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SEED~渇きに芽吹く欲の華~  作者: 五代健治
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1話 痛みの牢獄④

「主人公一体何者やねん」というツッコミが聞こえてくるようで震えています。

ごめんなさい、生意気にもまだ明かすつもりはないんです……

 次の日。

 別に建ててほしいわけじゃないけど、人の口に戸は建てられないとはよく言ったもので。

 学園中が、俺とウェルデ嬢の騒動の件でもちきりになっていた。

 モールでのいざこざがその場の客たちに撮影され、SNSで拡散されたらしい。島の外の方がそういった情報にはアクセスしやすいが、学園内でも全く知ることが出来ないわけじゃない。そしてこの学園の生徒は、良くも悪くも自分達を満たす娯楽に飢えている。

 にしてもウェルデ嬢が怒りに任せてSEEDを展開しなくてよかった。SEEDが映り込んだ動画が拡散されていたら、アップした人は今頃お魚の餌になっていただろう。

「席は…………あそこにするか」

「おう」

「うん」

 昨日島に帰ってから今日の午前中までで、来週提出の課題はすべて片づけた。

 さぁお昼を食べたらこれから特訓だという時、食堂中の視線は俺たち、いや俺に集中していた。こんな痩せぎすの灰髪頭、見ても楽しくないだろうに。

「周祐君! 今いいかな?」

 何がいいのか、目的語を忘れないでくれと思いながら視線を上げると、片手でボイスレコーダーをいじっている男子生徒と、メモとペンを手にした女子生徒の二人組だった。

「新聞部2年の後藤ごとうと、1年の清木きよぎです」

誤報ごほう虚偽きょぎ?」

「「後藤と清木!!」」

 だってそう聞こえたんだもん。

「で、本日はどういったご用件でしょう?」

 新聞部だという自己紹介の時点で分かりそうなものだが、あくまで確認しておく。

「もちろん取材だよ! クラス代表枠を競う勝負自体は毎月何件かあるけど、ここまで話題になるのも珍しいから、ぜひ記事にしようと思って来たんだ! それで、インタビューを申し込みたいんだけど…………」

「はぁ、あんまり気の利いたことは言えなくてよければ。あ、ご飯食べたら明日に向けて訓練もしたいので、手短に済ませてもらえると嬉しいんですけど……」

「大丈夫だよ、ありがとう! あ、念のため録音させてもらうね」

 断る理由もないので了承する。誤報さん(気に入ったので心の中でこう呼ぶことにした)はボイスレコーダーを取り出し、机の上に置いた。

 別に良いんだけど、ご飯中でカチャカチャくちゃくちゃ雑音が入りまくると思うんだけど。最近のレコーダーってすごく性能いいし。

「それじゃあ、周祐君のこと……は聞いている暇がないかな、残念だけど。じゃあ明日の対決に関する話から。まずは周祐君はクラス代表の担任推薦枠に選ばれたわけだけど、周祐君自身は何でだと思う? それと、その選出は妥当だと思った?」

「いんえ、全然」

 肉じゃがとご飯をお茶で流し込みながら、心の底からの本音で答える。

「まず選ぶ理由が分かりませんね。俺、見た目の通りがりっがりで、体力もなくてリハビリ中なんですよ。大会に出たとして、俺は仮に勝ち進むと最大で5回戦も戦うわけですけど、2回戦の途中でスタミナ切れますよ。そんな奴をどうして選んだのか、全くわからないですね」

「ふんふん、心当たりもない?」

 俺の体格を見てその通りだと思ったのか頷く誤報さんの言葉に、ちょっとだけ考える。

「影姉……担任どのは、俺で遊ぶのが好きですからね。あと、実践に勝る学習は無いと思っている人ですし、わざと俺を選んで波風立てて、生徒間でひと悶着起こさせるのが狙いだった可能性はありますね」

「ええ? 本当に?」

「あの人なら、やりますよ」

 俺の言葉に、隣のシドもうんうんと頷く。

「あれ? 大河君も、周裕先生とは親しいの?」

「あー、俺と空映って、同じ小学校に通ってたんですよ。俺は中学からはプランターに来ましたけど、その縁で何回かお会いしまして、まー強烈なお方ですわ……あ、オフレコでお願いしますね」

