表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小さな妖精に転生しました  作者: fe
四章 収穫祭
143/342

140. 海

 シルエラさんが妖精様への絵本読み聞かせを終えて、書類仕事に移られます。その後に私は妖精様のお体をお拭きし、綺麗にして差し上げます。これが船の上で夜を過ごす際の1日の終わりの日課です。


 しかし、この行動に意味はないのかもしれません。何故なら妖精様をお拭きするために用意した水は、使用後の方が綺麗になるからです。これでは妖精様を清めているのか水を清めているのか分かりませんよね。妖精様は常に綺麗なので、わざわざお拭きする必要はないのかもしれないです。


 船員の(かた)が1度、水が綺麗になるなら河の水で妖精様を洗って河の水を浄化しようと提案してきました。冗談ではありませんよ。妖精様をあんな汚い水でお拭きするなんて許されません。


 妖精様をお拭きして綺麗になった水を飲もうとした船員もいましたが、これも全力で阻止しました。飲んでお腹が痛くならないなら利用方法がいくらでもあるらしく、飲めるかどうか試したかったそうです。しかし女性が使用後の水を飲むなんて変態過ぎますよ。あの船員は妖精様から遠ざけた方が良さそうです。




 この船旅も色々とありましたが、特に問題もなく港町に着きそうですね。最初に訪れた旧バスティーユ領都の初日こそ、妖精様は突然居なくなられましたが、それ以降は私たちの都合に合わせてくださっています。


 旧バスティーユ領都は王権に逆らって捕えられた元バスティーユ公爵が治めていた土地であるため、領民の皆さんは王権に対して複雑な感情を抱かれていたそうです。王城の馬車に対する視線も最初は結構冷たかったように感じましたし。


 裏切り者が領主だったという理由で、領民は遠出をすれば高額を吹っ掛けられ、行商をすればハブられるといった風評被害を既に受けているそうなのです。


 さらに、妖精様は元バスティーユ公爵が捕えられた遠因として受け取られているため、最初はあまり歓迎されていませんでした。しかし妖精様の献身的な働きで、旧バスティーユ領都を出る日にはそれはもう大人気でしたよ。さすがは妖精様です。


 ちなみに旧バスティーユ領は名前が変わるらしいのですが、私はまだ知らないのですよね。領民の方々も知らないようでした。




 港町に到着予定日、今日もシルエラさんは妖精様に絵本を読み聞かせていました。絵本の内容は、妖精様が王都スタンピードを救った物語です。スタンピード直後、商業ギルドのマスター様が絵本を作ると興奮しておっしゃられていましたが、まさかこんなに早く仕上げてくるとは思いませんでした。


 絵本内で冒険者が使う妖精様の剣は、事実どおり小さくするか、子ども受けを狙って人間サイズにするかで揉めたそうです。その際には商業ギルドのマスター様が妖精様の意図を曲げるべきではないと、小さい剣にすることで押し通したとか。私もその方が良かったと思いますね。


 妖精様は実に興味深そうに絵本を眺めておられましたが、何を思われていたのかまでは私には分かりませんでした。聡明で思慮深い妖精様のお考えは、私などには理解が及ばないのです。



 商業ギルドのマスター様は、他にも妖精様を題材とした絵本を作ろうとされていましたが、王城襲撃事件などは箝口令が敷かれているため却下されたそうです。今は妖精様が河に流された子どもを救う話を題材にするため、助けられた子どもを探しているとお聞きしましたね。


 また、妖精様を題材として冬の間に演劇も開催するそうです。演劇は、雪に閉ざされてできることが少なくなる冬の間の数少ない娯楽の1つですから、力も入るでしょうね。


 王都の改築も進んでいるそうです。収穫祭で人が集まる前に、本格的に妖精様で飾り付けたいのでしょう。街門の両脇には妖精様の像が配置されるとも聞いていますし、帰るのが楽しみですね。



 そうこうしていると海が見えてきたと連絡を受けました。甲板に出ると船員の方が指さして教えてくれます。


「ああ、嬢ちゃん。あっちだ。あれが海だぜ」

「ありがとうございます」


 空との境界線が一直線に分かれていますね。大きいと聞いていましたが、あまりよく分かりません。風に乗って独特な香りがします。これが潮の香りですか。初めて海を見ると絶対に感動すると言われていましたので期待していましたが、いまいちピンとこないですね……。



 遠目に見たときはそんな期待外れの思いでした。その後も船内でお仕事をして、下船間近に甲板に出て改めて海を見ると、その大きさに圧倒されます。


「うっわぁ……!」


 これが全部水なのですか? この水があれば妖精様が来られる前でもあれ程水に困らなかったのでは? 我が実家の領もあんなに貧困に喘ぐ必要は……。いえ、海の水は飲めないだけでなく農業にも使えないのでしたか。


 波の音も河とは全然違いますね。河では流れが緩やかな場所ではチャポンチャポン、パシャパシャと言った感じで、流れが速いとジャバジャバジャバジャバ、ザーッって感じでした。でも海はザザーン、ザザーンなのですね。


 色は夕陽に照らされてよく分かりません。青いと聞いていましたが黄色く見えます。でも汲むと透明なんだとか。不思議ですね。



 ふと視線を感じて横を見ますと、妖精様が興味深そうに私を観察されていたのでした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング
↑一日一回クリック下されば嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 〉裏切り者が領主だったという理由で、領民は遠出をすれば高額を吹っ掛けられ、行商をすればハブられるといった風評被害を既に受けているそうなのです。 理由のところが根拠のない噂や嘘ではなく…
[一言] 妖精残り湯...結構売れそう(変態の意味を除くでも
[良い点] 妖精の聖水… 売ったら大ヒットしそう
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