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小さな妖精に転生しました  作者: fe
七章 勇者と魔王
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283. 同じ手

「クソッ! なんだあの禍々しい魔力は!?」


「クレスト殿下、焦りは禁物ですぞ」


「分かっている。しかし急ぐぞ!」


 砦から出た神域の民は、カティヌール軍から突出してきた部隊に拾われて東側へ離脱していった。軍旗など所属を表す物は何もなかったが、あれは間違いなくエネルギアの魔術師達だろう。やはりカティヌールの後ろでもエネルギアが暗躍していたのだ。

 エネルギアではかなりの魔術師を捕らえたと聞いていたが、まだあれ程の数が残っていたとは。


 神域の民を回収したエネルギア部隊の離脱は、馬もないのにあっと言う間だった。細身の者が多いように見えたが流石は魔術大国と呼ばれた国の魔術師達。身体強化も高い技量を持つのだろう。


 エネルギア部隊を本隊で追うことはできない。結界が消えている今、大部隊を正面から動かせばすかさずカティヌールが攻めてくるだろう。

 しかし放置もできそうにない。何せエネルギア部隊が離脱していった方向から突然禍々しい魔力が膨れ上がったのだから。普通なら魔力を感じることができない俺ですら感じる魔力。この距離でも薄っすら黒く見える程だ。放置すれば何が起こるか分かったものじゃない。

 そのため、こうして王城騎士の一部を連れて馬にて向かっているのだ。



 神域の民にやられた兵には重傷者も居たが、幸い死者は居なかった。全員すでに妖精ポーションで回復している。実質的なこちらの被害は結界を消されてしまったことだけ。それもしばらくすれば再展開できると言う。


 それにしても、あのときエレット嬢が持っていた妖精人形を投げ付けてくれなければかなり危なかったな。あれがなければあのままエフィリス殿を攫われてしまっていただろう。

 エレット嬢が投げ付けたのはただの人形だったが、妖精(アイツ)のこれまでの奇天烈な行動のおかげで相手に本物かもしれないという思いを抱かせるのだろう。神域の民は明らかに動揺して動きを止めていた。そうでもなければ奴の足を斬り飛ばすなどできなかったのだ。

 まぁ、斬り飛ばした後にあれ程俊敏に逃げられるとは思わなかったがな……。



「クレスト殿下! 見えました! 魔術師共です!」


「ああ! やはり何か怪しい儀式をやってやがるな!」

 少し小高い丘の上に魔術師の集団が見える。そして禍々しい魔術の中央では10名以上の魔術師が怪しく蠢いているのが見て取れた。


「しかしどうします? 100名程の魔術師が防衛しているようです。あれが本当にエネルギアの魔術師なら、我々では歯が立ちませんよ!」


「ああ。とりあえずは……」


 光の斬撃を飛ばしてみる。

 ……防がれたか。流石エネルギア、防御魔法もお手の物ってことか。


「ふむ……。っと! 全員左旋回!」


 次の瞬間、エネルギア部隊から次々と攻撃魔術が飛んできた。この距離でも射程内なのか。面倒だな。しかし、俺以外の全員は対魔術用盾を装備してきている。そして俺は妖精盾だ。この距離なら問題ないか。



「ふははははは! ファルシアンのゴミ共! 手も足も出まい! 最早儀式は止められんぞ! これでお前達の国は滅ぶのだ! くくく……、はーっはっはっはっは!! 見ろ、この膨大な魔力を! この素晴らしい術式を!」


 うん? なんか(やかま)しいのが出てきたぞ?

 それに合わせて攻撃魔術の雨も止んだ。これはもしかして……、話に乗ってやれば付け入る隙も出てくるか?

 そういや、去年の夏にガキ共の短剣を奪っていったエネルギアの間諜もベラベラと独り言の多い奴だったらしい。やっぱり魔術師というのは話したがりが多いのか? うちの魔術師団長も話好きだしな、声もでかいし。


「お前達、そこで何をしている!? その禍々しい魔力は何だ!?」


「禍々しい? 何を言っている。どこが禍々しいと言うのだ。むしろ神々しさすら感じるではないか! やはり馬鹿には魔法の神髄を理解できないようだ」


 神々しい?

