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小さな妖精に転生しました  作者: fe
六章 聖王国
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207. 先々代聖女

 色々と話が大きくなってしまったわね……。

 どいつもこいつも結界がなくなって大騒ぎ。まったく、(あのおんな)を連れ戻せば良いってだけの話なのに、どうして派兵なんて話が出てくるのかしら。姉が行った蛮国は、モノも満足に食べられず文化も低水準な蛮族の国だとは言っても、帝国に勝っているのよ。それも最後の戦なんて圧勝だったと言うじゃない。


 これだから結界に閉じこもっていたジジイ共は……。1度でも帝国に行けば、帝国に勝てるなんて希望これっぽっちも無くなるんだから。悔しいけど街の発展具合も王家の贅沢さも聖王国じゃとても敵わない規模だったわ。その帝国に勝った蛮国に戦を挑むなんて馬鹿らし過ぎると言うのよ、まったく。


 聖王太子(クロス)の婚約者となってからはしばらく聖王城内で過ごしていたけど、とりあえず結界騒ぎが落ち着くまでは自分の屋敷で大人しくしていた方が良さそうね。


 ――コンコン

「マリー様、来客でございます」


 はぁ? こんなときに一体誰よ。

 この先しばらくは一歩でも間違えれば破滅まっしぐらの危ない立ち位置だってのに。光の玉が割れたことを責めにきただけの馬鹿だったら追い返してやるんだから。でも、利用できそうな奴なら徹底的に利用してやりましょう。


「どなたかしら?」

「クルスリーデ様でございます」


 先々代聖女(お母様)? 聖女を引退してからは僻地に引っ込んでいたと思っていたけれど、今更一体何の用かしら? でもまぁ良いわ。今は利用できるモノならなんでも利用しないと。


「サロンに通してちょうだい」




 サロンに移動して数年ぶりにお母様を見ると、その老け具合に少し驚いた。最後に見たのは4年前だったかしら。僻地で悠々自適に過ごしてるって聞いてたけど、この老け具合だとやっぱり僻地は楽じゃなさそうね。


「久しぶりですね、マリー。……全くアナタは、とんでもないことをしてくれました」

 目をつむり首を振ってそう言うお母様。元は姉に似た綺麗なピンクゴールドの髪だったが、揺れるその髪は汚い薄桃色だ。


「お久しぶりですお母様。ですが、開口一番失礼ではありませんか」


「何を言っているのです。光の玉を割ってしまったのでしょう? ここ聖王国において、これ以上の失態はないと言っても過言ではないと言うのに」


 一体何を聞いてここに来たのよ? (あたし)が割った? 違うわ、割ったのはクロスじゃない。


「光の玉を割ってしまったのは聖王太子クロス殿下でございますよ、お母様。それに精霊様は不在だったのです。光の玉が健在だったとしても、結界の維持はできなかったのですよ」


「はぁ……。どうしてアナタは……、姉と同じ教育を受けてきた筈ですのに、未だに気付いていないのですか?」


 お母様が心底失望したという態度で震えた声を絞り出す。(あたし)が何を気付いていないって言うの? どいつもこいつも勿体ぶった話し方をしてくるのがイライラするわ。



 お母様は身振りでサロンに控えていた侍女達を下がらせると小声で言った。

「良いですかマリー、精霊様など最初から居ないのです」

「え?」


「精霊様など居ないのです。歴代聖女は最初の光の()での結界維持作業でそのことに気付いてきました。私もです。アナタの姉も気付いたことでしょう」


「どういう……、ことよ?」

 自分の声が震えているのが分かる。精霊様など最初から居なかった? だったら精霊様のお力で結界を維持しているという聖女教育は何だったのよ? 聖女候補だった頃から毎日毎日飽き飽きする程精霊様に祈ったあの日々は何だったの!?


