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小さな妖精に転生しました  作者: fe
六章 聖王国
249/342

245. 式

「おめでとう。エフィリス、とても綺麗になりましたね」

「ああ、さすが私の娘だ。おめでとう」

「ありがとうございます。お母様、お父様。雨の中よく来てくださいました」


 数日後はアーランド様と私の結婚式となります。

 ドラゴンで聖王国に行ってから、早いもので四半期が経ちました。冬が終わりガルム期が明け、季節はすっかり春ですね。


「お母様、聖王国もその後順調と聞き及んでおりますが、聖女(マリー)の様子はどうですか?」


「すっかり丸くなりました。元々親である私達がほとんど構ってあげられなかったことが、あの子があそこまで歪となってしまった原因だったのです。今は家族関係をやり直しているところなのですよ」


 お母様が伏し目がちに答えられます。


「それに、妖精様から頂いた光の玉。最近分かったことなのですが、あの玉には近くの者の心を穏やかにする効果もあるようなのです。妖精様はきっと、マリーの荒んだ心を癒すために光の玉にそのような効果を付加してくださったのでしょう。感謝の念に堪えません」


 妖精様は心優しいお方です。監禁などという強いお言葉を発せられていたのは、マリーを救うための対外的な建前だったに違いありません。

 マリーは罪を裁かれたものの、課せられた罰は監禁と結界維持。しかも、クロス聖王太子殿下との婚姻が決定されているため監禁範囲もかなり広いそうです。元々聖女は光の()を中心とした狭い生活圏から出ることもなく結界を維持し続けるため、マリーの扱いは実は通常の聖女とほぼ変わりありません。

 国の存続を揺るがした罪を思えば軽い罰と言わざるを得ないでしょう。しかし、姉としてはホッとしています。


「マリーも深く反省しています。そして、私も……。実はマリーと向き合うため、母親とはどのようなものか知り合いに尋ねて回っていたのです。そして私は母親として失格だったと思い知らされたのですよ……。思えばあなたにも私は母親らしいことをしてあげられませんでしたね。あなたが突然聖王国を出ることになった際にも、私は駆け付けるようなことはしませんでした」


「うむ、私も父親らしいことはしてきていなかったと反省しているよ」


「お父様、お母様。私は今幸せですよ。そう思い悩まないでください」


「グォオオオオオオッ!!」

「うわああああ!?」

 突然、遠くから雄叫びと悲鳴が聞こえてきます。おそらくまた他国からの使節団が到着されたのでしょう。すっかり最近の風物詩となりました。


 アーランド様と私の結婚式に合わせて、聖王国からお父様とお母様、それからクロス聖王太子殿下と使節団の方々が来られています。マリーはあのような事情もあり来られてはいませんが……。

 クロス聖王太子殿下は王国を蛮族の国だと蔑んでおられましたが、実際に王都を目にしてそのようなお考えは吹き飛んでしまわれたようです。

 冬が明け行商や観光にと多くの人々が訪れる活気あふれる王都、そこには飢餓の気配など一切なく希望という笑顔であふれておりますし、技術レベルでも長く閉鎖的だった聖王国よりも遥かに高いのです。多少王族の行動に破天荒な面がありますものの、蛮国とは程遠い文化的な国に違いありません。

 当初は呆然としておられたクロス聖王太子殿下でしたが、今は精力的に王国の視察を行っておられます。色々と学び聖王国に活かそうとされているのでしょう。


 そして、他国からも様々な方々がやってきています。新たな使節団が到着する度に王城ホールのドラゴンに驚いた悲鳴があがりますので、到着が分かりやすいですね。しかし驚くのも無理はないでしょう。何せあのドラゴンは剥製なのに動き吠えて光るのですから。



 この四半期の間、私は妖精様とこの国の歴史や常識を学んできました。ご一緒に過ごして私も妖精様のことが徐々に分かってきたように思います。

 妖精様は叡智の妖精と呼ばれておりますが、それほど知的という訳ではないご様子。知識があるため賢いというものではなく、考え方が賢い。純粋で無邪気な存在なのですが、純粋ゆえに物事の本質を見極め問題解決への最短ルートを取ることができる、妖精様はそういった賢さなのです。


 それが分かってくると以前のように振り回されることも少なくなりました。それでも、ガルム期が明けたここ数日の妖精様の行動には戸惑いを隠せません。妖精様は頻繁に小鳥を連れてくるようになったのです。

 どうも、クッキーの欠片などで餌付けして呼び寄せておられるようでして、その小鳥達を私に紹介してきてくれます。それは嬉しいのですが、その……、少々、糞害が少し大変でして……。掃除してくれる方々も困っておられますし……。



