学校の七不思議
ひだまり童話館の「開館7周年記念祭」 に参加しています。
休憩時間に、前の席の陽奈ちゃんが後ろを振り向いて「なぁ、うちの学校の七不思議って知っている?」なんて聞いて来た。
「知らへん」と簡単に答えておいた。私はホラーが苦手なのだ。変な七不思議なんか聞いたらトイレに行けなくなっちゃうよ。
これは、この話はこれ以上したくないと言うサインだ。でも陽奈ちゃんは少し鈍いところがある。
「凛ちゃん、知らんの? うちは花音ちゃんから聞いたんよ。でも、花音ちゃんは二つしか知らんかったんや。だから、うちは二つしか知らへんねん」
陽奈ちゃんは、その二つを私に教えてあげよう、なんて言い出した。やめて!
「あっ、宿題してたかな?」
ノートを出して、宿題をしたのか確かめるふりをする。ちゃんとしているのは分かっている。でも、聞きたくないんだ。そんな演技はバレバレだ。
「なぁ、聞きたい?」まだ陽奈ちゃんは話したくて仕方ないみたいだ。
「ううん、良いよ。学校の七不思議なんか聞きたくない。怖いから」
このくらいハッキリ言わないと陽奈ちゃんには通じない。えっ、そんなに言い方がキツかった?
「ええっ、もしかして学校の七不思議を七こ知ったら怖い事が起こるの? うち、もう聞かんとこう!」
えっ、勘違いしているよ。そんな事は言ってない。
「違うよ。私が怖いだけ……」
陽奈ちゃんは、私の言葉を聞かないで花音ちゃんの席まで走っていった。何だか嫌な予感がするよ。
「花音ちゃん、学校の七不思議を何個知っている?」
陽奈ちゃんが尋ねている。
「あっ、陽奈ちゃんに教えてから、あと二つ聞いたんよ。教えてあげるね!」
これはマズイ。私も花音ちゃんの席へと行こうとしたのに、花岡先生が教室に入って来た。
「ほら、席につきなさい!」
陽奈ちゃんはバタバタと席についた。国語の授業は全く頭に入らなかった。だって、陽奈ちゃんがメモを回しているんだもん。花岡先生に見つかったら叱られるよ。それに、そのメモに何を書いているのか心配だ。
もし、学校の七不思議を全部知っている子がいたら、その子はとっても不安になるだろう。それを私が言ったなんて事になったら大変だ。
いっそのこと、陽奈ちゃんのメモが花岡先生に見つかって、学校の七不思議なんか無い! って叱られたら良いのにと思っちゃう。嫌な子だね。自分で自分が嫌になるよ。
次の休憩時間に陽奈ちゃんにちゃんと話そう。と決めていたのに、何でこうなるの?
「凛ちゃん、紫苑ちゃん七つ知っているんやて!」
どれだけメモを回していたんだよ。
「あっ、陽奈ちゃん、七不思議を聞きたく無かったんは、私がホラー嫌いだからやねん」
私はちゃんと言ったよ。でも、陽奈ちゃんは紫苑ちゃんの所へ飛んで行ったんだ。私も今回は急いで追いかける。
「うちら七つ知っているんや」
「どないしょう」
そこには紫苑ちゃんだけじゃ無く、愛莉ちゃんも暗い顔で座っていた。
「あのね、学校の七不思議を七つ知っても何にも無いよ。私はホラー嫌いやから聞きたく無いと言っただけやねん」
陽奈ちゃんと紫苑ちゃんと愛莉ちゃんはポカンとした。その後で、ぷんぷん怒り出した。
「凛ちゃん、酷いわ」陽奈ちゃんに責められた。
「ええっ、陽奈ちゃんが勘違いしただけやん。それに私はちゃんと説明しようとしたのに」
「私はマジ怖くなったんやで」と紫苑ちゃんは怒っている。
「紫苑ちゃん、だからそんな話は初めから聞かんかったら良いんと違うか?」
私か反論したら、愛莉ちゃんが無茶を言い出した。
「学校の七不思議、凛ちゃんにも聞いて貰わなあかん!」
「愛莉ちゃん、それは嫌や!」
三人に囲まれて学校の七不思議を聞かされた。
「七不思議の一つ目は、うちの校長先生の話は短い事や。普通は長いんと違うか?」
えっ、陽奈ちゃん、それって七不思議なんか? 愛莉ちゃんが自慢そうに二つ目を言う。
「二つ目は、花岡先生は花が嫌いなんや。花岡やのに変やろ?」
へー、知らんかったわ。男やからかな?
「三つ目は、ご飯給食なのに何故かご飯は皿に盛られること」
うん、これは食べ難いねん。でも、お椀には煮ものか、汁物が入っているから仕方ないんちゃうか? いや、煮ものは皿でええかも?
紫苑ちゃんも負けずに言う。少しでも遅れると愛莉ちゃんに言われるからだ。
「四つ目は、夏は水筒を持って来てもええのに、冬はあかんこと」
冬も喉乾くから持って来てもええと思うよ。なんであかんのやろ?
ここで陽奈ちゃんが知っている二こ目になったようだ。紫苑ちゃんと愛莉ちゃんを押しのけて言う。
「五つ目は、運動会は毎年雨になる事」
あっ、これはホンマに不思議や。運動会の日曜にやったこと無いもん。いつも月曜なんや。
「六つ目は、社会見学はお菓子工場が良いのに、何でか知らんけど味噌工場や酒蔵見学に行くこと」
学校の近所に味噌工場と酒蔵があるからしゃーないんじゃないかな?
「7つ目は、修学旅行がしょぼいこと」
確かにうちの学校の修学旅行はしょぼいとお姉ちゃんがぼやいていた。
『バスで奈良と京都回って泊まるだけ。せめて新幹線に乗りたいよ』ってね。奈良や京都なんてお隣さんだよ。
愛莉ちゃんと紫苑ちゃんは、どうや! って自慢そうだ。
あっ、この七不思議はホラーじゃ無いやつだ。
「えっ、七不思議の事は話したらあかんのじゃないの? 陽奈ちゃん、さっきそう言ってたやん」
陽奈ちゃんに二つ教えた花音ちゃんがやって来て文句を言う。
「この七不思議は大丈夫みたい。自由に話してええんちゃう?」
なんて言っていたが、七不思議を聞きつけた花岡先生に叱られた。
「私は花が好きだ。特に桜は大好きや。花粉症だと言ったのを聞き間違えたんやな。いい加減な七不思議なんか広めてはいけないぞ!」
何故か私も一緒に叱られた。七不思議なんて二度とごめんだ。絶対に関わらないぞ!
「凛ちゃん、ごめんやで」
まぁ、関係ないのに私まで叱られた事に陽奈ちゃんは謝ってくれたし、良しとしよう。
それに、私は頭の中で学校の七不思議を考えるのが意外と楽しい。花岡先生の花嫌いが無くなったから、何か他のを考えなくてはいけない。
このクラスの女の子の名前は「子」が付かない。これは他のクラスも一緒だから七不思議にはならないかな?
休憩時間に陽奈ちゃんと考えても良いかもね!
おしまい