優先ですわね。私に出来ることはなんでも言ってくださいまし」
内容も聞かずに何でもするというのは危険なんだが、それだけ信用しているのか切羽詰まっているのか。おそらくは後者だろうが。
まぁこれから公爵領は変わっていくけど、確実に良くはなるだろう。今が悪すぎるというのもあるが。
「ところでイナリのことに関してはどうするつもりなの?考えがあるとか言ってたけど」
「そちらに関しては、民の意識を変えてしまえばいいのですわ。実際、私の父やペルダン伯爵のせいで悪いイメージが先行していますが、イナリ様が暴れたのは元はと言えば人間のせいなのです。イナリ様のお姿を実際に見せて説明すれば受け入れてもらえると思いますわ」
「そうなの?僕、そのへんのこと知らないんだけど......」
そういえばその話は聞いてなかったな。今は僕の眷属だしあんま気にしてなかったな。
「え!聞いてないんですの?一緒にいるんですわよね?」
「まぁ本人が特に気にしてなかったしね......」
「まぁ、私たち人間とは生きている時間も感覚も異なるとは思いますが、まさか気にしていないなんてことは......」
「なんか寝てただけとか言ってたような」
「その通りじゃ。妾が人間なんぞに負けるわけがなかろう」
「ま、まさかイナリ様ですの!?」
「妾の名はルナールじゃ。間違えるでない!」
「し、失礼いたしました」
「ルナ、そんな怖がらせちゃダメだよ」
ルナールっていう名前、そんなに気に入ってるのかな。でも、仮名はルナだって言ったのに......まったく。
「ぬぅ......主がそういうのなら仕方ない」
「本当に一緒にいるんですのね。しかも主ってことは主従関係ですの?」
「そうじゃ。妾は主の眷属であるぞ!」
「はいはい、話が進まないから引っ込んでてね」
「あ、ちょ......主、あああぁぁぁ......」
「だ、大丈夫ですの?」
「問題ないよ。ま、そのへんについてはそんな感じでいこうかな」
人型ならそう恐れられることも無いだろうし。ただし伯爵領ではそうもいかないだろうから別の手段を考える必要があるけど。伯爵は怯えているし、次兄も少し脅かしちゃったしね。
表向きはジェニーに従っているということにすれば民も受け入れやすいだろう。
僕も人員育成計画を始動するとしよう。