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SEED~渇きに芽吹く欲の華~  作者: 五代健治
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1話 痛みの牢獄 -幕間2-

前書きの部分が一番何書くか悩む。

 SEED学園の存在する島、通称プランターの内、北西の一角。

 要が所有する建物の中では、深夜までその内部は煌々と液晶モニタが点いていた。

「要さん3時間クッキングーいぇーいクソッタレこんちくしょー」

 建物の一室では、要が三時間かけても上手くいかない実験を繰り返していた。正確には、その全てにおいて成功と呼んで差し支えない程度の結果は得られているのだが、要のお眼鏡にかなうほどの大成功が得られていないだけだった。

 これほど自分が失敗に失敗を重ねるのはいつ以来だ? と、最初は俯瞰的な心持で実験を進められていたが、一時間以上上手くいかない時点でク○ソだの死○ねだの下品な言葉が雨あられと口から発せられていた。

 そして、二十八回目のチャレンジ。

「ほーれこんちくしょー」

 机の上に山のように積まれた、一つ一つは五、六センチ程度の灰色の十字架に、剥き出しの配線をつなぐ。

 通称コアダストと呼ばれるそれは、SEEDコアのなりそこないのようなものだ。

 成長したインカーネントを傷つけると、血の代わりにこのコアダストが身体からこぼれる。

 インカーネントは見た目こそ生物らしいが、その中身は欲望のかたまりだ。傷つければ血ではなく欲望の結晶が出てくることは、ややシュールな見た目だが当然と言えよう。 

 そしてその配線のもう片方の先端は、大仰な機械に繋がれている。

 天井を抜いて、やっと部屋の中に納まるサイズにしたそれは、要お手製の欲望発電の装置だ。

 本来土地の余った郊外に、大型工場サイズの管理施設を添えて建てなければならないほど巨大なものだが、要はそれを高さと幅がそれぞれ四メートルほどまで縮小させていた。

 そしてその欲望発電には、数名の人間が気を失った状態で繋がれている。見た目はまるで処刑器具の電気椅子に繋がれた囚人だが、あいにくと今回は彼らから装置へ向かって発電するのだ。

「劣要ー、スイッチおーん」

『オッケー』

 自らの脳を基に作り出したAIに指示を飛ばすと、意識のない彼らの表情が、怒りに歪む。

 胸糞の悪い夢を見てしまった時の様に、表情の歪みは起きている時に比べて小さくとも、それが怒りの類であることは明白だった。

「ぐ、うぐぐ…………!」

「クソ…………畜生共……!」

 うなされるように、彼らがうわごとを呟く。

 不快な情報を脳に与えることで、それを忌避し、滅したいと思う感情、すなわち欲望が生成される。

 欲望は生成されると同時に電気信号に変換されてから配線に流され、コアダストの山へ注がれる。

 カチャ……カチャカチャ…………

 コアダストが揺れ、自ら動き出す。

 方向性を持たない、純粋な欲望のかたまりであったコアダストが、欲望を注ぎ込んだ人間達の意思を受け取り、自我に目覚める。

 欲望はその方向性、意思を持ち、それが現実に形となる。コアダストの一部が宙へと舞い、やがてそれは人間のような輪郭を模る。

「オ、オオア…………!」

 そして輪郭は立体となり、立体はその表面に凹凸を増やしていく。

 出来上がったのは、黒ずんだ、人型の怪物だ。

「ハーイ、要さんの声は聞こえまちゅかー? 理解出来たら右手を上にあげ

「グルアアアアアアアア!!」

 要が生まれた怪物の知能テストを試みると、怪物はその言葉を待たず要に襲い掛かった。

 だが、瞬時に素手のままの要に顔を掴まれ、アイアンクローを見舞われる。

「ガオッ!?」

「はーい、人の話はちゃんと聞きまちょうね? 分かったらおとなしく

「グルルゥア!!」

 しかし、怪物はそこで動きを止めた要を再び襲おうとする。要はため息をつくと。

「はい失敗と」

 SEEDの装甲と同等の硬度を持つ怪物の顔を、素手のまま握り潰し、指をめり込ませる。

「ゴヒャ!?」

 そしてトドメに、空いていた左手で怪物の首のど真ん中を貫き、手の中に握ったひと際黒々しい色に染まっていたコアダストを握りつぶす。

 するとその瞬間、怪物は再びコアダストに分解され、ジャラジャラとやかましい音を立てながら床の上にぶちまけられた。

「28回あることは29回ありそうだぜチクショー」

 要は手近にあった椅子に身を投げ出し、天井を仰ぐ。

 制御の出来るインカーネントを創り出そうとしていたが、中々上手くいかない。

 その胸中には、疲れと共に、三十回近いトライ&エラーなどという凡人のごとき所業を犯した自分への怒りが渦巻いていた。

 生み出しては殺し、生み出しては殺し、どうもこちらの意図通り動いてくれる怪物が生まれてくれない。

 体内時計に尋ねると、時刻は既に深夜二時を回っていた。

「しっかたねーか」

 何故上手くいかないのか、論理的な仮説の検証は夢の中で済まそう。

 そう決めて、要は別の小机の上に置いておいた、別のコアダストを三つ摘み上げる。

 それは他のコアダストと異なり、やや淡く白みを帯びていた。

「欲望を縛り上げんのは、要さんの主義に反すんだけどなぁ」 

 今度は積み上げられたコアダストの山を三つに分け、それぞれの頂上に白いコアダストを置いてから、先程と同じ操作を繰り返す。

 すぐさま生まれた怪物たちを見て、自嘲気味に呟きを漏らす。

「ま、次回までには多少頑張りますか。劣要ー、そいつら見張っておいてー。言うこと聞かなかったら壊していーから」

『おっけー。おやすみマスター』

「マスターはやめてくれよ。要さんは要さんであろうと、要さんを従える存在は許さねーし、従える気もねーぜ。好きに生きなー」

 そう呟いて、要は夢の世界に移動した。完璧でなかった自分の手法を改善するため、体は休めつつ脳みそをフル回転させるために。


欲望発電って一体どういう仕組み何なんでしょうね。

私も知らない。

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