330. 手がすべった
「わわ……、何処ですか? ここは」
無事召喚が成功したようで、ボードゲームの上に私そっくりだけど無表情で片腕が木製の動く人形が転がりでてきた。けど、なんか違和感。
あ、言葉が異世界語なのか。
「や、魔王ひさしぶり。ここはファルシアンって国の北東地域だよ」
「……は? お前クソ妖せぇ、うぐっ、……コレハコレハ、お姉様」
「……は? お姉様?」
私に気づいて日本語になったようだけど、突然のお姉様呼び。中身が関西弁男だと思うとなかなかにキモい。声が可愛らしくなってるからまだ許せるけど……。
なんだなんだ、まさか小さくなって脳みそまで小さくなったって?
「い、いえ。私の左腕ガそう呼べト、ウルサイのデスワ」
は? 左腕?
アレか? 中学2年生あたりの思春期ボーイたちが痛々しい言動をとるようになってしまうっていう、厨二病ってヤツ?
「は、はなれろ! 俺の左腕の封印が解ける前にッ! ってコト?」
「あ? 何がイエそうではありませんワ、オホホホ」
「か、関西弁男のお嬢様言葉……、だと!? ねぇねぇ、ちょっと今の言葉、ありませんワのワを下げてもう1回言ってみてよ」
「……ありませんワ」
「あはは! あはははは! おなじ言葉なのにお嬢様が関西のオッサンになった! あはははは!」
「……御用ガないようデしたら、森へ帰シテいただきたいノデスガ?」
ん? 森? 森へお帰りってヤツ?
ああ、神域の森にいたんだっけ? でもあの森、丸ハゲになってなかった? いや、そんなことより……。
「地球の知識だよ。ここより文明の進んだ地球の何かで、ワー妖精様スゴーイってのをやりたいから呼んだの」
「え……、ダル。私モ地球の知識ナドほとんどありませんヨ。コチラに来テ1000年も経ッテいるのデスモノ。色々と記憶の彼方デスワ」
「1000年って、アンタ1000年間封印されてたじゃん。体感ならもっと短いんじゃないの?」
あ、でも魔物討伐の旅したり、神の僕みたいなのと戦ったり、世界焼いて衛星壊したりしてたんだっけ? そこそこ異世界の活動期間も長いのかな。復活後の見た目高校生っぽかったけど。
「まぁ……。で、何ガお知りにナリたいのデスノ? アマリ専門的な知識はございませんワヨ」
「塩だよ、塩」
「塩? 塩くらい、お姉様ならいくらデモ出せるノデハ? 聞きましたヨ、次代の封印の木は全てお姉様ガお出しにナッタト。塩くらい余裕デショウ?」
「私がいるときしか出ないんじゃダメなんだよ。私がいなくても塩が出る地球の知識、何かない? この地域の特産品にできるんだったらなおヨシ」
「ハァ――」
なにそのクソデカため息。
目を閉じてヤレヤレって感じで両手を上げて顔を振る魔王。そんな仕草じゃ立派なお嬢様になれないよ?
「良いデスカ? なにも地球の知識にこだわる必要はないのではナクテ? 塩の実ガなる植物でも生やしておけば良いデショウ。植物ナラ好きに創造できるノデスヨネ?」
「なるほど、天才か?」
「どうせ冬で畑モ使ってないノデショウし、さっそくその辺の畑に生やしてしまえばイカガ?」
よーし、やってやるよ! 畑は薄っすら雪に埋もれてるけど問題ないでしょ。いけ、なんか塩の実ができる草とか生えろ~!
「ところで、お姉様」
「ん?」
今集中してるから話しかけないで欲しいんだけど。
「私、この時代のコト、色々と学んだのデスノヨ?」
「学んだって誰に?」
うーん、塩の実ってどんなだ? 割ると中に粉状の塩が詰まってる感じで良いかな?
「お姉様が森に置いテいった姫がイタデショウ。あの姫はトテモ語学が堪能ナようデス。なんでも、カティヌールという国は周辺諸国を情報戦デ制しているノデスッテ」
「ふーん?」
高さは小麦くらいで、実は人間の拳くらい……、ぬぬぬ。
「それデ、私も、カティヌール王国やファルシアン王国の言葉を覚えたノデスヨ。アノ姫の教えは分カリやすかったデスワ」
まずはテストとして1本だけ生やしてみよう。思ってたのと違うのが生えてきたらやり直せばいいや。
「最初に姫が日本語を覚えてクダサッテ大変助かりマシタノ」
「え? マジで? ってか姫ってムニ姫か。あの人日本語覚えたの? ……もしかして関西弁だったりする?」
「……まぁ、ソレも仕方のないコトデショウ」
マジか! あのザ・お姫様が関西弁話すの? なにそれおもしろ。って、あ。
手がすべった。
「うっわ、えっぐ」
おい、素が出てるぞエセお嬢様。
ってか、そんなエグくないでしょ失礼な。ちょっとミスったけど大丈夫大丈夫、問題ないって。