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地球調査員としての一月  作者: 馬之群
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友人の異変

それからしばらくアルテミスに論文を用意し続けていると、俺のスマホにメッセージが届いた。大学の友人からだ。

「悪い、忘れてた。俺、友達とハイキングに行く約束をしてたんだ。少し外出してもいいか?」

「駄目だよ。他の地球人に変なことを吹き込まれたら面倒だからね。」

冗談じゃない。俺はもう何週間も缶詰になっているんだ。俺はもう少し粘った。


「でも、前々から約束していたんだよ。ドタキャンしたらかえって怪しまれて面倒なことになる。」

アルテミスは溜息を吐いた。

「仕方ないな。だったらボクも連れて行って。」

大学の友達と遊ぶのに中学生の妹を同伴するのは流石にマズい。


「いや、それは…。」

「キミに拒否権はないから。実際にキミ以外の地球人も見てみないと。さあ、早く。」

俺は強引に連れ出された。仕方がない。俺の友達は別に聖人君子というわけではないが、別に悪人というわけでもない。類は友を呼ぶというやつだ。会わせても問題はないだろう。


「悪い、遅くなった。」

俺は友達に謝った。三十分も遅れてしまった。友達は長い前髪の下で目を円くしているようだった。

「いや、それは良いけど、その子は?」


「初めまして。璃々朱です。兄がお世話になっています。」

アルテミスはぺこりとお辞儀した。

「初めまして、璃々朱ちゃん。兄貴に似ずに可愛いねえ。」

「うっさい!」

俺は友達の肩を思いっきり叩いた。


「やめろよ。」

向こうは俺の手を払い除けると、妹の荷物を持って颯爽と山に登り始めた。俺達はどんどん山道に分け入った。俺の心配をよそに、アルテミスは完璧に璃々朱を演じていたし、俺も妹も友達さえもいつも以上に元気で、険しい山道をすたすたと登って、あっという間に頂上に着いた。俺は自分がもう人間ではないことをひしひしと実感した。


「大分体力がついたんだな、芝。」

「お前もな。三時間は掛かると思っていたのに、一時間も掛からなかったな。」

きっとアルテミスが俺達を生き返らせたときに何かしたのだろう。身体が異様に軽い。力が漲ってくる。今なら岩をも砕けるという確信がある。

そうなると引っ掛かるのが、芝は何故急に体力がついたのか、ということだ。


「ねえ、川で遊んできてもいい?」

唐突に妹が言った。

「あまり流れの速い所に行くなよ。」

俺は一応声を掛けたが、アルテミスにそのような心配は無用だろう。俺は芝の座っている隣の岩に腰掛けた。


「中学生の頃にこのくらい体力があったら、オレを虐めた奴らにやり返せたかな。」

「嗚呼。そもそも虐められなかったと思うよ。」

芝は眉間に皺を寄せた。足元の石を拾い上げ、ギュッと握り締めたかと思うと、川に放った。石は軽やかに数回水面を跳ねた。


「虐められて不登校にさえなっていなければ、オレはこんな三流大学に来ることもなかったんだ。あいつらは虐めの事実を隠して呑気に私立大学に推薦で入って毎日どんちゃん騒ぎ、不公平だと思わないか?」


「そうだな。この世の中は狂ってるよ。」

俺は相槌を打った。

「なあ、芝。もし、明日地球が滅亡するとしたら、お前はどうする?」

遠くで妹が動きを止めた。やはり聞いているのか。


「さあな。包丁を持ってあいつらに襲い掛かるかも。間違ってもお前とは過ごさないね。」

「俺だってそうだよ。」

芝は再び小石を拾い上げた。

「まずは足の腱を斬って逃げられないようにして、じわじわと嬲り殺しにしてやる。簡単に死なせてやるものか。」


「おい…。」

俺が芝を落ち着かせようとしたその時、芝の持っていた小石が鈍い音を立てて砕けた。俺は衝撃のあまり、思わず息を呑んだ。


「嘘だろ…。」

一番驚いているのは、芝自身のようだった。間違いなくアスタリスクに関わりがある。俺ははぐらかすように言った。

「この辺りの地層は随分脆いみたいだな。かそう岩、いや、花崗岩だっけ?あれだ、きっと。」


芝はじっと自分の手を見詰めている。

「…芝?」

「嗚呼、わりい。何でもねえよ。もう帰ろうぜ。ハイペースで登ったから疲れちまったよ。」

「お、おう…。」

俺は妹を呼び、三人でそそくさと下山した。芝と別れた所で、アルテミスが言った。

念の為言っておきますが、主人公は頭がよくありません。花崗岩は別に風化して崩れやすくなっている石のことではありません。

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