131. 使い方
その剣は見たこともない形だった。とても実用的とは思えん、格好良さや美しさのみを追求したような形状だ。
5本あると言う魔剣を5本ともあちらの間諜が奪取したらしい。帝国には2本しか寄越さんかったが、まぁ最終的に全て手に入れるのは帝国だ。
その剣の鍔は絵本に出てくる妖精の羽のようであり、左右非対称の歪な、それでいて美しいと思わせる工芸品のような形状をしておる。その金縁に半透明な鍔は、素人のワシが見ても斬り結ぶことを全く想定していないことは明確だ。
握り部は長く両手剣のようで、それでいて細く、まるで女子供の手を想定しておるようだ。その割には剣身の長さは一般的なショートソードより短い。長めの短剣と言っても通じるくらいの長さしかないのだ。握り部の長さと剣身の長さがアンバランス過ぎる。
その片刃の剣身も細く、実用面での全体的な見た目は頼りないと言わざるを得ない。儀礼剣ですらもう少し実用的で、それに対してこちらはまるで子供のオモチャである。そう思い改めてその剣を見ると、子供が持てばちょうど良いショートソード程度の長さになるように思われた。
しかし、その剣身は光り輝いているのだ! 子供のオモチャである筈がない! この異常な魔力、生活魔法程度しか使えんワシですら感じ取れるくらいなのだ。だいたい我々にダミーを掴ませる目的なら、もっとそれっぽい従来どおりの形状の剣を用意するだろう。
王国はこの剣で魔法の刃を飛ばしてきたと言う。この剣の歪な形状は、魔法を飛ばすことだけを目的とした形状なのだ。細く短い剣身は、その剣の使用方法が斬る、突くといった使い方ではないという証だろう。そして長い柄は、魔法を飛ばす反動を両手で抑え込むことを考慮しておるのだ。
そういう考えでその剣を見ると、何とも合理的な形状に見える。5本の剣は属性に合わせたそれぞれの色を纏っていたと言う。今ここにある剣は赤と茶、火属性と土属性だろう。赤い剣を振るえば炎の刃が敵を切り刻みながら焼き払い、茶色の剣を振るえば石礫が敵を圧殺する、その筈なのだ。
だと言うのに、剣を振るっても魔法の刃が飛ぶことはなかった。魔術師に見せても首を傾げるばかり。兵に振らせてもブォンという音が鳴るばかり。発動条件が分からん。どうすればこの剣で魔法が飛ぶ?
偽物ではない筈だ。あちらもこの剣を魔剣と言っていた。報告では詠唱もなしに連続で魔法の刃を飛ばしてきたという。時間のかかる条件ではない筈だ。連射できるということは、ワンアクション、多くてもツーアクション程度で発動しないとおかしい。
しかし、使えんでも問題はない。王国の切り札は5本全て奪取したという。次の戦では王国に魔剣はない。懸念事項が消えたのだ。魔剣の使い方は、あちらの魔術師を相手にする前に王国を落とし、王国の奴らからゆっくり聞き出せば良いのだからな。
気になる点は他にある。妖精が北に向かったということだ。そしてあちらの魔術師が王国北方貴族共にかけた洗脳も解けていたという。これも妖精の仕業か?
まぁ、バスティーユを捨てた時点で王国の北など不要か。もともと帝国と王国のどっちつかずの奴らだったのだ。切り捨てても構わんだろう。あちらとやり合う前にあちらの洗脳が解けたのだ。むしろ好都合か。
――やはり、流れは帝国にある。