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小さな妖精に転生しました  作者: fe
四章 収穫祭
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141. 依頼

 森の外で一晩明かし、いざ街へ戻ろうとした際に困ったことに気付いた。5体分とさらに腕1本分のトロールの体毛が思ったよりもかさばるのだ。用意してきた袋には入らなかったため、仕方なく紐でしばってトロールの体毛を体に括り付けていく。


 王都までトロールの体毛を運ぶには手押し車などが必要だろう。手押し車は購入するよりも借りるだけの方が安いが、またここまで返しにくることを思えば購入一択だ。そうすると購入資金が必要になる。そのためトロール1体の皮を剥いで袋に詰めた。この大きさなら皮紙にすれば地図作成などに使えるため、結構高く売れるに違いない。


 残ったトロールの死体は埋めておく。手作業で埋めるとなれば結構な手間だが、土の妖精剣があれば、あっという間に終わるのだ。



 そうして町に戻ると、町門前はまた厳戒態勢が敷かれていた。おそらく妖精剣の魔力に警戒していたのだろう。行きでも見た光景だったのですぐに誤解は解けると思い、気を抜いていたのがいけなかった。なんと矢がとんできたのだ。



「トロールだ! 街にトロールが迫っているぞ!」


 門番の悲壮な叫びが聞こえてくる。しまったな、トロールの毛を体に纏っていたためトロールと誤解されているらしい。幸いこの距離なら矢を避けるのは容易い。誤解を解くためにも近付く必要があるので、矢を避けつつ町へ向けて走った。


「トロール接近! は、速い!」

「盾構え! 囲んで動きを止めろ!」


 参ったな、動きを止められてしまえば四方から攻撃されて終わりだ。大きな声を出すのは苦手なんだが、そんなこと言っていられない状況になってしまった。誤解を解くため仕方なく声を出す。


「待て! 俺は人間だ! 落ち着け!」

「しゃ、しゃべったぁ!?」

「やっぱりあの冒険者なんじゃ……?」

「本当に人間か!? 証拠を見せろ!」


 それに応えて俺は素早く体に括り付けていたトロールの体毛を外していく。上半身が見える程度に外してから両手を上げて人間だとアピールした。



「こ、これはこれは。王都の冒険者様でしたか。またどうしてこんな格好を……?」

「……トロールの体毛採取依頼だ」


 依頼内容は守秘義務があるのだが、この状況で何も答えないと怪しすぎるだろう。複雑な心境ですと言わんばかりの苦笑いで近づいてきた兵士に、仕方なく依頼内容を伝える。


 この格好のまま町に入られると困るというので、手押し車を町の外まで持ってきてもらった。そうして一悶着ありつつも何とか町の冒険者ギルドに辿り着くことができた。後はトロールの皮を売ればこの町ともおさらばだと思っていたのだが、どうやらまだ帰れないらしい。



「ようそこエルンの町へ。私がこの町の冒険者ギルドマスターだ」

「……ダスターだ。王都から来た」


 冒険者と言えども、そうそう冒険者ギルドマスターに呼ばれるなんてことはない。ましてや拠点ではない町のギルマスなど見たこともないのが普通だろう。何故呼び出されたのか分からないな。もしかしてトロールの体毛を纏って町に近づいた苦情だろうか。


「さっそくだが、ダスターくんには極秘依頼を受けて欲しい」

「……断りたい。俺は今別の依頼中だ。……かさばる荷物もある」


 もうすぐガルム期だ。できれば収穫祭前に、最悪でもガルム期前には王都に戻りたい。


「ああ、知っている。トロールの体毛採取だろう? その依頼はここで達成完了手続きを行う。その体毛もこちらで王都に運搬しておこう。これで問題はないな?」


 なかなか強引だ。冒険者ギルドがこういう強引な話の運び方をするときは冒険者側に拒否権がないというのが常識だ。仕方ない、その依頼を受けざるを得ないだろう。しかし極秘依頼か、あまり関わり合いたくないな。



「……依頼内容は?」

「うむ、帝国の越境経路の調査だ。帝国は王国の国境警備をすり抜けて王国に入ってきているらしい。帝国がどうやって王国に入っているかの調査だな」


 なるほど、だから俺に依頼するのか。帝国襲撃は機密事項、他の冒険者には依頼できない。その点俺は既に王城が帝国に襲撃されたのを知っている。これは断れないな。しかし、どうしてそれを冒険者に依頼する?


「……それは王国兵の仕事だろう? 国同士のいざこざに冒険者ギルドは不介入なのでは?」


「そうも言ってられんのだよ。もちろん王国兵、それと東部貴族の私兵総出で調査中だ。しかし国境線は長い。全てを調査しきれんのは分かるだろう?」


「……ああ」


「特にエルンの森は広く国境に面している。その上トロールをはじめとした凶悪な魔物が多い。そこに王都でスタンピードを防いだ英雄冒険者が居る。しかも帝国との内情もある程度知っているとなれば、使わない手はない。そう判断されたのだろう」


「……なるほど」

そう言えば南東の森はエルンの森というのだったな。王都では馴染みのない呼び方だ。


「国の問題には不介入とは言え、我々も王国内で活動している。国から強く要請されればなかなか断れんのだよ。な?」


「……そうかもな。しかし漠然とし過ぎている。森で延々と帝国兵を求めてさまよえば良いのか? 言っておくが、森の中で何日も行動するのは不可能だ。トロールが多すぎる」


「痕跡だけでも発見できれば良い。冒険者ではあり得ない人数の野営跡とか、王国内では珍しい帝国産のゴミとかな。森の中での行動が難しいのなら、森の外縁部をまわるだけでも良いぞ」


「……何も見つからなくても依頼達成になるなら」

「ああ、それで良い」


「……分かった。森の外縁部を北側から南側まで確認してこよう」

「よし、ではさっそく頼んだぞ」


 どの道拒否権はないからな。森の奥へ入らなくても良く、何も見つからなくても良いって言質を取れただけでも良しとするしかない。トロールの皮を売って食料を買い込んで出発だ。しかし結構な長丁場になるぞ。


 王都にはガルム期後に戻るしかないな……。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 妖精剣を持った冒険者、王都帰還が遠のく。 あとついでに、ボストロールが南東の森に追加されました。
[良い点] トロールがしゃべったああああ
[良い点] ダスター…枯れた冒険者おっさんがギルドで肉を摘みに呑んだくれていたばっかりに、妖精の恩恵を貰って面倒な事態に…。・゜・(ノ∀`)・゜・。
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