「確かに聖女教育では精霊様のお力を教えておりました。それはそうでしょう。聖女候補はまだ子供なのです。子供というモノは、いつ何時口を滑らすか分かりませんからね。聖女候補が聖女教育で精霊様など居ないと教わったと発言などしてみなさい。精霊の力で成り立っていることになっている聖王国は大混乱に陥りますよ」


 それはそうだ。何せ今の聖王も精霊様を通して神からこの国の統治を認められたということになっている。精霊様が居ないのならその根底から覆るじゃない。下手すればクーデターよ。


「どうして……。聖女になった当日とか、せめて結界維持作業の直前とかでも、どうして精霊様は居ないと教えてくれなかったの? 聖女教育中に散々祈らされたのは無駄だったってことでしょう!?」


「教えなくとも歴代聖女は全て自身で気付いてきましたよ。聖女教育でもそれとなく精霊様の存在を否定していたでしょう? 気付けなかったのはアナタが聖女教育を蔑ろにしていた証拠です」


「蔑ろにしていた!? 一体何年詰め込まれたと思っているの!? (あたし)は頑張っていたわ!」


 あれだけやって蔑ろにしていただなんて、(あたし)の幼少期全てを否定するようなモノよ!? 確かに姉程真面目に取り組んではいなかった自覚はあるけれども……、あんな馬鹿真面目に続けていれば自分の時間なんて全くなくなるじゃない。


「聖女教育を蔑ろにしていた証拠はもう1つありますよ。アナタ、光の玉が割れる前でも結界を維持できなかったのでしょう?」


「……」


「精霊様への祈り……、あれは無駄な作業だったのではありません。魔力増幅の儀式だったのです。結界の維持には光属性に適した魔力が必要です。精霊様への祈りを蔑ろにしていたアナタには、結界を維持するだけの魔力が足りなかったのです」


「なんですって……。それは、聖王殿下も知っておられるのですか?」


「……知らないでしょう」


 良かった。知っていたら終わりだった。結界の維持に精霊の力など不要だと聖王殿下(あのデブ)が知っていたなら、結界を維持できなかった原因は(あたし)の魔力不足だと見抜いていることになるのだから。


 でも、精霊様など最初から居なかったのなら、姉を連れ戻したところで結界の再展開は不可能よ。精霊様さえ連れ戻せば光の玉くらいもう1度作ってもらえると思っていたし、春までに結界を張り直せば周辺国に攻められることもないと思っていたのに……。


「……どうすれば良いですか?」


「光の玉さえ健在ならまだ何とかなったのですが……、もうお終いです」


 そんなの駄目よ。国が沈むだけなら良いけど、今回の場合だと(あたし)も共倒れになるじゃない。何か考えないと……。

 逃亡? 逃亡するにしてもタイミングと向かう先が重要よね。とりあえずそれまで精霊様は居ると話を合わせておかないと。


 いえ、難しく考える必要なんてないんだわ。だって聖王家すら精霊なんて居ないと知らないのだから。当初の予定通り、結界が維持できなかったのは精霊様が不在だったから、光の玉を割ったのは聖王太子(クロス)、全ての原因を作ったのは(あのおんな)ってことにすれば良いのよ。


 でも精霊なんて居ないなら、光の玉が割れた今もう結界を張り直すことはできない。そうなると春以降の聖王国の存続は怪しいわね。きっと雪が溶ければ周辺国が攻めてくるわ。でも、その混乱が逃げ出す好機よ。春のガルム期の暗闇に紛れて逃げれば良いんだわ。帝国なら伝手はあるし、まずは帝国に逃げて、それから……


「……アナタ、何を考えているのです?」

「……何も考えてないわ」


 だけど、まずは知り過ぎている先々代聖女(コイツ)を先に消しておかないと……。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 国を守護する割れ物の管理がなってないのは、何故なんだろう(_’ 手が当たった、落ちた、割れた。 え?(_’ [一言] 聖王国は、もうだめかもしれんね。 マッマ にげてぇええええ!!!
[一言] いやー、聖王家は知らなかったとしても、聖女教育担当者たちなら知ってる話だからなぁ。 でないとそれとなく否定するような絶妙な教育は難しいだろうし。 口封じの対象がどこまで広がるのか。
[一言] 妹さんが無能なのは仕方ないにしても一人の人間のミスで国家存続の危機に陥る聖王国のシステムが駄目過ぎるのでは… あと光の玉は大切なものならちゃんと固定しておくべき
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