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小さな妖精に転生しました  作者: fe
八章 混迷
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321. 辿った先で

「あははは! お兄ちゃん! あははは!」


 結界内から楽しそうにトロールを切り刻むティレス。それを同じく結界内で眺めている俺、シルエラ、そしてカドケス。

 俺が国境から戻りティレスに再会して以降、間違いなく1番の笑顔だな。余程剣で魔物と戦ってみたかったらしい。結界に群がるトロールに向けて剣を突き出しているだけだが……、まぁ、本人が楽しいのならそれで良いか。

 笑顔のティレスと真顔のシルエラ、ドン引きのカドケスの対比が面白いな。


 もう冬も近いがこの森の木々は葉を落とさない種類のため鬱蒼(うっそう)と生い茂っている。ガルム期は完全に明け太陽も出ているが薄暗い。冷たい風が土の濡れたような苔むした匂いを運んできていた。



「あははは! 斬っても斬っても回復する! 無限に討伐できる!」


「それは無限に討伐できてるとは言わない。よく見ろ、1匹も倒せていないじゃないか。無限に戦っているだけだ。疲れるぞ?」


 トロール共は膨大な魔力に寄って来るらしい。ダスターの報告どおりだ。俺が光の妖精剣を抜かない限りティレスに群がっていく。

 俺は魔力を感じることはできないが、エルンの町の魔法職がトロールと勘違いした程なのだ。ティレスの魔力は膨大なのだろう。


「ふぅ。じゃぁ次は……」


 突然真顔に戻ったティレスは、そう言って(にお)い玉をトロールに投げつけた。トロール共が数歩後退り攻撃が止む。魔力に引き寄せられつつも臭くてたまらないと言った感じに見えるな。


「なるほど、こうなるのね」


「おいティレス、満足したか?」


「はい。名残惜しいけれども調査もしなければ」


 覚えていたか。

 そう、元々はティレスが剣で魔物と戦いたいという願望を満たすためにここトロールの森に来たのだが、ちょうどトロールの森に行く調査依頼を冒険者ギルドで見つけたのだ。だからついでとばかりに受注してきた。


 調査内容は3つ。

 3日前に大量のトロールが暴れていた原因の調査、同じく3日前に鳴り響いたという爆発音の調査、最後に最近トロールが罠にかからないのは偶然か否かの確認だ。

 魔法職の男も言っていた内容だな。


「しかし、こうもトロールが嬢ちゃんに寄ってくるとなると調査は難しいんじゃないか?」


 カドケスが結界の周りのトロールを見回しながらそう懸念を漏らす。


「いやな、トロールが脅威だと言っているんじゃない。アンタ達の強さは理解したさ。集まってきたトロールを排除するなんざアンタ達なら簡単だろう? だが調査となるとトロールの普段の行動を観察しなければならんが、こうも集まってくるんじゃぁ行動観察なんて無理って話だ」


「確かに。じゃぁとりあえず仕掛けてある罠の状況を見てまわろうか。そうしながら大規模な爆発跡があるか探そう。それならできるだろう?」


「それだとトロールが暴れていた原因は分からんと思うのだが……」


「なぁに、暴れていたのも爆発も同じ3日前だ。無関係じゃあるまい。爆発跡が見つかれば暴れていた原因も掴めるかもしれないぞ?」


「……そうだな。それしかないか。分かった。罠の場所は確認してある。こっちだ。行こう」


 そうして、後ろからぞろぞろと付いてくるトロールを引き連れながら移動を開始した。



「それにしても、エルンの町では絡まれるようなことはなかったね。調査依頼を受けた際に女子供には無理だと反対してくる輩が出てくると思ってた」


 結界を叩くトロールを時折突き刺しながらティレスはそう言った。


「嬢ちゃん、本気で言ってるのか? 町中でいきなり光の柱をおっ立てるような奴ら相手に絡んでくる馬鹿な奴なんざ冒険者でも居ねぇよ。っと、まず1つ目だ」


 木々の葉を押しのけて、隠されるように設置されていたトロール用の罠を確認する。人の倍ほどの大きさのトロールの腕がちょうど入る金属製檻の中に肉が入っており、入口は開いていた。

 この罠はトロールが檻の中の肉を取り出そうとすれば、入口の刃がトロールの腕を切断する仕組みだ。掛かっていれば入口は閉じ中に腕が残っている筈。


「……ここは掛かっていないようだな」


「皆様、周りをご覧ください」


 久々に発言したシルエラの言葉を受け、周りを見てみる。するとどうだろうか。先程まであれだけ結界を叩き続けていたトロール共が遠巻きにこちらを見ている。


「おい姉ちゃん、こりゃどういうことだ?」


「恐らくですが、トロール達はその罠を警戒しているのではないでしょうか」


 カドケスの問いに落ち着いて答えるシルエラ、の横でティレスが何やら動き出した。


「マジか、じゃぁ本当に……」


 ――ガシャーン!


「うおっとぉ!? おい嬢ちゃん! 危ないだろう!」


 シルエラの言葉を確かめるためかティレスは落ちていた木の棒を突っ込み罠を作動させたのだ。罠の作動音に合わせてトロールがさらに距離を取る。


「なるほど。カドケスさんよ、これは確定だと思うぞ。トロール共はアンタ以上に罠の作動音に敏感なようだ」


「チッ、じゃぁもうこのやり方で毛の量産はできねぇってことか。まぁ、予想されてたことだ。町の連中が新しいやり方を考えるだろうよ。よし、次だ次。爆発音の原因を調べよう。と言っても爆発跡をどう探すか……」


「木々の枝が折れている箇所に偏りがあります。トロールが暴れた結果なのであれば、枝の折れている木を辿れば何かしら見つけられるのではと愚考致しますが、如何(いかが)なさいますか?」


 ふむ、なるほど。

 確かに最近折れたように見える枝の場所には規則性があるように見える。トロールが暴れた影響なのであれば、これを辿れば何かしら見つかる可能性はあるな。


「行きましょう。ふふふ……、なかなか冒険者らしくなってきた」

 ティレスが答える。


「ああ、現状他に選択肢がねぇ。とりあえず辿ってみるしかないか」


 そうして折れた枝を辿った先で俺達が見つけたのは、小山の側面に開けられた何処までも真っすぐに続く穴だった。


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― 新着の感想 ―
今回の冒険()で満足して、国に帰ったら王族として過ごしてくれるのかね。 時々行方不明になって、数日後に生き生きとした顔で帰ってくるようになったりせん?
トロールよりヤバい連中
笑いながらひたすらトロールを56さずになぶり続ける 狂気的に見えるしドン引きのカドケスさんが正しいよ。
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