「今まさにオンレコなわけだけど…………まぁ、それについてはまた今度聞かせてもらうとして、次の質問だ。ずばり、明日の試合の勝算はどのくらい!?」

「んー…………」

 これに関しては思うところがあったが、とりあえず質問に対して素直に答えてみる。

「試合の勝ち負けなら、まぁ十中八九勝てないでしょうね」

「え?」

 求めていた返答と違い過ぎたのか、誤報さんと虚偽さんが脱力する。

「そ、それはまたどうして?」

「んー、まず俺の機体が、要さんがふざけて作ったものなので、近距離武器しか使えないという欠陥品です。そしてこれは確認していないから予想ですけど、多分お相手のメイン武器は鞭でしょうから、リーチ的に超不利ですね。固有武器じゃない共用パッケージの鞭でも、最大20メートルくらいある鞭とかあるじゃないですか。しかも俺の機体、加速が最大で2回しかできないんですよ? 相手の機動性がどのくらいかは知りませんけど、俺より遅いってことはないでしょうから逃げきれませんよ」

「た、確かにそれは…………」

「ま、相手が体調を崩すかとてもおバカなことを祈るしかないですね。ご馳走様!」

 そこで言葉を切り、丁度昼食も終わった俺は両手を合わせてから立ち上がる。会話をしていなかったシドとカルスは既に食べ終わっており、二人も俺に合わせて立ち上がる。

「さて、それじゃあ訓練に行ってきますので、この辺で失礼します」

「え、あー、えっと…………じゃあ、最後に一言だけ、何か意気込みみたいなのを貰えるかな?」

「意気込み? んー…………」

 そこで俺は数秒考えこみ

「”五体満足で終われるといいな“ですかね?」

「え? えーっと、それって…………」

「ずいぶんとご機嫌がよさそうじゃないか」

 すると後ろから、ちっとも言葉通りに思っていなさそうな声がかけられた。

 見るからに不機嫌、を通り越して失望をあらわにしている娥がそこに立っていた。

「新聞の取材か。兵器で互いを傷つけあうところを見世物にされるというのに、ずいぶんと楽しそうだな? 有名人にでもなれてうれしいか?」

「俺への見方はみんな似たようなものだろうけど、せっかく娯楽がない学校なんだ。このくらい構わないよ」

「どうだかな」

「んで? そんなことを言いに来たんじゃないだろ? 影姉あたりから何か言われた?」

 娥は言い当てられたのが癪に障るのか、盛大に舌打ちを一つすると、手にしていたA4用紙を突き出すように渡してきた。

「今時データで渡せばいいだけだろうに」

「知るか、ねえさま……先生に直接言え」

 数枚綴じられていたそれは、ウェルデ嬢の機体のデータだった。内容は極々基本的なもので、生徒間なら一般公開されているそれをわざわざ紙で渡すあたり、影姉は俺と娥が会話する機会を設けたかったようだが、娥にその気がないので目論見は失敗だ。

