十話 じゃんけんをさせました
十話 じゃんけんをさせました
シンクロするように食べた二人は、唐揚げがいよいよ最後の一個になった時に互いを意識した。
「サイズ、ここは年長さに譲るべきではないかしら」
「いやいや、子供優先でしょ」
二人とも折れる気配はない。
「子供と張り合うなんてみっともない」
シールドがたしなめるが、マダムは折れない。
「私は今回しか食べられないのよ。サイズは食べ食べさせてもらえるでしょ?」
「私だって要の唐揚げは当分食べられないの。大人なら察して私に食べさせて」
サイズはチラリと能を見て、マダムに言った。おそらく能の料理を食べていく覚悟を決めたのだろう。必死さはマダムに引けを取らなかった。
就がサイズにマダムへ譲れと言っても、サイズは折れない。
要とエスパーダはアイコンタクトをしてから頷き合う。
「サイズ、じゃんけん知ってる?」
エスパーダが確認を取った。
「知ってるよ。兎とやってた。兎、よく後出ししたんだよね」
じゃんけんの最低限のルールは知っているようだ。サイズは思い出し怒りをしている。
「マダム、ここはじゃんけんで勝ったほうが食べるというのはどうでしょう?」
「食べられなかったら悔しいじゃない」
「では殴り合いをしますか? 一度は引き取ろうとした子供と」
マダムを想像したのか引いていた。
「そんな事はしません」
「ではじゃんけんで決めましょう。サイズも良いな」
サイズは真剣な顔で頷いた。
マダムは仕方がないと言いたげな顔をする。
唐揚げをかけた真剣勝負が始まる。
「最初はグー!」
要が声をかける。しかしサイズしかグーを出さなかった。
「何なんですの? その、最初はグーという取り決めは」
「え?」
驚いているのは人間達とサイズだけだ。
「小人族は、紙、石、鋏、どれ出すの! で、出すのよ」
マダムの発言にエスパーダとシールドが頷いた。じゃんけんで異文化を感じるとは想定外だ。話はどっちのじゃんけんで進めるかになってしまった。
モメにモメた挙句、最初はグーと言った後、紙、石、鋏……と続ける事にした。
結果から言うとサイズわかった。唐揚げをマダムに見せつけながら食べるその姿を浅ましく思えた。マダムはそんなサイズを見て、本気で悔しがっていた。
「昼間は負けてしまいましたけど晩御飯は譲らなくてよ」
「え? 夜も食べる気ですか?」
エスパーダが露骨にイヤそうな顔をする。
「何? ダメなの?」
マダムはエスパーダに圧をかける。
しかしエスパーダは怯まなかった。
「要に負担がかかり過ぎです」
エスパーダの答えにマダムは気後れしているように見える。
「母さん、目的も果たしたし、そろそろ帰ろう」
シールドに促され、マダムは晩御飯を諦めたようだ。
「サイズ、困った事があったらいつでも連絡して」
「うん」
唐揚げを取り合って、何らかの情が芽生えたのか、サイズは笑顔を見せた。
シールドとマダムが部屋を出ていくと、サイズ以外皆一斉にため息をついた。マダムに対しての認識が皆同じなんだと要は実感した。




