205. ねぇねぇ
ふぅ……、劇の妖精が私だったのは衝撃的だった。鑑賞中、ちょっと呆然として遠い目になっちゃってたよ。
でもまぁあれだ、逆に考えれば私って救国の英雄ってことじゃん? この地位は最大限活かさなきゃ損ってもんだよね!
あの劇にはところどころ私の知らないことがあって、その知らない内容は絵本の内容とだいたい一緒だった。だからたぶん、本当のことに絵本の内容を混ぜてめちゃくちゃ脚色しまくったんだろう。だって私が絵本の妖精みたいにアホなワケないし。
客観的に考えると、私という妖精がホントにいるんだから権力者としてはそりゃ利用しない手はないよね。だって今まで私以外に妖精なんて見たことないし、絵本でも妖精は結構特別な存在っぽい扱いだった。つまり妖精はこの世界でもファンタジーなんだ。
そんなファンタジーが実在して、それを扱う王家ってすごいでしょアピールがあの劇なんだと思う。内情はどうあれ実際に私が作ったチェケラ号に乗ってドラゴン退治やったのはホントなんだし、信ぴょう性も抜群だって。王様公認の劇で「真実はこうでした!」ってやれば街の人は信じるしかないってもんよ。
つまりようするに要約するとすなわち、私も英雄の1人って街の人は思ってるってこと! ふひひ。
演劇を観た翌日、街に行くといつも以上に喜ばれているような気がする。
最近は屋台に行けば屋台のおっちゃんたちが我先にと私に何かをくれようとするもんね。あんまり色々もらっても困るからもらうのは少しなんだけど、もらわなかった屋台のおっちゃんが凄く残念そうな顔をするんだよ。
冬だから屋台はかなり少ないんだけど、春になって屋台が増えたらもみくちゃにされるかも。いやー、人気者はツライね!
それはともかくとして、今は目の前のことに集中しよう。そう、受付小さんに。今は冒険者ギルドの2階の一室で2人きりなのだ。ねぇねぇ、お酒マンと付き合ってんの? 昨日のあれってデートだった?
私は屋台でもらったお肉を食べつつ、じっと受付小さんを見つめる。うーん、ダメだ。伝わってないや。きょとんとした反応しか返ってこない。
とりあえず一旦帰ったふりをして物陰から様子を見よう。もしかしたら人がいないところでラブラブかもしれないもんね。
……ダメだー!
あれから結構な時間見張ってたけど、ラブラブちゅっちゅな展開なんてこれっぽっちもなかったよ!
お酒マンは1階でお酒呑んでるし、受付小さんはずっと2階で書類仕事。同じ建物にいるのに全然接点ないじゃん! ってか、受付小さんて受付さんなのに全然受付してないし。もしかして部署転属したのかな? これからは事務員小さんなの?
うーん、つまらん。もういいや。帰ーえろっと。
一瞬トラップでもしかけて無理やりくっつけてイチャラブ展開とか思ったけど、ホントに微塵もそんな関係じゃなかったら迷惑になるからやめといた。