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小さな妖精に転生しました  作者: fe
二章 2つの満月
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046. 形見回収

「なんでだよ! なんで行っちゃダメなんだ!?」

オレは父さんに食ってかかった。


「はぁ……、何度も説明してるだろう? もうすぐ"双子神"様が重なるんだ。河は水没するから近寄るな。今日はちゃんと家に居ておけよ?」


 それじゃダメだ! 本当に今日河が水没なんてするんだったら、それまでになんとか秘密基地に行かないと。


「ウソだ! 去年だって"双子神"様は重なってたのに、べつに水没なんかしてなかったじゃん!」


 そうだ、去年も一昨年もその前も、秘密基地はべつに水没なんてしてなかった。もし本当に河が水没したとしても、秘密基地は大丈夫なハズだ。


「あのなぁ、今年は去年までと事情が違うんだよ。お前はまだ小さかったから覚えてないかもしれないけど、もともと"双子神"様のお力は凄いものなんだ」


 父さんは目頭を押さえながらオレに色々と言ってくる。


「お前たちにも船荷の積み下ろしを手伝ってもらってたから、見てただろう? 王都の船が全部避難するところを。それほど危ないんだ。去年や一昨年は船の避難なんてしてなかっただろう?」


 たしかにそうだ。王都の動ける船はぜーんぶ昨日までに河上へ向かって行った。さらに、動かせない大きな船は河から引き揚げられてたんだ。


 本当に? 本当に秘密基地も沈んじゃうのか?


「分かったな? じゃぁ、父さんは見回りがあるからもう行くぞ」

そう言って、父さんはオレの頭に手を乗せた。


「お前も2人のお兄ちゃんなんだ。いつまでも駄々をこねてないで、弟たちを頼んだぞ。じゃ、行ってくるからな」


 そうして父さんは手を離し、家を出て行った。母さんも寄り合いに行っているから今はいない。行くなら今しかない。



「お、お兄ちゃん……」


「大丈夫だ、セント。お前の宝物は兄ちゃんが絶対取ってきてやるからな」

オレは半泣きのセントに目線を合わせて安心させてやる。


「だ、だめだよ……。ぼくもう大丈夫だから、宝物なくても大丈夫だから」


「なに言ってんだ! 親の形見なんだろ!? 大丈夫なワケあるか!」

オレやカインと違って、セントの本当の親はもう死んじまってる。形見をそんな簡単に諦めきれるハズなんかない。


「まぁまぁ兄さん、ボクも行くよ。船着き場の上から河上を見張って、水が来たら大声で知らせるからさ。それならセントも安心だろ?」


 カインがもしもの場合の安全策を提案してきた。それならもし本当に秘密基地が水没するとしても安全なハズだ。カインはマイペースだけど、オレよりしっかりしてるからな。安心できる。


「う、うん……」

セントもどうにか納得したようだ。


「よし、じゃぁサクっと取ってこよう! 秘密基地まで行ってくるだけだ。父さんや母さんが帰ってくるまでに戻ってくるさ」


「うん。じゃぁね、セント。ちゃんと家で待っててね」




 そうしてオレと弟のカインは秘密基地に向かって走り出す。でも、オレたちがいつも使っていた船着き場への通用門は閉じられていた。くそ、どうしてなんだ。東門には大人たちが大勢たむろしてる。どうすれば良い?


