表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ルネの猫

作者: 利伊代之華

ルネはフィリップとニコラのお友達。

王立貴族学園のテスト期間が終わり、フィリップとニコラがベルニエ領に行っている間のお話です。

フィリップ曰く、ルネはそそっかしい奴らしいです。

 屋敷に帰ったら、使用人達の様子がおかしいんだ。


 四つん這いになってウロウロ。テーブルの下を見たりワゴンの下を覗いたり。

 窓から身を乗り出してるし。コラコラ危ないでしょ。


「お前たち、何をしてるんだい。私が帰ってきたのに脚立から降りなさい。窓から身を乗り出すんじゃない」


「ああ、ルネ様。申し訳ございません。申し訳ございません」


「そこまで謝らなくてもいいよ」


「ブリュレ様が」


「え?」


「ブリュレ様が行方不明なのです」


「な、なにぃ〜!どこへ行った?」


「それが分からないから」


「急いで探せっ」


「は、はい〜っ!」


 心配だから僕も探すことにした。昨日ペットショップから連れて帰ったばかりのシャム猫のブリュレが居なくなったのだから。


 まだ家を覚えてもいないだろうから自力で帰って来るなんてきっと無理だよ。



「ブリュレ〜、ブリュレ〜」ブリュレは自分の名前がブリュレだってちゃんと覚えているのだろうか。心配だ。



 迷い猫になってしまわないだろうか、心配で彷徨い猫のように僕もあっちにウロウロこっちにウロウロしている内に高級邸宅街に迷い込んでしまった。

 この辺りは来たことがない。この一画は特に大邸宅が多いようだ。

 流石に遠くまで探しに来過ぎた。あの小さな子猫がこんな遠くまで来られるとは思えない。



「はあ、落ち着け。もう一度戻って屋敷の近くを丁寧に見直すんだ」



 そう言いながらも視線を四方に向けながら歩いていると、高い塀の向こうから犬の低い唸り声が聞こえた。


 ウーウー


 それに怯えるかのようにミィーミィーとかぼそく微かな子猫のなき声もしている気がする。


 ウー


 ミィーミィー


 はっ!やっぱりあの鳴き声はブリュレかも!?

 そう思った時、塀の向こうから声が聞こえた。


「お前、静かにおし!お座り!伏せ!」


 この屋敷の使用人?いや、言葉遣いからするとご令嬢だろうか、毅然とした姿が目に見えるかのような凛とした声だ。


 だけど続いて聞こえた声にガクッときた。



「こわかったでちゅね〜、かわゆいニャンコロちゃん、どこから来たのでちゅか〜」


 え?さっきの毅然とした態度はどこへ行った?



「おなかすいてるのかにゃ〜?ミルクのみまちゅかにゃ〜?」


 あ、やばいブリュレが連れて行かれる。


「あのー、すいません。そちらにいらっしゃる御令嬢、その子猫は私のブリュレかもしれないのですが確認させていただいても宜しいですか」


「・・・」


「私、ルネ・カザールと申します。カザール伯爵家の次男。怪しいものではございません」


「コホン。はい、では正門の方へいらしてくださる?この子を連れてまいりましょう」


「はい、お手数をおかけします」


 見ると向こうの方に門柱が見えたのでそう言ってあっちとこっちでそれぞれ正門に向かった。

 去り際に「ココ、よし!」と犬に命令を解除する声が聞こえた。



 開けてびっくり玉手箱!ここはまさかのアングラード侯爵邸。そのド派手な縦巻きカール!そう、あの声の主はカトリーヌだったのだ!!


 しかしブリュレの為に怯んではいられない。



「ああ、カトリーヌ・アングラード嬢でございましたか。私は同じ学園に通っておりますルネ・カザールと申します」


「ええ、お名前は先ほど聞きました。で、カザール様、こちらはあなたの子猫ちゃんですの?」


 あれ?許されてないにも関わらず殿下のことをフィリップ様、ニコラのことをニコラ様と呼ぶこの令嬢、私のことはカザール様と・・・?私に興味が無いからか、ここにきて常識を弁えたのか。どちらにしても自分だけ名を呼んでもらえないのはちょっと納得がいかない気がした。



 しかし、その腕の中にいるのはまさに!



「あーっ!ぶりゅれ〜!!さがしたよ〜!!」


 ゴイーン


 門の柵越しを忘れてブリュレに手を伸ばそうと近寄り、間にあった鉄の棒で思いっきり顔を打った。


「いったー!」


「ぶふっ、カザール様はとても忙しい方ですのね。ブリュレちゃんは逃げたりしませんことよ。今、そこを開けさせますからお待ちになって下さいな」




 意外な事に、カトリーヌは親切だった。このまま連れて帰ると途中でまた逃げてしまうかもしれないと猫にもリードをつけて散歩する人もいるようだから言って細めのリードも出してくれた。だけど、まだ子猫のブリュレに大型犬の子犬用リードは太くて重そうで合わなかった。


 それならちょっとお待ちになってとルネとカザールを屋敷に上げ、犬用だけど使っていないからと小さめのキャリーバッグを出してくれたのだ。


 更に親切にそのバッグに入れるのはブリュレが不安だろうから落ち着くまで待って差し上げてねとブリュレにミルク、ルネに紅茶とお菓子ぽてちまで振舞ってくれた。

 向かい合って紅茶を飲みながらルネもすっかり落ち着いて、カトリーヌに話しかけた。



「カトリーヌ・アングラード嬢の飼われている犬は何犬ですか?主人の指示をきいてとても利口そうですね」


「ええ、とても賢いの。シェバードのココは番犬ですから敷地内に知らない猫ちゃんが入ってくるとああやって脅かしますけど咬んだりはしませんのよ」


「それは凄いですね。私はブリュレを昨日から飼い始めたのですが、どうしたらいいのか。さっそく脱走されてしまいました。カトリーヌ・アングラード嬢は猫にもお詳しいのですか」


