004. 王都
うっはー、すっご!
遠目に大きそうな街が見えるよ。
野営をした日から3日が経っていた。
途中、町や村は見かけたけど立ち寄ることはなく、どうやらこの一行はかなりの強行軍で進んでいるんだと理解していたけど、そんな旅ももうじき終わるのかもしれない。
見渡す限りの大草原に、ところどころまっすぐな木が生えている。少し小高い丘に大きそうな街がそびえ、まるで丘が帽子を被っているようだ。遠すぎてまだよくわからないけど、とんがり屋根の塔もいくつか見える。あれはお城か? お城があるのか!?
まわりの騎士達は誰もがあの街に目をやり、安堵や懐かしさといった表情を見せた。あの大きそうな街が目的地なんだろうな、そう思わせるには十分なリアクションだよね。道中何度か狼のような魔物とかに襲われたけど、危なげなく対処されていたよ。よっぽどあの野盗がイレギュラーだったのかもしれないね。
街のそばには大きな河もあるようで、街が近づいてくると大きめの船が行き交っているのが見えてくる。不規則に曲がりくねっているように見えるため、運河ではなく自然の河が隣接してるっぽい。
太陽は後ろにあるので河面がキラキラと輝くようなことはなかったけど、その分街はまるで私を歓迎するとでも言わんばかりに、夕日をいっぱいに浴びて茜く美しく輝いている。反対側から見るのもきっとすごいだろうな。夕日を背にシルエットとなった街とキラキラと橙色に反射した河面の対比は、美しくない筈がないよ。
近づいたことで、やっぱりあの街は大きいのだと判断できた。街は大きな壁に囲まれているから、ここからじゃ中がどうなっているのかわからないね。早く入りたい。
これまでの道中で見かけた街も世界遺産の街並みのようでかなり興奮した。そして今しがた見えている大きな街にも、私のテンションは上がりっぱなしだった。何を隠そう、私は中世西洋の街並みが大好きなのだ。というか、ファンタジーな街並みが大好きなのだ。
前世の記憶はほとんどないけれど、たぶん前世でヨーロッパ旅行をしてもこれほど感動しなかったんじゃないかな。何せどれだけ中世っぽい街並みでも、車などの現代文明的なものが絶対視界に入る筈だもんね。でもここは生の世界、実物ライブ体験中なのだ! しかも魔法があり自分のような妖精もいるファンタジー世界! テンション上がらないわけないでしょ!
そうこうしている内に、街の入り口が近づいてきた。街は城壁のような大きな壁に囲まれ、これまた城門のようなめちゃくちゃ良さげなバカでかい門がある。門の上は見張り台だろうか、少し高くなっていた。
街の付近の道は舗装されているようで、これまでの地獄のような揺れが大分マシになっていた。うれしい。ずっとガタゴトガタゴトと進んでいた馬車の音は収まり、今では馬の蹄の音がカッポカッポと響くのだった。
でも大きな街にしては出入りしている人を見かけないね。検問とかしていて街に入りたい人の行列ができているイメージだったけど、そんなことはないみたいだ。門の通過はノンストップだった。ただ、1人の新人ぽい門番さんが放心していたのか、騎士の1人に注意をされていた。頑張れ新人くん、ちょっと挙動不審だったぞ。見ていた私は思わず苦笑いしてしまった。
門を抜けると全体的に白っぽい壁と赤い屋根の建物が立ち並んだ街並みが出迎えてくれる。すごく大きな街だ。大通りは3階建て、少し奥まったところは2階建ての建物が多いように見える。少ないが4階建て以上の建物もあった。街が丘の上にあるからだろう、中心に向かって上り坂になってる。
そしてやっぱりお城があった! お城だ! すご!
ただ、夕暮れ時だからかな、どこか寂れた雰囲気も感じてしまう。窓辺には植木鉢が置かれている建物が多いけど、花が咲いているなんてことはない。何より人通りがまばらだ。街の城壁付近なんて壁の影のせいで真っ暗だし、寂しげな雰囲気がすごい。
それに、私はどこかもっとファンタジーなモノを期待していたんだと思う。街並みは思ったより普通で、魔法陣が光っていたりクリスタルが浮いていたりといったことは全くなかった。これには正直残念だ。
まばらとは言え街の人はおり、そんな街の人たちはなんだかザワザワしてこちらを見ている。貴族の馬車が珍しいのかな。そんなザワザワとしだした落ち着かない雰囲気に包まれ、一行は私を馬車の屋根に乗せたまま街の奥へ奥へカッポカッポと登って行くのだった。
お城入れるかな? 入りたいな。