「うーん。兄さん、これは困ったね。どうしよっか?」


「どっかから城壁を越えられれば良いんだけど……。南門から出てこっちまで回ってくるか?」

南門まで行って外に出てから、街の外をぐるりと回れば秘密基地までたどり着けるハズだ。


「それだと東門の前を通るときに見つかっちゃうよ。それに、たぶん南門も出してもらえないんじゃないかなぁ……。そうだ!」


「ん? なんか良いの思いついたか?」


「うんうん。前にさ、みんなで1度秘密基地の奥に行ってみたことあったじゃない?」


「ああ……、そうか!」


 仲間内の誰だったかが、真っ暗な秘密基地の奥に何があるのかとか言い出して、奥に行ったことがあった。危ないからやめようと止めたけど、ビビッて付いてこれねーんだとか言ってきたから、言い合いになって結局みんなで秘密基地の奥に行ったんだ。


「そうそう、秘密基地の奥って街の中の川に繋がってたよね。そっちからなら行けるんじゃないかなぁ」


「よし、ナイスだ! 行こう」

さすがカインだ。




 秘密基地に繋がる小川に行ってみると、そこにも大人たちが3人見張っていた。くそ、なんでこんなに厳重なんだよ。


「あ、見て見て。大人たちが離れていくよ。どうやらずっと見てるワケじゃなくて、定期的に見回ってるっぽいね」


「そっか、じゃぁタイミングを見てダッシュするぞ!」


 オレとカインは大人たちが十分離れるのを待って、誰にも見つからないように小川に下り、小さい歩道を進んでトンネルに入った。


「たしか、このまままっすぐ進めば秘密基地だったよね」


「おう、急ぐぞ!」

このトンネルに入ってから秘密基地までは、けっこう分かれ道が多かったと思う。でも前に秘密基地からここまで来たときは、迷わないようにまっすぐの道だけを進んだんだ。逆にこっちから向こうへ行くのだって、まっすぐ行けば着けるハズだ。



 しばらく走ってようやく秘密基地まで到着できた。良かった、やっぱり水没なんてしてないじゃん。


「ねぇ、なんか聞こえない……? サーっていうような」

カインがキョロキョロしながら言う。


「あ? 気のせいじゃないか?」


「うーん、ボクちょっと外を確認してくるね」

そう言ってカインは秘密基地の外へ出て行った。どうやら秘密基地の外側も、べつに水没なんてしてないみたいだな。


「おう、すぐ戻って来いよ。っと、そんなことより……」


 カインの宝物は……、あった。ついでにみんなのも持って行ってやるか。む、なんか音がしてるな……。さっきカインが言ってた音か? だんだん大きくなってきてるような……?


「おーい、カイン!」

「なにー? 河上は大丈夫だよー。 あ、待って! やばい!!」


 ん? どうしたんだ?

いつもマイペースなカインが突然慌てだした。


「大変だ! 兄さん! 早くこっちに来て! 船着き場まで登ってきて!!」


 なんだなんだ? どうしたんだ?


 そのときにはもう、ザーって音はザザザザザ!という嵐の日のような音に変わっていて……。


「河下から水が逆流してくる! 早く!」

「え? 河下から水が?」


 オレが急いで船着き場まで行こうとすると、秘密基地から船着き場までの普段水がない場所は、すでに水で満たされていた。ヤバい、もう船着き場までは行けない。河下を見ると凄い高さの水が迫って来る!


 なんだアレ!? なんで水が下から流れてくるんだ!?


「兄さん早く!」

 カインは……、船着き場の上からオレを見ていた。良かった、カインは助かる。


「カイン! これを頼む!」


 すでに音は、ズゴゴゴゴゴ!という聞いたこともないような大きな音になっていたけど、オレは負けずに叫んでセントの宝物をカインに投げ渡す。


 カインがキャッチするのを確認した次の瞬間、オレは横殴りの水に押し流された。



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― 新着の感想 ―
[良い点] セントの親の形見が置いてある、ときちんと説明しないあたりが子供らしい とーちゃんも子供の話を最後まできちんと聞いてやる姿勢がないのが悲劇を生む FAIRY FIRE FIGHTERのスーパ…
[一言] ここまで一気に拝読しました。 双子って海と嵐かなにかかな? 城から出陣していった物々しい人達はこの対策? 意思疎通ゼロの要請と人間達の織りなす悲喜こもごも、この先も楽しみです。
[一言] 逆流?海嘯?が起きたんかな。
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