311. あきらめよう
あれ? どこ、ここ?
気づいたら道の真ん中で寝てた。しかもあたりは真っ暗。
あーっと……、そうだった。
見習いメイドちゃんが自分の領地へ帰るっていうから、ついて行こうと思って馬車にもぐりこんだんだった。それで馬車から落ちたっぽい。
見つからないように馬車の底側の車軸とかがついてる変なスペースに隠れたのがアダとなっちゃったのか。
それに透明化してたから道に転がってても誰にも気づかれなかったんだね。
そう! 実は私、透明化を習得したのだ。
どうやら私は常に光ってて目立つらしいんだよね。どうりでみんなすぐ私を見つけると思ったよ。で、その発光対策として編み出したのが透明化ってワケ。ヒントは銀髪ちゃんが使ってた透明になるローブだよ。
だけど欠点もあるんだ。完全に透明になると抗えない眠気に襲われるんだよね。仮死状態みたいな感じになってるのかな。その状態で馬車下に隠れてたから、いつの間にか落っこちちゃったんだ。
ちなみに半透明にもなれる。けど、半透明だと行動はできてもどうにも頭がボーッとしてしまってまともにモノを考えられないんだ。
私は体そのものが魔力でできてるらしいから、魔力の発光を止めると身体機能全部が止まる仕組みなのかもしれない。使えないなぁ。
えーと、それで今は夜か……。
あ、違うな。たぶん昼だ。太陽が白虹に隠れる時期だから暗いのか。で、あっちが南で、太陽はうっすら白虹が明るくなってるあのあたり……。西側にあるからもう午後だね。
状況はわかった。理解理解。
で、これからどうしようかな。
見習いメイドちゃんを追おうにも、もうどこへ行ったかなんてわからないよ。地図で確認すると、王都から東へ向かってたみたいだね。
でもこのまま東へ向かっても見習いメイドちゃん一行を見つけ出す自信はないなぁ。だって馬車1台で乗ってた人数も少人数なんだもん。
西の国で見つけたおじゃーさんご一行様は敵地から大人数を探すだけだったから、赤点だらけの地図の中から青点を探すだけで良かったんだ。でも今はそういう探し方もできない。
見習いメイドちゃんの馬車に金貨の入った箱とボードゲームもこっそり積んでおいたんだけどなぁ。目的地に着いたらそのお金で遊び倒す予定だったんだけど……。まぁ、しょうがないか。
ちなみに見習いメイドちゃん一行の護衛冒険者は筋肉オバケでした。あの筋肉オバケってギルドマスターかと思ってたんだけど、どうやら下っ端だったっぽい。まさかあそこまで偉そうにしてた人が下っ端だったなんて……、騙された気分だよ。
……よし! 追うのあきらめよう!
もともと見習いメイドちゃんについて行こうとしたのも、この国の田舎風景を見たかっただけなんだ。だって今のところ、私は大きめの町にしか行ったことがないんだもん。のどかで牧歌的な西洋カントリー風景を見てみたいよね。だから田舎ならどこでも良いんだよ。
お金ならお城に帰ればまだいっぱいある。1箱くらいなくなったって妖精グッズの売り上げでウハウハなのだ。
そういや南東にも森があったっけ。ムニムニ達に最初に襲われた辺りの南側にでかい森が見えてたのを覚えてるよ。森が近いなら田舎っぽいに違いない。
平原丘に点在する家々、ちいさなかわいらしい教会、ハロウィンのような領主館、こじんまりとまとまったミニ砦、それらが私を待っている!
さぁ、いざ行かん、西洋ド田舎観光!