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真っ赤なバージンロードを歩く友人の背を見てぐっと込み上げるものがあった。
美しい2重のベールの下に肩甲骨が浮く華奢な背中、折れてしまいそうな程に細い二の腕、根元から程よい明るさに染められた柔らかな茶色い髪。どこからどう見ても彼女は美しい花嫁だった。
友人の結婚式に参列するのはこれが3度目で、毎回ウェディングドレスを纏う友人の姿には感動を抑えることができない。初めて参列した時なんかはあまりの美しさに涙が止まらず、親族と間違われる程だった。
時は経ち私は30歳になった。そろそろ参列してもらう側になってもいい頃だというのに、私は今日も一人だ。見返すことのない写真を撮って結婚式の参列者をしている。
昨今、ブーケトスは行わないのが主流らしいがそれもあくまで年齢を重ねたからであって、文化ではなくそのゾーンに入っただけ、ということを友人から聞いた。虚しい気持ちになった。
誓いのキスだ、式が終わる。
緑に囲まれたガラス張りのチャペルの横には、同じくガラス張りの披露宴会場がある。『Welcome our party』可愛らしい筆記体の文字とドライフラワーがおしゃれで愛らしい。新婦の好む雰囲気だと思った。
「萌、綺麗だったね。旦那さんも優しそうだし」
そう言うのは子供の頃からの友人である瑞希だ。小・中・高と同じ道を進み、大学から大きく差が開いた私達はその後の人生もまた大きく違った。私は平凡な会社で普通のOL、瑞希はイケメン高身長高年収の旦那様がいて自身もバリバリ働くキャリアウーマンだ。そして瑞希は見た目も美しい。ツンと尖った鼻に大きな瞳、薄ピンク色をした唇、長い手足。今日着ているオケージョンドレスも、体のラインにフィットするシルエットだがまるでモデルのように着こなしている。
「そうだね。優しいのが一番だよね」
「何?意味深に」
含みを持たせた言い方をした私に瑞希は疑いとからかいが混ざった視線を私に向けた。
余興、祝辞、両親への手紙。披露宴も滞りなく進みそろそろ終盤に差し掛かろうとしているタイミングで私のスマホが揺れた。送り主は見慣れた名前。
『今日家いる?』
私はそれに『21時』とだけ返してスマホを鞄にしまった。