308. 行方不明
「ということでぇ、特にこのコフィン、ヨゼフス、バガンという3人の冒険者は要注意人物ですねぇ」
「分かりました。新婚ですのにわざわざ報告、感謝しますよ」
「いえいえ~」
王都冒険者ギルドのサブマスとして王妃様に最近の状況を報告した。こうも頻繁に来てれば王城も慣れたもんだよね。王城に入るのに何の感慨もわかない自分にビックリするよ。
王族とのやりとりなんてホントはギルマスにやってもらいたいんだけど、この時期ギルマスはギルド本部に行ってるから不在なんだよね。前回は春まで帰ってこなかったけど、今年は冬前に帰ってきて欲しいなぁ。
と言っても、冒険者関連のなんでもかんでもを毎回王族へ報告してるワケじゃない。わざわざ王城までやってきたのは妖精様案件だからなんだ。どうやら最近王都にやってきた3人組が妖精様を狙ってるらしいんだよね。
妖精様の情報を集める冒険者はビックリするほど多いんだ。ただ見てみたいって人から、自分や知り合いの傷や病気の治療目的だったり、貴族の依頼だったりとその動機は様々。
だけど去年ギルド本部を通してファルシアン王国の妖精様は捕まえたり討伐したりといった干渉をしないようにという厳令を出してもらったから、だいたいの冒険者はそれほど必死に情報を集めたりはしてないんだ。
なのに、この報告した3人は私に会おうとするくらい必死っぽい。まだ会ってないけど。
こういうのはだいたい裏に他国の王族や国内外の貴族が絡んでたりするんだよ、まったく。だから王城へ丸投げってワケ。私の手には負えないもんね。
「では、こちらで背後関係を洗っておきましょう」
「お願いします。ところでぇ、やっぱり妖精様は不在なんです?」
「ええ。これ程長期間理由もなく妖精様が王城を不在にされたことは今までありません。王国に訪れられた目的が魔王討伐であったのだとしますと、その目的が果たされた今、妖精様はもう戻ってこられないかもしれませんね」
そう言って王妃様は力なく笑われる。
「でも、妖精様付補佐の子が家に戻られたのでしょう? その子について行ったってことはないんですか?」
「その可能性もあります。しかし妖精様付補佐の家の領地と王都は距離がありますからね。確認には時間がかかるでしょう」
「そうですかぁ」
帝国の動きがまた怪しくなってきたこのタイミングで妖精様不在は怖いなぁ。
帝国は様々な小国を侵略して今の領土を得ているから、それら元小国が独立戦争を仕掛ける可能性があるらしいんだよね。でも帝国が崩壊するとさらに東の国が王国へ侵略してくる可能性があるから、王国的には帝国は盾として残しておきたい。だから王国軍の一部が帝国に駐留してるんだって。
その駐留軍の報告だと、帝国内で派閥争いが水面下で激化してるらしいんだよ。王国に進軍した第2皇子派が分裂してややこしいことになってるらしい。
その分裂した派閥の中には、現帝国皇帝の病気を妖精様に治療してもらおうとしている一派もいるらしい。
でも妖精様は不在。さらに妖精様ポーションはドラゴンのお腹の中で取り出せない。妖精様が王国に残したあれこれも、そのほとんどはドラゴンのお腹の中なんだよねぇ。
ってか、現帝国皇帝って病気だったんだ。だから帝国第1皇子と第2皇子が継承戦になって、功を得たかった第2皇子が去年王国に進軍したんだね。
ちなみに妖精様ポーションとか諸々をお腹に詰め込んだドラゴンは今、王城ホールで自堕落に寝ているよ。
魔王戦から帰ってきたらあのドラゴン、赤から白銀に色が変わっただけじゃなくて、やけにオッサン臭くなってたんだよね。寝転びながらお尻とか掻いてるし。小奇麗になる前のダスターよりオッサン臭いってどうなの?
――コンコン
そんなことを考えていると、部屋にドアのノック音が響いた。
「入りなさい。どうしました?」
「ハッ! ……その」
入ってきた文官っぽい人が私をチラ見して言いよどむ。
「構いません」
「ハッ! クレスト第2王子殿下およびティレス第1王女殿下が、その……、執務室から脱走しました。現在行方不明です」
報告も終わったしお邪魔そうだからそろそろ帰ろうかなって思ったのに、また聞きたくない話を聞いちゃったよぉ! 聞きたくなかったそんな話!
「あの子達は……」
「それから」
まだ何かあるのぉ!? 私が帰ってからにしてくれない!?
「妖精様付侍女も所在不明です。おそらく殿下方に同行していると思われます」
「はぁ……」
報告を聞いた王妃様がため息をついた。
私もつきたい、ため息を。
うーん、王家で1番奔放な王子様と1番危険思考な王女様と、国内で1番破壊力のある侍女のトリオかぁ。うわぁ、すごいことになりそー。
……あれ?
魔王討伐PTだし多少行方不明になって野盗とかに襲われたところで、べつに危険なんて何もないんじゃない?
むしろ敵対した相手が可哀そうになるよ。
ま、私には関係ないからいっか。