「あ! 橘さん! 丁度他のクラス代表に選ばれた人にも取材をしたいと思ってたんだ! 今ちょっと時間―――――

 ギョロ

 果敢にも空気を読まず、娥に取材を申し入れようとした誤報さんは、娥の一睨みでおとなしくなる。

「―――は、なさそうだね…………。は、ははは、あははははは…………」

 誤報さんと虚偽さんは、俺の方にじゃあねと小さく挨拶すると、そそくさと逃げていった。

「おー怖い」

 ギロリ と、今度はその視線がこちらに向けられる。

「…………勝算はあるのか」

「え?」

「明日の勝負、勝算はあるのかと聞いている」

 吊り上がっていた目じりを少し水平まで下げ、娥が聞いてくる。

「試合の勝算はさっき答えたようにほぼ0だけど――――、勝負の勝算ならちょっと不安」

「不安?」

「ああ。やり過ぎないか、ちょっと不安」

「なに?」

 俺は踵を返し、背中越しに手を振る。

「ま、俺の応援なんか来てはくれないだろうけど、暇だったらベットでごろごろしながら中継でも見ててくれよ」




『機体名:Invasionインヴェイジョン

  耐久度:4 敏捷性(地上):6  敏捷性(空中):6  攻撃力:3

  地上加速回数:4  空中加速回数:7  エネルギー効率:8

  シンクロ率:66.1%

 固有武器:Oppression 全長18mの鞭(通常時)。接触した部位に激痛を発生させる機能有り』

 訓練のためにアリーナに移動してから娥から渡された資料を読むと、おおよそこんなことが書いてあった。

 それを見て、俺よりSEEDの戦闘の経験があるシドとカルスがうんうんと頭をひねり出す。

「機体としては、燃費と機動性能に重きを置いてる感じだな。攻撃力が無くても、相手の操縦者の方を痛みで降参させればSEEDを壊せなくても勝てるってわけか。対人戦に特化してやがんなぁ」

「アナルズィーヂーキ(痛み止め装置)使えばいいんじゃないの?」

「んー、まぁそれはそうだけど、デフォルトのもの以外に追加でインストールすると容量が不安だし、特に空映の機体の場合余計に…………ああいいや、そもそもいいのか」

「?」

 シドが資料を読みながら考えを漏らし、途中の言葉にカルスが首をかしげる。

「いや、なんでもねぇよ。空映、戦う本人なお前の所見は?」

「18mある鞭の相手を、近距離武器だけでねぇ…………」

 鞭という武器の最大の利点は、鞭の先端から半分までの部分なら、どの部分であっても相手にぶつけた時のメリットがあることだ。

 SEEDの武器であるからには、人間が使えるようなものではなく、それ相応の重量があるはずだ。となれば先端の数十センチをぶつければ、遠心力を乗せた一撃は侮れない威力を持っているだろう。普通の車程度なら薄紙程度に破けるだろうし、戦艦あたりでもぶつけ方によっては、ひしゃげるどころか鞭が触れた部分がきれいにくりぬけるだろう。

 各SEEDごとの専用武器であるウェルデ嬢の鞭の仕様はよく知らないが、共用武器として大抵の機体で扱える鞭にも、鞭内部の重量の推移機能があったはずだ。つまり振り始めは手元に近い部分を重く、振り切った時には鞭の先端を一番重くすれば、20m近い鞭でも人間の腕の長さのスイング一回で最大限遠心力を発揮できるわけだ。

 ウェルデ嬢の鞭にもそれと同じ機能があるだろうし、振り抜かれた鞭の先端が持つ威力は、俺の武器で出せる威力の中でも相当強い部類と同等、もしくはそれ以上だと予測できる。

 かといって、先端に打たれたくないがために、中途半端に踏み込んでも自殺行為だ。鞭の先端から数メートルの部分に打たれれば、威力は先端で打たれた時に比べ大きく減衰するものの、今度は身体に巻き付かれてしまう。

 一度鞭が静止すれば単純な力比べによる綱引き勝負にできるだろうが、鞭が身体に巻き付き終えた瞬間はまだ遠心力が働いているので、そこで大きく体勢を崩されれば立て直すのは難しい。

 そのまま巻き付かれたまま鞭を振り回されて、あちこちにぶつけられておしまいだ。

 試合中は流れ弾や衝撃を遮断するバリアが試合場の周りに張られるから、それにぶつけられるだけでも相当なダメージになるだろう。

「相手の鞭の長さの半分以上、出来れば4分の1以上懐に入れればいいんだろうけど…………」

 この二つのパターンを避けるには、鞭の長さの半分、今回であればウェルデ嬢から九メートル以内の距離に潜り込めばいい。

 先端で打たれることはなく、半分以上鞭の長さを残しておけば、体に巻き付かれる時に鞭を振るった本人を巻き込める。ただしSEEDの武装である鞭は、鞭の内部の重さを自在に変えられるので、半分では重量推移によって上手く相手のみを巻き取ることが出来るだろう。扱う人間の技量にもよるが、鞭の長さの四分の一程度の距離まで接近すれば、さすがに巻き取られる危険性は減るはずだ。

