293. ウワサ
「すごいですね、流石王都のサブギルドマスター様です」
「いえ~」
第2王子の代わりに魔王配下の情報展開および周辺住民の混乱防止のため、周辺の冒険者ギルド支部をまわることになったんだけどぉ、どうしてその1つ目で関係ない溜まってた仕事を私が片付けるハメになってるのかなぁ?
「あと、こちらの案件なのですが……」
「え~と……、貴族様からの妖精様への面会要望? どうして冒険者ギルドがそんな要望受けてるんです? 王家へ言えば良いのでは?」
「このお貴族様の寄家である辺境伯様がカティヌール軍の対応で手一杯だったようでして、何故かこちらにまわってきたようですね」
「はぁ、分かりました。私から直接王城へ依頼しておきます。はい次」
妖精様案件なんて私の一存でどうにかなるワケなんてないんだから、いつも通り王城へ丸投げだよ、こんなの。
「え、すごいです! 王家へ直接意見できるなんて、やっぱりお噂通り王都を陰から支配されているのですね!」
「……うん?」
私が王都を支配? ウワサ通りってどういうこと?
「オラァッ! お前が噂のドラゴンライダーか!?」
うわぁ……。
地元職員の変な発言に混乱してたら、今度は地元冒険者がなんか変なこと言ってきた。次から次へと何なのよホント、勘弁してよねまったくもう。とっととここの仕事を終わらせて次のギルド支部へ行かなきゃダメなのにぃ。
「なんだぁ? け、弱そうな見た目じゃねぇか。こんなのが冒険者かよ? 良いぜ、俺と勝負しろ」
「良くないですけど? ドラゴンライダーでも冒険者でもありませんし勝負もしませんけど? 私はドラゴンに強制ライダーされたただの冒険者ギルド職員ですよ?」
「はぁ? 何ごちゃごちゃ言ってんだ? 良いから俺と勝負しろや」
あ、バカだ。ダメだこれ、話が通じない系冒険者だよ。
「ちょっとちょっとアナタ! こちらは王都のサブギルドマスター様ですよ!? 嫌われたら翌日には王都の河に死体が浮くんですよ!?」
「ああッ!?」
「浮かないですけど?」
私のウワサってどうなってんの?
「浮かないように重りを付けて沈められるんですよ!?」
「なんだとぉ!?」
もうやだ帰りたい。
でもギルマスやサブマスはなめられたら終わりだって前ギルマスも言ってたからね。ちょっとビビらせてあげようじゃない。
私は自分の腕を護身用に持っていたナイフでズバッと切り裂く。
ぐぅ、痛い。そして吹き出る血。そこに緊急用に確保してた妖精ポーションを少しだけ垂らす。
おお、一瞬で治った。相変わらずすごい効き目だなぁ。
「ご覧の通り、私に攻撃は一切通用しませんよ? それでもやりますか? やるなら明日はないと思っておいてくださいね?」
……私の明日がね?
「お、おお……。へ、へへ。そういや依頼の途中だった。今は勝負してる時間なんてなかったわ。また今度相手してやるぜ! じゃ、じゃぁな!」
そう言って挙動不審な態度で去っていく冒険者。
ふ、勝った。真の強者は戦わずにして勝つ、なんてね。
「ひゃ、ひゃ~! かか、かっこいいですぅ!! そんな見た目でどうやって王都を牛耳ってるのか疑問だったんですよ! 鉄のリスティって、心が鉄って意味だけじゃなくて体が鉄のように攻撃が通らないって意味もあったのですね!? きゃ~!」
むぅ、そんな見た目って……。
っていうか
「鉄のリスティって何です?」
「王城魔術師団のトップをトイレにも行かせず脱糞させながら馬車馬のように働かせた鉄の心の持ち主だって」
「ちがいますけど!? 誰が言ってたんです!?」
「みんなですよ」
ホントどうなってるの私のウワサ!?
私の人生、妖精様と関わってからしっちゃかめっちゃかなんだけどぉ!?