110. レジスト
「このハーブティーには、リラックス効果しかないと」
妖精様がパレードでお出しになられた花弁、それを一早く集めていた薬師ギルドに問う。
「通常であればその通りですぞ。王女殿下も飲まれたでしょう?」
「確かに、ホッとするような感じはしましたが……」
彼らが言うには、リラックスできるというハーブティーの効能は花弁の効果ではなく、元々そういうハーブティーなのだそうだ。
ただ、非常に不味いらしい。せっかくのリラックス効果もその不味さで台無しという残念なハーブティー。ハーブティーと言うよりは薬と言った方が良いかもしれない。そこに妖精様の花弁を投入すると、効能はそのままで不思議なことに味が良くなると言う。
薬師ギルドは集めた花弁を薬にできないか考察する上で、まず最初に食してみたそうだ。なかなか挑戦的だとは思うが、妖精様が毒になるようなモノを街にバラ撒くとは思えないという、その判断は理解できる。そして味が良いことに気付き、であれば効能は高いのに不味くてあまり利用されない薬と合わせてみようという考えに至ったと。
「では、あの変わりようは何ですか?」
「あの花弁にはですな、精神的なレジスト効果もあるようでしてな」
「レジスト効果?」
「そう。精神的な状態異常化を防いだり治したりといった効果です。魔術や呪い、薬や毒による精神異常。例えば、混乱、異常な眠気、心神耗弱、……そして洗脳、とかですかな」
「洗脳!?」
「なんだと!?」
「では北部連合は洗脳されていたと言うのか!?」
周りがいっきにざわつきだした。帝国が確実に王国を落とすために、北部連合を洗脳までしていたと言うのであれば事は重大だ。
「いやいや、ワシにも分かりかねますよ。そういった効果がある、というだけの話でしてな。あと、良いことしたい気分に多少させてくれるようですな。ワシら薬師ギルドもこの花弁は国のためになると思い献上させて頂いたくらいですしな。ハッハッハ」
「なるほど、分かりました」
お母様が話の締めに入られるようだ。
「あれだけ街にバラ撒かれたのです。流通の規制は無理でしょう。好きに扱いなさいな。商業ギルドには国内貴族に行き渡るよう口を出しておきますか。ただし、洗脳を解くという効果は伏せておきなさい。いずれバレるでしょうが、今は洗脳が解かれていないと思わせておくことで優位となるでしょう」
「はっ」
「それから、どのように洗脳されたのか調査させなさい」
「ははっ」
「はっ」
ハーブティーの話が終わったと見て宰相が動く。
「次に、妖精様の巡回派遣による不作対策の件ですが……。妖精様、北の港町まで往復して頂くことは可能ですか?」
宰相が問うと、妖精様はしばらく考え込む仕草をした後に頷かれた。これで王家が妖精様を独占している訳ではないという体裁を保てるだろう。
「ありがとうございます。今年は収穫期まで時間がなく、さらに帝国対策で手一杯ですので北のみの巡回となりますが、来年以降には他地域もまわって頂く可能性がございます。宜しいですか?」
頷かれる妖精様。何も考えずにノータイムで頷いているだけのように見えたが、あれでいて妖精様の頭の中では様々な計算がなされているのだろう。この了承で、少なくとも来年の各地巡回までは王都に滞在して頂けるという確約も取れたのは大きい。
「ありがとうございます。今や帝国も妖精様を注視していることでしょう。妖精様が北に移動されて帝国の注意が北に向いた隙に、我々は地下道の制圧に動きます。以上。他に何かある方はおられますか?」
……動くものは居ない。
「――では、以上で解散となります」