「まぁ元々、接近戦に持ち込まなきゃ勝てないんだけどね…………」

 しかしウェルデ嬢本人も、鞭を持ったまま移動するだろう。つまり俺は最低でも、自分より空中加速も地上加速も使える回数が多い相手が振るう鞭をどうにかして、懐に潜り込まねばならないのだ。

 しかも資料には『18mの鞭(通常時)』とある。本気を出せばもっと長くできるのだろう。

「懐に潜り込む方法か、だったら……」


「避ける」「防ぐ」


 シドとカルスの言葉が重なるが、内容は綺麗に分かれる。

 互いに「ええ?」と言いたげな表情を浮かべて顔を見合わせる。

「シドがちょっと早かったからどうぞ」

 俺はまず、シドの回避案から聞くことにした。

「よし、まずお前なら、どんな手練れが振るう鞭の軌道でも読み切れるだろ?」

「前提がおかしい」

 思わず口をついて感想が出たが、とりあえず先を促す。

「となれば後は簡単だ。出来るだけ小さな動きで鞭を避けつつ逸らしつつ、肉薄して短期決戦に持ち込む。空中加速を使うタイミングの、読みあいのフェイント合戦は頑張って勝つ!」

「なぜそこまで俺が超人な前提なのかわかんないけど、とりあえずありがとう。それじゃカルス」

 カルスは待っていましたと意気込んで手を上げる。

「はーい。空映の機体だと、避けるだけでも馬鹿にならないエフィケシッテエナジティーキ(燃費)の悪さでしょ? だったらドマージ(ダメージ)を受けるのをカクゴで、相手が攻撃して、ラヴィテス(スピード)が落ちてるところで一気に近づく! 方がいいと思うんだけど」

「なるほど」

「それにハウタウトさんのフエ(鞭)は、先っぽじゃなければピソース(威力)はそんなにないし、耐える分にはあんまり問題ないと思うよ。もちろん、追加でアナルズィーヂーキ(痛み止め装置)は使うけどね」

「なるほどねぇ…………」

 シドもカルスも、俺の燃費の悪さを念頭に置いた作戦であるようではあった。

「すまんが所々フランス語なせいで、何を言ってるのかわからなかった」

「うん、ボクもシドが何言ってるのかよくわからなかった」

「おい」

 翻訳機能を使っておけよ、というツッコミをしてから、シドとカルスにそれぞれの母国語で互いの作戦を説明する。

 作戦を聞き終えた二人は、互いに唸りながら意見を出し合う。

「相手が攻撃するときの隙を狙うってのはわかるけど、それまで耐える必要あるか? いくら威力が低めって言ったって、ジャストミートを避けるための動きは必要なわけだろ? 空映なら同じ量の動きで完全に避け切れるぜ?」

「でもハウタウトさんの方がアクセレラッション(加速)もエフィケシッテエナジティーキ(燃費)も上なんだよ? 絶対避けられないときはあると思うんだけど」

「だーから、フランス語挟まれてもよくわからねぇって!?」

「シドももっと簡単な日本語使ってよ!」

「「空映! 通訳!」アンタプレッツ(通訳)!」

「何で俺の特訓で通訳係になってんの俺?」

 とりあえず二人の作戦は参考程度に聞き、実践訓練が始まる。

「じゃあボクがフエ(鞭)を使ってみるから、空映は防ぎながら僕に近づいてみてね。最初はボクはここから動かないから、慣れたら動いてみようか」

 互いにSEEDを起動させて、距離をとって向かい合う。

 カルスの機体『ユーニア・ディミネージャ』の特性の一つで、共用武器をどんなものであろうと扱える。

 例えば俺の加具土は極端すぎるが、他にも近距離戦闘に特化した機体というものは存在する。そういった機体に銃のような遠距離の共用武器を使用させると、本来より大きく容量を必要としたり、使えても威力が減衰したりしてしまう。

