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10.



 

 公爵家令嬢、ジェニーとの邂逅(小鳥を介して)の翌日。

 僕はシュヴェーレン公爵家の木に小鳥をとまらせた。いつもより窓が開いている。まるで入ってこいと誘っているかのよう......いや、事実誘っているのだろう。普通は昨日の今日で来るとは思わないだろうに。

 ジェニー・シュヴェーレンは天才であるらしい。少し調べただけですぐに分かった。13歳にしてすでに仕事の一部を任されているほどだ。

 もしや転生者か?とも思ったがその兆候は見られない。転生者なら前世の知識を活かしたことをするはずだ。正体を徹底して隠しているというのならそれはそれで驚愕に値するが......。


「あら、ごきげんよう。今日も来てくださったのね」

「......聞きたいことがある。ジェニー、君はこの世界のことをどう思っている?」


 向こうから声をかけてきたので早速質問をしてみる。さぁ、君はどう答える?

 

「随分と具体性に欠ける質問なのね」

「ならばこの街でもいい。この街は過ごしやすいと思うか?」

「ええ、もちろんよ。私はこの街が大好きだわ」

「そうか。やはり君は貴族なのだな」

「......どういうことかしら?」

「君はこの街を見ているようで見えていないということさ」

「......私は実際に街に出てこの目で見ていますわよ」


 たしかにジェニーは自ら街へ出て、民と直接会話をしているようだ。だが、それだけでは足りないのだ。

 

「それが本当の姿ではないということだ。領主——それも公爵家の令嬢にありのままを見せると思うかい?答えは否だ。当然、醜い所は隠して良い所だけ見せようとする」

「——っ!それは......」

「君たち貴族が裕福な暮らしを出来ているのは誰のおかげだい?その金はどこから来ている?どれだけ御託を並べようと、実際に苦しんでいるのは民だよ。重い税を課せられて毎日満足に食べるのも厳しいが、外に出れば賊に襲われる。そんな生活で常に笑っていられると思う?」


 この街は森を見張る役目を担っている。つまりその分兵士が多いということだ。そして彼ら兵士の生活は領民から搾り取った税で成り立っている。森の封印が解けてからは更に税が重くなって民の生活は苦しくなる一方だ。

 

「私が、間違っていた......?」

「君だけの責任とは言わない。ここの領主は公爵だしね。だが君もその一端を担う者である以上、知っておかなければならないことだ」

「そんな......」


 ジェニーがこの程度で折れてしまうただの天才ならば用はない。だが、自らの間違いを認めて正していけるならば、まだこの街には希望がある。

 

「もうひとつ問おう。国とはなんだ?何が国を国たらしめている?」

「......今度は国ですか。国とは王ですわ。王の方針に従って私たち貴族が動いているんですもの」

「違うな。国とは民だよ。王はそれの代表にすぎない。王がいなくなっても生活は出来るけど、働いて税を納める民がいなければ王も貴族も生活できないだろう?」

「国は民......」

「この街には子供が極端に少ない。何故だ?......答えは簡単だ。自分たち大人が食うにも困っているのに、子供を養う余裕などないからだ。そして人口はどんどん減り、更に生活は苦しくなる悪循環だ」

「たしかに......今思えば子供が少ない。そんなこと、考えもしなかったわ」

「国を作るのは民、そして未来を作るのは子供だ。それが分からないから、自分が幸せならそれで他も幸せだと勘違いをする」


 もしくは自分たち貴族が幸せなら、民がどうなろうと知ったこっちゃないと考えているかだ。その場合は救いようがないけど。


「......今からでもまだ間に合いますでしょうか」

「間に合うさ。本気で変えたいと思っているならね」

「スウィーパーと仰いましたね。......私もその組織に加えていただけませんでしょうか」

「......正気かい?」


 唐突な提案に驚いてしまう。天才と呼ばれている人物ならプライドというものがあるはずだ。それが貴族ならなおさら。組織に加わるというのは、そのプライドを捨てて僕の下につくということだ。


「ええ、もちろんですわ。その力があれば世界を支配することも可能ですのに、目立たないように行動している。洞察力に長け、公爵家令嬢たる私にも物怖じせず意見出来る。信用するには十分ですわ」

「支配ではダメだ。僕が死んだら瓦解してしまうからね。重要なのは、自分たちで考えてよりよい世界を作れるように導くことだ」


 恐怖で支配しても笑顔は得られないしね。逆に、押さえつけた分反発が増える可能性の方が大きい。

 

「ふふ、やっぱり面白いお方ですこと。ますます気に入りましたわ!是非とも私を加えてくださいまし!」

「それはまだ難しいね。こちらは君のことをよく知らないし」

「それもそうですか......。別に見習いとかでもいいんですのよ?この世界を変えるために、まずはこの街から変えてみせますわ!その相談に乗ってくださいまし」


 ジェニー・シュヴェーレン......。天才なだけじゃなく、変化に対応する柔軟性もある。なるほど、これは良い人材だ。


「だが変えるというのは口で言うほど簡単ではないよ?そもそも今の領主は君の父、公爵だろう?」

「私が説得してみせますわ。もしダメなら、別の街の代官として実際に結果を出してみせるという手もありますわね......」

「それもいいけど、この街をどうにかしないと危ないよ?森の封印が解けたこともあって逃げ出そうとしている民もいる。賊がいなくなったし余計にね」

「あら、でも封印されていたイナリ様はあなたが従えているのではなくて?」


 イナリ様?ルナールのことかな。稲荷といえば狐だし。


「......何故そう思う?」

「私、森の封印が解けたと聞いて視察に行きましたのよ?ついでにぺルディアへ寄ってその帰りにあなたに助けられたのですけど。封印が解けたにしては静かすぎるし、同じ時期に賊が討伐され始めた。そして、この街に潜んでいた賊が「フクロウが......狐が......」とうわごとのように言っておりました。それらをまとめれば簡単に分かりますわ」

 「くくっ......ふふふ......すごいな、そこまで見抜いているなんて。たしかにイナリは僕と共にいる。だが、それを民に伝えるわけにはいかないだろう」


 ぺルディアというのはたしか僕の生まれたあの街だ。しかし本当にすごい。ただ賊を狩っていただけなのにここまでつながってしまうとは......。あのお面だって狐なら怖がるかなと思っただけだし。

 

「そのへんはどうとでもなりますわ。私にお任せを」

 



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― 新着の感想 ―
[気になる点] 現状社会では貧しい地域ほど子供が多くて豊かな地域ほど子供が少ないんだけどね この領都の問題は別の理由にした方が良いと思う
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