 他国からの使節団は、本当に様々な国から来られているようです。

 空にかかる大きな白い線。聖王国ではあれを宗教的にドーム状の聖なる結界と捉えていましたが、王国周辺の国々ではあれを"橋"と捉えているようです。そんな"橋"派の国々とは別に、あれを"塔"と捉える"塔"派の国々が南にあるそうなのですが、今回はそんな"塔"派の国々からも使節団が来られています。

 王妃様によればこれまで大した繋がりもなかった国も来ているそうで、妖精様の話を聞きつけて来たのだろうとのことでした。


 そんな中、南の国からアーランド様の元婚約者も来られたのです。帝国との戦争で滅亡寸前だった王国を見限った国とのことで、王国の民からは印象が悪い国と言えるでしょう。そのため肩身の狭い思いをしているようですが、ここまで力をつけた王国に未練があるようでして、元婚約者の(かた)はどうも第2妃を狙っておられるようなのです。



 そうそう、私の専属侍女であるカエラとも仲良くなれました。

 カエラと言えば、特徴のある説明の仕方。王国に来たばかりの頃は王族の功績に気圧されていたものですが、そこにはやはりカエラの誇張と言いますか絶妙な説明不足と言いますか、そういう独特な印象操作があったのです。

 例えば王都冒険者ギルドのサブマスター殿。この(かた)の現状を普通に説明しますと、他国に取られたくない優秀な冒険者を王国に繋ぎ止めるために王妃様が、王都の冒険者ギルドサブマスター殿と結婚させようとされていて、サブマスター殿は健気にもそれを実現させるために件の冒険者にアプローチをかけている、となります。

 しかしこれをカエラに説明させますと、王妃様により恋に芽生えた冒険者ギルドサブマスター殿が優秀な冒険者に猛アタックをかけている、となります。間違いと言う程現実からかけ離れてはいないものの、必要な説明が大胆にカットされており違った印象の話となっていたのでした。

 しかしカエラの説明も、視点が変わればこうも印象が変わるのかと新しい気付きを得ることもあるのですから悪いことばかりではありません。とは言え彼女だけの説明から状況判断をしてはいけないとも言えますね。この特徴的な説明のし方にも今後慣れていかなければなりません。



「エフィリス、綺麗だ」

「ありがとうございます。アーランド様も非常にかっこいいですよ」


 結婚式の当日、昨日まで降っていた雨は上がり快晴となりました。北の空には綺麗な虹がかかっています。まるで南の空にかかる"橋"との対比のようですね。

 そして私達のまわりを飛び回る妖精様に、多くの色とりどりな小鳥達。今も私の肩には1羽の小鳥が羽を休めています。


 王族の結婚ともなれば1日がかりの式となるようです。まずは午前中に国内貴族や他国の来賓の前で伴侶となることを誓い、午後は街にパレード、夜にはパーティーです。さらに数日は夕のパーティーが続き、街でも祝いの宴が続けられるとか。


「出会ってまだ間もないけれど、エフィリスは私にとって癒しだ。愛している」


 白い式服を着こなしたアーランド様にそう告げられます。私はアーランド様を愛しているのかと聴かれると本当のところはまだよく分かりませんが、それでも不安はありません。アーランド様は私を愛してくれる。私はそれに全力で応えたいのです。


「……私もです」


 アーランド様にそうお答えしたとき、突然アーランド様が光に包まれました。そして光が収まったとき、アーランド様の背には豪華なマントが装着されていました。風もそれほど強くないのにマントは風に靡いています。

 このマントからは魔力を感じますね。また何か優れた魔道具の類なのかもしれません。妖精様を見ると悪戯が成功したような笑顔でした。


「妖精様からの贈り物かな。ありがとうございます。……でも、普段使いするには少し風に靡き過ぎかもしれないね」


 そう言って苦笑されるアーランド様。



 このように多少の想定外はあったものの順調に進んでいた式だったのですが、その終盤、まさに誓いの儀式の最中にそれは現れたのです。


「な、なんだあれは!?」

「巨人だ! 光る巨人だ!」


 ――謎の光る巨人が。



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― 新着の感想 ―
[一言] おもしろい話でした。 できれば聖女と妖精で旅にでて引っ掻きまわす話がみてみたいです。 ゆっくり待ちますので次回作楽しみにしてます
[良い点] 大団円! \(^o^)/ [気になる点] 「橋」は何処へ続いてるのかなぁ (*´ω`*) [一言] さすよう!さすよう!
[良い点] ちょっと悪戯のある日常 からの 光の巨人
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