 しかしユーニアはその心配がなく、どんな種類の共用武器でも低燃費で扱えるという長所がある。しかもカルス本人にも大抵の武器を使いこなす技量があり、練習相手には最適だ。

「おう空映、全部避けちまえ」

「防ぐの!」

「お前らな…………」

 シドの茶々にカルスが噛み付く。仲は結構いい二人でも、SEED操縦者としてのプライドというものがあるのだろうか。戦略の方向性は譲りたくないものがあるらしい。

 二人の機体の方向性なら、むしろカルスが回避型戦略を、シドが防御型の戦略を提案してきてもおかしくないのだが。でもそこは二人が、ちゃんと俺の機体のことを踏まえた上で考えて言ってくれているのかと思うと、ちょっと嬉しくなる。

「さ、行くよ空映」

「よしこい」

 カルスの表情が真面目なものになる。それに応じて俺も刃衣を構える。

「フッ…………!」

「! うおっ!?」

 一瞬見失った鞭の先端が、気付いたら顔の真横まで迫ってきていた。

 慌てて刃衣を間に挟み、刃の上を滑らせて軌道を逸らすが、その衝撃の重さに顔をしかめる。

 同時に視界の左端を何かが掠めたような気がして、慌てて跳び上がる。足の裏と、迫っていた鞭が触れるのはすぐのことだった。

「うわぁ、これは確かに…………」

 正直侮っていた。鞭を持った相手との訓練なら、昔影姉や要さんにしてもらったがそれとは別物だ。

 二○メートルは前方にいる相手が振るう鞭が、その内部の重さを自在に変えることで最速で威力を乗せてやってくるのは、まるで人間並の知能を持った蛇が自分で考えて襲ってくるようだった。

 不意に、要さんが手すりの中に蛇を入れたトラップを用意していたことを思い出す。

 意思を持ってその長身をうねらせることが出来る蛇は、この鞭のイメージと重なった。

 こうして実際に経験して分かるが、あの人は本当に何百手先も人の未来を読んでいるんだなぁ。

「ふんっ!」

 しかし慄いているだけでは訓練にならない。長い鞭はそれだけ振るう人間に大きな動作を要求する。

「うぎっ……!」

 衝撃に手首が鈍い痛みを発するが、一度刃衣で受け止めて勢いを無くした鞭は、引き直す動作が必要になる。二○メートルの鞭を手元に引き直して振るい直すにはどうしても大きなスイングが必要になり、結果隙を生んでしまう。

 近づくチャンスはここだ。

「うわっ!」

 カルスも慌ててスイングスピードを上げるが、肩から使う大きなスイングは、スピードが乗り始めた後の軌道は鞭内部の重量推移によって読みにくいものの、出だしの位置はまるわかりだ。

 ある程度予想は付けられるので、避けるか叩いて逸らすかは案外容易い。

「うわっ、来たっ!?」

「え?」

 バチン!

