193. お迎え
鳥籠メイドさんの勉強会を……、逃亡ッ!
何故なら今日、噂の聖女がやってくると情報を得ているのだ。背後の窓辺で鳥籠メイドさんが不思議な踊りを踊る気配を感じつつも、今の私は留まることを知らないッ!
数日前に雪がドバッと降ってついに積もった。お城の周りの森も城下街も辺り一面真っ白だ。空気がシンと冷えているけど、逃亡してきた私は室内着のままなので結構寒い。それなりに高い高度を飛んでいることもあって少しの風でもめちゃくちゃ冷たく感じてしまう。だけど大丈夫、私は自分の周りに暖かい空気を纏わせた。これで雪景色の中でもポカポカってもんよ。
そのまま空を飛んで街の中央まで来ると、情報通り雪掻きが開始されていた。
もっふりしたコートのような装備の人たちが、わちゃわちゃと作業しているのが見える。若めの人が多く、女性よりも圧倒的に男性が多い。聞いた話が合ってるなら若手の冒険者たちだ。街中の雪掻きで安全に稼げる美味しい依頼なんだろうね。ベテランが居ないから儲けは少ないのかもしれないけれど。
雪掻き作業は北側と東側の大通りに集中している。きっと聖女は東門からやってきて、中央広場で北に曲がってお城に行くんだろう。
冒険者たちは、柄が2本ある大き目のシャベルみたいなヤツを足で雪に差し込み、柄を引いて梃子の原理で雪を移動させている。ある程度雪を集めてから、街のいたる所にある水路にボチャン。ひたすらこれの繰り返しっぽい。結構大変そう。魔法でバーってやったりはしないのかな。
そんな様子を観察しながら東門まで来ると、街の外でも雪掻きされているのが見える。街の中は若手冒険者、街の外はベテラン冒険者が担当しているみたいだね。
河には船がほとんどいない。多少いる船もだいたいは川岸に上げられてる。それに、いつも東門から伸びてる跳ね橋は今は上げられていた。また雪が降っても橋だけは積もらないようにしてるのかな。聖女が通るときは橋が下ろされるハズだけど、下ろされてないってことはまだしばらく来ないのかもしれない。
東の街道を辿っていくと馬と馬車の集団を見つけた。結構な大人数で、馬車のうち2台はかなり豪華な装飾だ。たぶんあれが聖女と金髪兄さんがいる集団に違いない。……と思うんだけど、聖女にしては地味かも。
聖女が乗る馬車なら周りに鳥が飛んでいたり動物が引き寄せられてたり、通った後の道が花畑になったり周りの空気がそこだけ春っぽくて雪が溶けたりしてもいいようなもんだけど、そんなこともない。めちゃくちゃ普通だ。地味、ものすっごく普通。悪意みたいなのは感じないから悪い人じゃないっぽいけど……。
いやいや、勝手に期待しすぎてたこっちが悪いのは分かっているよ。それに今は冬だし、雪も積もってるから動物たちも冬眠しているのかもしれない。でもほら、正直聖女っぽいエピソードに欠けるよね。これは胡散臭い。聖女と言ってもやっぱり司祭とか牧師みたいな、ただの役職にすぎないのかな。
とりあえず遠くから観察だ。金髪兄さんに見合うお相手か私が判定しなくちゃいけないからね。まずは馬車を透過して見て、中に乗っている人たちを確認していく。すると1番大きな馬車に金髪兄さんを発見。と言うことは、向かいに座っている女の人が聖女さんだろう。
遠目に見ると美人に見えるけど、くすんだピンクゴールドのボサっとした髪が野暮ったさを醸し出している。なるほど、質素系聖女さんか。自然と醸し出される健気さで男の庇護欲を得ようなんて、さすが聖女、胡散臭い。そんなことじゃ、私の目はごまかされないよ。
それにしても進むのが遅い。大人数で雪が積もった道を進んでいるのだから仕方がないんだろうけどね。でも冒険者たちが雪掻きしているエリアまではまだまだ遠いから、このままだと今日中に着くのか心配だよ。しょーがない、ちょっと私も雪掻きしてあげようじゃないか。まずは雪を溶かしてっと……。
って、うわー! 溶けた雪がヤバい! その水ストップ! 危な、セーフセーフ。とりあえず水は道の両脇にどけて、えーと……、とりあえず凍らせとこ。よし、これを街まで延ばせば完成だ。
やべ、何人かの冒険者の足が氷漬けになってる。解除解除、治癒治癒っと。よし、問題ない。完璧! このまま街の中の除雪もするよ~。街の中は水路に雪を落とせば良いだけだから楽だよね。そ~れ、ボチャボチャ〜ッ!
その後しばらく東門の上で待ってると、ようやく聖女さん一行が近付いてきた。跳ね橋が粉雪を舞わせながらズズズっと下ろされていく。街の外で雪掻きしていた冒険者たちがその橋を通って街に戻っていった。
門を抜けた先では道の両脇に兵士たちが並ぶ。今までどこに居たのか街の人たちも集まってきた。歓迎ムードだねぇ。
だけど私はまだ歓迎ムードじゃないよ。だってまだ金髪兄さんに相応しいお相手か分かってないもんね。だから派手な演出もしないのだ。
聖女さん一行は街に入り、兵士たちの楽器演奏や街の人たちの歓声の中お城に向かっていく。前のパレードのときは紙吹雪が飛んでたけど、今回は紙吹雪まではないみたいだね。さすがに今紙吹雪を飛ばすと、雪でべちゃべちゃになって後が大変か。
そうしてお城まで進んだ馬車から金髪兄さんと聖女さんが降りてきて、金髪兄さんのエスコートで2人がお城に入っていく。ふむ、悔しいけどお似合いのカップルに見えるね。
と、突然聖女さんが防御魔法を展開した! あの魔法、見たことある。おじゃーさんのおじゃー魔法だ! 間をおかず金髪兄さんが聖女さんを庇う様に前に出て剣を抜いた!
なんだなんだ!? お姫様救出の演出か何か? そうだとすると凄い演技だよ。迫真の表情に汗すら浮かんで何か叫んでいる! さっきまであんなに爽やかカップルだったのに!
するとすぐに周りから兵士や色々な人がかけよってきた。何か話した後、金髪兄さんと聖女さんの2人はポカンとしたアホっぽい顔になって、それから顔が真っ赤になった。聖女さんなんか少し涙目だ。
えーと……? あ、ドラゴンか。2人は目の前のドラゴンにビビッてしまったんだ。ドラゴンなんてもう20日くらいずっとそのままだったから、今更こんなにビックリされるなんて思わなかったよ。もしかして、これって私のせいだったりする?
やべ、怒られる前に逃~げよっと。