 おいおい、何処に目を付けているんだ。あれが神々しいなら妖精なんて神そのものになってしまうぞ。普段から無駄にキラキラ光っているしな。


 そんなことより、遠目でよく見えないが中央に倒れてる奴らの1人、神域の民じゃないか? 用済みになったら即処分かよ。エネルギアらしいぜ。

 神域の民には状況を散々引っ搔き回されたためあの男には全く同情できないが、それでも死なれるのはマズい。神域の民が死んだとなると、それを神聖視している南方諸国が黙ってはいないだろう。癪だができれば救出した方が良い。



「お前達の目的はなんだ!? その儀式を即刻中断しろ!」


「中断しろだと? ファルシアンのゴミはいつもいつも我々の邪魔をしてくる! 我々の目的は大いなる魔術の発展だ!! 当然だろう!」


「魔術の発展? どういうことだ!?」

 魔術の発展を目的にしていると言う割には、やってることは悪戯に世界情勢を掻き乱しているだけなんだよなぁ。


「はぁ、誰も我々の素晴らしさを理解していない。魔法、魔術には無限の可能性がある! 未来があるのだ! 今多少の犠牲を払うことで未来の皆がより高度な魔術を利用した理想的な生活ができるようになるのだぞ!」


「理解できん! 魔術の発展に何故今を犠牲にしようとする!?」

 話がおかしくなってきた。俺はその儀式の目的を訊いているのだが、それとも何か? その禍々しい儀式が効果を発揮すると魔術が発展すると?



「何故理解できんのだ! お前は野営で火を付ける際に魔法を使うだろう? 魔法を使わない火の付け方を知っているか? 知らないな!? 魔法を使わない火付けは大変なのだ! 魔法なら習得してしまえば野営の火付けなど手間でもない」


「何が言いたい!?」

 いやマジで、本当にコイツは何が言いたいんだ。


「他の煩わしい物事全てを魔法で簡略化できる可能性があると言っているのだ! 我が師は宙に浮くことができたぞ」


「それがどうした!?」


「お前達は妖精の操るドラゴンの死体に乗って聖王国まで行ったそうだな! 妖精は新しい可能性を示した。人は空飛ぶ乗り物に乗ってより早くより遠くへ行くことも可能と言うこと! 素晴らしいとは思わないのか!? 我々の研究が進めばそのような未来も現実的になる!」


「確かに素晴らしいことだとは思うがな! その過程が非倫理的過ぎる。偉人はそのようなクソなことはしないだろう!」


「その偉人とは誰のことを言っているのだ? その偉人も生前は非倫理的だったのではないのかな? だいたいお前の言う倫理とは何だ!? 倫理観など時代や場所で様々に変わる! 成功者は後世に良い情報のみ残そうとする! 戦勝国が自身の正当性を事実として流布することと同じだ! お前達(ファルシアン)我々(エネルギア)にしたようにな! そうして後世の大衆は、あの偉人はあのような偉業を成し遂げたのだから人格者であった筈に違いないと思い込むのだ! そうであれば、私も後世では人格者となるだろう!」


 おいおい、思ったより話が通じないぞ? 言葉は同じなのにな。

 これなら王都に居る神域の民の方が言語は違っても話が通じてたんじゃないか? あの脈絡のない妖精(バカ)ですらまだ話の流れは理解できてたくらいだ。

 だいたい魔術の発展に人の命を奪う必要なんて本当にあるのか? うちの妹や魔術師団長なんぞは魔法は気合でなんとかなるとか言っていたぞ。


「何故人命を犠牲にしてまで発展させようとする。本末転倒だろう? 魔力が足りないなら気合でなんとかしろ!」


「気合? 何を馬鹿なことを。これだから聖王国のような未開の国からも蛮国と呼ばれるのだ。魔法は理論、魔術は技術! 全ての現象に原因、理由があり、魔法も魔術もその法則に従って発動するのだ。だいたい精神的な要因で効果が変わるなど危険過ぎる。それでは世に普及などできないではないか!」


 確かに。

 でもこの男に正論を言われると何かムカつくな。


「では自分達が犠牲になれば良いだろう? お望み通り魔術の発展に貢献できるぞ。何故自分達の命を使わず他人の命を使う?」


「これだから無能は。大いなる知識を持つ我々が犠牲になっては、その後の研究を誰が続けるというのだ! 残った馬鹿共に魔術を発展させることなどできる訳がないだろうに」


 駄目だ。何処まで行っても自分本位。話が通じん。まぁ、王族や貴族には多いタイプなのだけどな。

 しかし、大分(だいぶ)近づくことはできた。


「魔法を発展させたいだけなら何故戦争まで起こす?」


「ファルシアンは魔法の発展に邪魔だからだ! 私利私欲で妖精という新しい可能性を独占している割には、その力を人類の発展に活かそうとはしていない。これでは人類の敵と言っても過言ではないかな?」


「ああそうかい。それ程妖精が好きならコイツはどうだ!?」

 そう言って妖精人形を投げ付けてやる。


「馬鹿め! また人形(その手)か! 妖精(本物)がファルシアン王都に留まっていることを知らぬと思ったか!? 過去に有効であった手でもそう何度も何度も使えば……、何ッ!?」


 前列で構えていた魔術師の杖の先端が斬り飛ばされる。その直後には隣の奴の腕が飛んだ。先程まで意気揚々と喋りまくっていた男の表情が強張る。帝国相手には散々使った手だが、お前らは初見だろう?


「あ、あ、あぁッ!? 俺の腕が!?」


「この人形、動くぞッ!?」


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