337. 誤算
畜生、誤算だった!
妖精の治癒効果は垂れ流しで周囲の生物全てに影響すると思っていたのに。近付けば敵だった帝国兵すら無条件で怪我が治ったって話じゃなかったのかよ!
コフィンとヨゼフスを出し抜いて妖精を捕まえたまでは良かった。
妖精の治癒効果があればこの大雪の中でも集落外を移動できると思っていたが、まさかこの妖精、治癒効果を無効にできるとはなぁ。
このままじゃ俺様が大雪でくたばっちまうじゃねぇか!
コフィンが別行動を提案した後、俺は1人で筋肉野郎を捜したんだ。
ボードゲームが無くなったとかの騒ぎの後、変な草が一面に生えて周りが騒いでいたとき、筋肉野郎だけがその場から居なくなっていたからだ。
そしたらどうだ、筋肉野郎が知らねぇ男と妖精とで仲良くお話してやがるじゃねぇか。
妖精はすぐに上空へ飛び上がったが、しばらくして畑に下りてきて変な草をむしっていた。すかさず俺はその妖精をふん捕まえたってぇ訳だ。
そしてそのまま村を出た。
コフィンとヨゼフスとの協力関係は妖精を見付けるまでだったからだ。あの2人の目的も妖精を自国へ連れ帰ること。誰かが妖精を捕まえたなら、そこからは争奪戦が始まる。
だから俺は村を出た。そういう契約だったんだから奴らも文句は言わねぇだろう。
しかし失敗した。流石に荷物は取ってくるべきだった。
真っ白な地面と薄灰色の空の境目がほとんど分からねぇ。
腰鞄を少し開けて中身を確認する。
良かった。逃げてはいねぇようだ。ガラス玉のような緑の目が俺を睨み返してくる。
縄でぐるぐる巻きにしてやったからな、体は動かせねぇだろう。飛ぶことすらできねぇ筈だ。
「おい! 俺様を癒せ! 早く! 畜生、作り物みてぇな顔しやがってよぉ!」
何を言っても妖精は癒すどころか声すら出しやがらねぇ。
かなり身近な奴しか声を聞いたことがねぇってぇ話だったからな。王都じゃ妖精の声を聞いたのはサブマスと冒険者2、3人って話だった。
俺様は会話相手に相応しくねぇってか? 畜生が。
大雪の中、なんとか足を動かす。
後ろを振り返れば今付けたばかりの足跡が既に消えていた。今更引き返せねぇ距離だ。周辺にゃ木すら生えていない。隣町まで歩ききるしかねぇ。
幸い風は弱い。荷物は置いてきたとは言え、携帯食料くらいは持っている。装備も万全。足の傷は治ったんだ。雪くらいなんだってんだよ。
こんなところで死ぬ訳にゃいかねぇだろ。思い出せ、ここまで来た理由を。
冒険者になったのも、傷を負っても冒険者を続けたのも、そして妖精を追ってこんなクソ田舎まできたのも、全ては妹の病気を治すためだ。
妖精は捕まえた。後は帰るだけだ。簡単な仕事だろう? なんてったって、俺様は最強のお兄ちゃんなんだからなぁ!