「私は猫には詳しくございませんが、まずはトイレトレーニングじゃないかしら?」


「なるほど」


 紅茶を一口飲みながらチラリと見る。


(なんか、いつものカトリーヌ嬢と様子が違って調子狂うなぁ。普通にどこかのご令嬢と話をしているみたいだ。そうだ、今日は服がいつものフリフリのギンギラじゃなくて地味というか普通だ。改めて見ると化粧もあまりケバケバしていない)


「カトリーヌ・アングラード嬢、今日の装いはとてもよくお似合いですね」


「そうかしら?ひどく地味ではなくって?・・・これは妹が私に似合いそうだと言うから、その・・・」

 なんかモゴモゴ言ってる。


「いいえ、いつもの装いに比べるといくらか大人しいかもしれませんが、カトリーヌ・アングラード嬢の美しさをより引き立てている。あなたがこんなに美しい方だとは、恥ずかしながら今まで気がついておりませんでした」


 僕はすらすらとカトリーヌを美しいと言ってしまった。だって、本当に綺麗でびっくりしたんだ。

 確か彼女の実の母親は王都1番と言われた美貌を誇っていたと聞いたことがある。その美貌で侯爵家に嫁に来たが性格に難があると離婚を言い渡されたというのは有名な噂話だ。(その後の後妻に子が出来るのが早すぎて本当は侯爵の浮気が原因じゃないかと言われているところまでがセットだけど)


 褒めたのに、カトリーヌは居心地悪そうにしている。


「カトリーヌ・アングラード嬢には妹さんがいらっしゃるのですね?」


「ええ、ルイーズは母親違いの義理の妹ですけどっ・・・て、あなたそのフルネーム呼びは止めてくださらないかしら?長ったらしくて落ち着かないわ」


「では、カトリーヌ嬢とお呼びしても?そして私の事はルネとお呼びください」


「・・・」


「ダメでしょうか」


 カトリーヌは困った顔をして言った。


「気安く名前を呼ぶのは余程親しい仲か、恋人のような方でしょう?カザール様は私をそう呼ぶべきではないのではないかしら?」


「私と親しくはしていただけないと、そういうことですか?」


「いいえ、私と親しくするとあなたがお困りになるでしょうと申し上げているのです。評判を落とすことになりますわ」


 呆気にとられてしまった。あのカトリーヌが人の評判を、しかも僕の評判を気にするとは思わなかった。


「あなたは殿下やニコラのことは名前で読んでいらっしゃるではないですか」


 名は許されなかったのだからアングラード嬢と呼ぶべきなのに、しつこく食い下がってしまった。何をムキになっているのか僕らしくないけど。


「あ、アレは・・・皆さんがそう思ってらっしゃるから」


「?」


「皆さんは私がそう呼ぶものと思ってらっしゃるでしょう?今更、殿下とかベルニエ様なんてお呼びすると天変地異が来ると思われてしまいますわ」


「え・・・」


 実は良識はあるけれど、周囲の期待(?)を裏切れないってこと?

 もしかしてものすごく不器用な人なの?



「では何故、私のことも名で呼ばないのですか」


「ここには他の誰かが居るわけでもございませんし、私はあなた様の事は存じ上げませんから、さすがに名を呼ぶわけにはいきませんわ」


 ガーン!!

 僕のことを知らないって?


 いつも殿下といるのに僕ってそんなにアウトオブ眼中だったの!?


 はあ、分かったよ。一から始めよう。

 殿下もゆっくり考えてから行動せよと申されていた。


「アングラード嬢、この度は私の子猫を保護してくれてありがとう。このキャリーバッグは改めて返しに上がります。

 私はあなたと同じ学年です。秋からは同じクラスになるかもしれない。

 今回こうして出会ったのも何かの縁、親しくしていただければ幸いです」


 そう言って礼儀正しく挨拶をして今日のところは大人しく辞去した。


 翌日、さっそくブリュレに子猫用のリードをつけてアングラード邸にキャリーバッグを返しに行き、お礼にバラの花束とお菓子ブリュレを持って行った。


 そして紅茶をいただいた後、ココとブリュレを連れて一緒にお散歩した。と言ってもブリュレは僕が抱いてるからちっとも歩いてないけどね。

 ちなみにココはココットが正式な名前だって。侯爵様の命名で皆で名前を考えてたときに卵のココットを食べていたからとか。なんだかそんなのを聞くと侯爵様にも親近感を持ってしまうよね。


 その翌日も一緒に散歩をした、その翌日も・・・。


 カトリーヌはまだ僕に名前呼びを許してくれないが、気安く笑って話をしてくれるようになった。僕は僕だけが知っている気を張っていないカトリーヌが大好きだ。


 彼女の魅力に僕だけが気付いているっていうのがすごく良い、優越感さえ感じるし。


 もしかして、僕の子猫のブリュレはキュービッドなのかな?早くその恋の矢を僕だけじゃなく彼女のハートにも打ち込んでほしいな。

「王子様は女嫌い」がブックマーク100件になったので嬉しくて、いつも読んでくださっている皆様にお礼のつもりで短編を書きました。楽しんでいただけたらうれしいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