302. 巨大化
「グアアアアアアアアアアアアアアアッ!?」
体中に激痛が走る。
刺された足を大きく振って、闇属性剣を持っとったガキを吹っ飛ばした。刺さったままの剣を引き抜く。
ちくしょうが。
闇属性の品は軒並み焼き尽くしたと思っとったのに、まだ残とったんか。コイツら倒したらもう1回徹底的に世界焼いとかなアカンな。
この強さを手に入れてから痛覚なんて無縁やったけど、この1時間程で死にそうやでホンマ。
闇属性剣もウザいけど、あの勇者もめっちゃウザいわ。アイツ俺の口ん中に何か放り込みよった。思わず飲み込んでもうたけど、体ん中ズタズタに斬り刻まれてる感覚が今も続いてる。これたぶんあの人形やろ。
外も内も体はボロボロや。ほんーま面倒な奴らやで。
そんな激痛やのに思考はどんどん鈍っていく。この姿になると理性とぶからなぁ……。
そう言えば封印直前のこともちゃんと思い出せへん。たぶん前に封印されたときもこの獣の姿になっとったんやろなぁ。
名前は魔力の方向性を決める。そのあり方や性質に名前がダイレクトに影響するんや。俺はこの世界にきて現地人から破壊衝動のみを持つよう名付けられた。たぶん神に対抗すっために破壊力に特化した存在を作りたかったんやろな。せやから魔力を使い過ぎると破壊衝動以外の理性とか諸々がなくなってく。
妖精が羨ましいわ。魔力バカスカ使てた割に俺みたいな制約なんかなさそうやったもんな。それに楽しそうやった。
妖精どんな名前付けられてんやろ。ま、どうせ最後は俺みたいに裏切られるんや。やっぱ何も羨ましないわ。
……体中がだるい。
でもまだや。まだ倒れへん。まだ意識もある。
前回んときは3女神とかいう神が出てきよったけど、今回は神みたいな理不尽な強さの奴は出てきとらん。たとえこの後神が出てきたとしても、前回は3女神のうち1柱までは倒せたんや。
妖精ごとき羽虫に負ける訳あらへんて。
魔力を練って体をさらに大きくする。理性と引き換えやけどしゃーない。理性とばしてでもコイツらは今殺しとかんとアカン。俺の力はまだまだこんなもんちゃうねんぞ。絶望して死ね。
足元を見れば、さっき吹き飛ばした筈の妖精がケロッとして勇者相手になんか言っとる。ここまで大きなると妖精なんか小さ過ぎて見辛いな。人間すら蟻みたいやで。
「木の棒をかかげて! 木の棒! XXXXXXX! もっと高く! そう!」
なんや、何言うてんねん。
アイツほんまアホ過ぎて行動が全然読めへん。体がダチョウの脳味噌くらい小ちゃいからダチョウよりアホなんちゃうか? 理性とんだ俺よりアホやろ。
「そして反対の手は握って腰に。ちがうちがう、こう!」
なんか勇者に振り付けさせとる。この状況で何考えてんねん。まぁええわ。どうせ闇属性剣は俺が持っとるし、アイツらはもう何もできんやろ?
踏み潰したる。それで終わりや。
「そう!そう! で、ジュワッチって言え! ジュワ! XXXXXジュワ!XXXX!」
「……ジュワッ!」
勇者がそう言った直後、勇者が持ってた木の棒が光りよった。んで、勇者の体が光に包まれ……、大きく……?
はぁ!? なんや!? 勇者が光って大きなっとる!
「いいよ!いいよ! 片手は高く! もう片方は肩くらいで! XXXXX! XXXXXXXXX! シャキーン!」
踏み潰そうとした俺の足を押しのけて、ついには俺と同じくらい大きなりよった! 発光した人型、光の巨人や!
そのまま足を押しのけられてよろけてる俺に殴り掛かってきた。どんだけ人おちょくったら気ぃ済むねん、いちびんのもええ加減にせぇよ!
反撃しようとしたけど激痛で体動かん。やっぱ闇属性剣で斬られたんが致命的やったか。
光の巨人が木を俺に突き立ててきよる。なんやこれ、ただの木違うんか? まさか封印の木!? 封印の木てオマエ、女神が用意した木やぞ!? なんで新しいのんが今ここに……!?
そうか、最初からコイツら女神の助力得とったんやな?
どうもおかしい思ててん。なんかやたら強い奴混じっとったり、処分した筈の闇属性剣持っとったり……。
でも勇者が光の巨人になんのは反則やろ? そんなんファンタジー違て特撮ジャンルやんけ。あの女神らそんなキャラ違うかったやんか。
封印の魔力が俺に絡み付いていく……。
ああ、またこれで……。ちくしょう……。
「やぁボク果物の木だよキミが封印の木と呼んでたりオジサンたちが聖樹と呼んでたりしてる木を通して意思を飛ばせるんだ便利でしょよく分からないけど別に女神の力なんて借りてきてないよ全部ボクの主の力なんだすごいでしょだってかわいいもんねだからキミはもう1度ちょっと封印されててくれるとうれしいなちょっとだけだからちょっとだけだから痛くない痛くないよそれにキミにとってもそんなに悪いことにならないと思うなだって次はかわいく生まれ変われるもんねだからちょ
さ、最後までうるせぇ……。