アスタリスクの力
「彼、少し混ざっているみたいだね。」
「どういうことだ?」
「キミの身体にはボクがキミを直す時に使ったボクの細胞のようなものが混じっているんだ。さっきキミが彼に触れた拍子に、キミの身体から彼にボクの細胞が混じったみたいだ。大した量じゃないから、精々身体能力が少し向上するくらいだよ。放っておいても平気かな。」
嫌な予感がする。
「少しって、どのくらいだ?小石を片手で割るなんて、人間業じゃないよ。」
「そうだなあ。地球人の頭くらいは軽く握り潰せるし、本気で走れば車より速いかな。でも、キミほどじゃない。キミは地球の中心で地球人破壊爆弾が爆発しても、どうにか生き延びるくらいには肌を硬質化させられるけど、あれなら今のボクでも簡単に殺せる。勿論キミにもね。」
マズい。俺は何となく自分にできることを悟った。芝にも同じ変化があったのだとすれば、芝の性格上、真っ先にするであろうことがある。
「芝の所に行かないと。」
「ちょっと、勝手な行動はやめてと…。」
「駄目だ!今すぐ行く!」
俺は意識を集中させた。何となく、芝が今どこにいるのか分かる。脚に力が漲ってきた。俺は力強く大地を蹴った。
「今回だけだからね。」
アルテミスも悠々と並走している。俺は景色が風のように過ぎるのを感じながら、人に見つからないように裏道を駆けた。
「これを使って。」
アルテミスはリュックから銃のようなものを投げてきた。
「それはアスタリスク星人の細胞だけを破壊する銃だ。大丈夫。キミや璃々朱ほど深くアスタリスクの細胞に侵蝕されていないから、彼は普通の人間に戻るだけだよ。キミなら死ぬけど。」
「…本当に?」
俺は銃を眺めながら言った。どう見ても殺傷能力がありそうだ。
「んー、副作用はあるかも。でも、仕方ないでしょ。彼が自らアスタリスクの細胞を返してくれたらいいけど、そんなことするはずがないもの。ボクを信じられないなら、このまま引き返してもいいよ。別に彼を野放しにしても問題はないからね。」
「いや、信じるよ。ありがとう、アルテミス。」
芝を放っておくわけにはいかない。俺の想像通りなら、俺が芝の人生を決定的に狂わせてしまうことになる。芝の気配はすぐそこまで迫っている。俺は大きく飛び上がった。
「芝!」
俺はとあるアパートのベランダで立ち尽くした。遅かった。目の前には血と涙でぐしょぐしょになった顔を醜く歪めている数人の学生の姿があった。その中心で悠然と返り血をまといながら恍惚の表情を浮かべているのは、紛れもなく芝だった。
アルテミスにとっては、地球を調査している宇宙人がいると多くの地球人に知られて妨害されるかもしれないことが問題であって、超能力を得た人間が別の人間を殺して回っても、自分が関わっていることさえ知られなければ関係ないことなのです。