地球人破壊爆弾
俺の不安とは裏腹に、地球の調査は非常に単純で俺でもできる内容だった。簡単に言うと、人類史のレポートを調べ上げるとか、心理学や法律、その他様々な学問の論文を無作為に抽出してアルテミスに渡すだけだ。時には俺個人の意見を求められるが、特に回答に困るような質問でもなかった。
璃々朱の母親は部屋に引き籠っている俺を無視し続けたし、アルテミスは母親の目を盗んで俺に会うことくらい朝飯前だった。そうして数週間が過ぎた。
「人類は合格点を取れそう?」
「それを判断するのはボクじゃないよ。」
アルテミスは論文を十本同時に読みながら答えた。
「地球人を排除するって決まったら、宇宙船がやってきて辺りを焼け野原にするわけ?」
アルテミスはクスクス笑った。
「それじゃあ、ボクたちが利用できる資源もなくなっちゃうよ。これを見て。」
アルテミスが象牙質の箱を複雑に動かして取り出したのは、黒くて表面が砂のようになっている、ビー玉大の球体だった。球体ではあるのだが、絶えず表面の粒子が零れ落ち、代わりに中から黒い砂が湧き出しているように見える。零れた砂の行方は分からない。どう見ても地球上の物ではない。
「これは地球人破壊爆弾、とでも呼べばいいかな。キミにもらった論文をもとに、ボクが作った物だ。これが起爆すると、計算上は3分で地球上から地球人、即ち人類だけが死滅する。人道的でスマートな兵器だと思わない?」
無邪気に笑いながら言う妹を見て、俺は背筋がゾクッとするのを感じた。
「それを使う機会がないことを願うよ。」
「ふふふ。」
これさえどうにかできれば、地球は滅亡せずに済むのだろうに、随分あっさりと見せてくれるんだな。
「触っても平気?」
「どうぞ。」
ひんやりしている。表面の粒子が細かいためか、見た目より滑らかな手触りだ。
「もういいかな?」
俺はアルテミスに爆弾を渡した。アルテミスは爆弾を箱の中に戻し、ごちゃごちゃと動かして鍵をかけた。
「そんな管理でいいの?うっかり爆発したりしない?」
「この箱、キミが思っているより頑丈だよ。それに、この爆弾はどんな衝撃を受けても爆発しない。つまり、爆弾を解除したり破壊したりすることは不可能だってこと。だからと言って、これを隠しても無駄だからね。」
俺は心を読まれたようでドキッとした。
「これは音声認識型の爆弾だ。その性能がなかなかの優れものでね、ボクがここで起爆コードを言えば、たとえ太陽系の端にあったとしても3分後には爆発する。まあ、そこまで遠いと爆発圏外だから、流石に安全だけど。そこまでの技術力はなさそうだからね。」
何てありがたいお話だ。折角見えた希望を瞬時に打ち砕いてくれる。
「ご忠告どうも。そんなに優れた爆弾なら、いっそ箱なんていらないんじゃないの?」
「この箱は爆弾をセットする時に役立つのさ。地球の中心部で爆発した方が好都合だから、爆弾を地球の核まで運ばないといけない。その時、この箱の中に入れたまま運ぶと、安全に爆弾を輸送できる。この箱は外からどんな圧力や衝撃が加わっても中に伝えないけど、中で爆発したら粒子が外に散らばるようになっているのさ。」
よく分からないが、凄い箱だということは分かった。
「凄いな。」
「だろう?地球人にもこの素晴らしさが分かるか。」
アルテミスは得意げに笑っている。どうやら、ただ自慢したかっただけのようだ。
「アスタリスクの連中は、作戦の成否にばかり目が行って、背後の努力を認めようとしない。ボクがこんなに苦労したのに、『爆弾が完成したなら、一刻も早くセットしろ』とそれだけだ。」
「爆発させないかもしれないのに、もうセットするのか?」
俺は慌てた。俺にどうにかできるとは思っていないが、あまりに早すぎる。
「今取り出したのは最終確認だ。問題なさそうだったから、このままセットする。」
「こんなに凄いのに勿体ないなあ。折角だから箱も見せてよ。」
「そんなに言ってくれるとは嬉しいな。じっくり鑑賞してくれ。ボクは地球に穴を開けないと。言っておくが、五分と掛からないからな。余計なことはしないでよ。」
アルテミスは地球人を随分と甘く見ているようだ。まあ、実際ここまで舐められても、俺には爆弾をどうこうする手段がないわけで、この対応は至極もっともだった。数分後、アルテミスは戻ってきて、俺の見ている前で庭から箱を穴に投げ入れた。箱はどこまでも落ちていき、アルテミスは満足そうに穴を塞いで戻っていった。
これで破滅へのカウントダウンが始まったわけだ。
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