320. 光の柱
「いやぁ、すまなかったな。俺の妹は少し魔力が多いのだ。不要な警戒をさせてしまった」
エルンの町の中へ迎え入れてから改めて男が謝ってきた。
これが少し? いやいや、以前に王都から来られた高名な冒険者様より大きい魔力だったぞ。この町で魔法職をやってもう長いがこんな魔力は初めてだ。
トットの護衛で来たということは王都から来たのだろう。エルンの冒険者も森の魔物から町を守っており優秀な者が多い筈なのだが、流石は王都の冒険者と言ったところか。
しかしこの冒険者、見た目から普通の冒険者ではないだろう。クトと名乗っていたがそれも偽名に違いない。
まず装備が違う。それだけなら貴族の子飼いとも思えるが、美男美女。美容に気を使う余裕のある貴族か大商人か……。見ろ、レスと名乗ったあの娘の髪を。サラッサラのキラッキラじゃないか。
最近はこの町に帝国の者が出入りしているという噂もあり油断できないが、間者ならこれ程目立った者を送ってこないだろう。貴族の冒険者ごっこ、間違いない。
このような相手に馬鹿正直に迷惑だなどと言える筈ないじゃないか。
「いえ、問題ありません。……ただ、時期が時期だけに少し大袈裟な対応となってしまいました」
「ふむ、時期とは?」
移動しながら会話を続ける。私達は領主館へ向かっているが、この者達は冒険者ギルドへ行くのだろう。そうであればもうすぐお別れだ。あまり詳しくは話せないな。
「先日、森のトロール共が大暴れしていたのですよ。そして、爆発したような大きな音が鳴り響きました。それに、最近はトロール共が罠に掛からなくなったらしいのです」
「なんだって?」
カドケスが反応する。トットも渋い表情を浮かべた。トロールの毛運搬で儲けているトットやその護衛のカドケスにとっては死活問題なのだろう。トロールの毛は町全体へも大きな利益をもたらしているので俺達も無関係ではないのだが。
「詳しくは冒険者ギルドの方でも聞けるでしょう」
そう言ってトットとカドケスの質問を拒否する。何せ本題はこれからなのだから。
「それだけではありません。少し前には北西で光の柱が立ち上りました。それはもう強烈な光で、ガルム期なのにまるで太陽が出たような明るさでしたよ。それで厳戒態勢を敷いていたのです。北西から来られたあなた方も見たのでは?」
あの光が何だったのか早急に調べないといけない。あのような事は今まで1度としてなかったのだから。あのとき感じた膨大な魔力、自然現象か強力な魔物なのか全く分からないが、あの光が町に降り注げばどれ程の被害が出ることやら。
「あ、あー……」
「光の柱……ね」
カドケス達がなんとも言えない表情で護衛冒険者の1人である女性に視線を向けた。予想していた反応と違う。
「ふむ、何かご存じで?」
「見せてやったら早いんじゃないか? どうせクチで説明しても信じないだろうからな」
1人満面の笑みを浮かべたクトがそう言うと、相手の女性は少し困ったような、次いで諦めたような表情をして……。
「――では、失礼致します」
わ、わー。
光の柱だぁ。
俺はまたも無様にひっくり返ったのだった。