「うげっ!?」

「わーごめん空映!?」

 俺が予想より早く肉薄したせいか、カルスが慌てて後退してしまい、その場から動かないという練習を念頭に置いていた俺は、ものの見事に打ち据えられてしまった。

 なるほど、SEED越しに味わうとはいえ、心なしかひりひりする。

「いいよいいよ、このくらいあった方が練習になるし」

「う、うん。じゃあ、今度から僕も動いてみるね?」

「おっけ、頼んだ」

 こうしてカルスと時々シドを相手にした練習は、日が暮れてもなお続けられた。



「ふぅ…………結構疲れたな。特に肩回り」

「俺は未だに手首がジンジンするよ」

 訓練を終えたのは八時を過ぎた頃。加具土のエネルギーが尽き、再充填が完了する頃には、もう門限までに食事やその他が終わらないと判断した頃だった。

 シドは鞭を振るい疲れた肩回りを、俺は刃衣で鞭を受け止める度に鈍い痛みを蓄積していった手首をほぐしていた。

「大丈夫? 急いで医務室に寄る?」

「そこまではいいや。むしろまた怪我したのかって先生に小言貰う方が嫌かな」

 この間右腕をバラバラにしたのに、また来たのかと言われそうなのでやめておく。俺がいくら怪我したって自己責任なんだからいいだろうに。

「急いで飯食って、風呂入って寝て…………明日の放課後に試合だっけ?」

「うん。もしかしたら朝早くまた訓練――――」

「周祐君」

 アリーナのロビーに来たところで、ウィンドル殿に声をかけられた。ベンチに座って、相変わらずどこか眠そうな無表情でこちらを見ている。

「あれ、ひょっとして待っていてくれてたの?」

「うん。僕が訓練を覗くのはまずいかなと思って…………」

「別によかったのに。誰でも思いつくような当たり前の訓練しかやってなかったし」

「…………そうなの?」

「そうだよ」

 ウィンドル殿が小首をかしげるので、俺もその角度に合わせる。

「あーえっと、これから飯行くところなんだが…………えーっと」

「その前に、いいかな?」

 いつものシドならご飯に誘うところなのだが、ウィンドル殿がもしかしたら妹のために情報収集をしに来た可能性も捨てきれないせいで煮え切らずにいると、ウィンドル殿の方が切り出してきた。

「周祐君だけ、時間いい?」

「空映だけ? 何でまた?」

「あんまり、大勢に知ってほしくない話だから…………」

 ウィンドル殿が目を細めて、やや困った表情を浮かべる。

「いいよ。シド、カルス。先にご飯食べてて、時間無いでしょ」

「えっと、いいの空映?」

「大丈夫でしょ。買収とかじゃなさそうだし」

「バイシュー?」

「あー…………シド、教えてあげて」

「え、俺?」

 そう言って二人と別れた俺とウィンドル殿は、二人で歩きだす。

「先に売店で何か買ってこようか。お腹空いてるでしょ?」

「いいね」

 向こうは少し気まずいというか、緊張しているようだった。対して俺は、全身筋肉痛だが、いい運動をした後でアドレナリンでも出ているのか足取りも気分も軽い。

「すいません、ケバブ一つ。ヨーグルトソースで」

「僕は……サンドイッチ詰め合わせで」

「はーい」

 手近にあった売店で夕飯を品定めする。

「あと紅茶と…………周祐君、何か飲みたいのある?」

「ただの水でいいけど…………あれ、奢ってくれるの?」

「うん。色々、迷惑もかけちゃっているからお詫びに」

 ウィンドル殿が俺にぺこりと頭を下げる。

「別にいいのに」

 しかしまぁ、彼がそうしたいのならば、そうさせてあげる方が満足できていいだろう。

 懐も寒いし、俺はお言葉に甘えることにした。貴族の坊ちゃまからすれば微々たるものなんだろうけど。見間違いじゃなければ、支払いもブラックカードだったし。

「ちょっと、人のいないところでいいかな?」

「おっけー。いいスポットあるよ」

 売店で夕飯を買った俺達は、俺のお気に入りの花壇の側のベンチまで移動した。

「いただきまーす」

「いただきます」

 俺はチキンケバブを、ウィンドル殿はサンドイッチにかじりつく。ウィンドル殿は、手袋をしていない右手だけでサンドイッチを掴んでいた。

「本当は鳥じゃなくて羊肉が好きなんだけど、中々日本じゃ食えなくてねぇ」

「そうなの? あんまり気にしたことなかった」

「イギリスだと羊肉食う風習あるの?」

「キリスト教の人はよく食べるよ。僕もたまに食べるけど、匂いがあんまり好きじゃない」

「そう? あれが旨いのに」

 俺たちは夜の海を眺めながら、他愛のない会話を続けていく。そしてそれぞれの夕飯が半分以下になったころ、ウィンドル殿が切り出した。

「君は、ウェルデのことをどう思う?」

「ふむ…………お兄さんに対して言うから少し大人締めな表現をすると、我儘な勘違いお嬢様かな」

「そう思われて、当然なんだけど…………」

「虐待されていたから、多めに見てほしいって?」

「!」

「おっと」

 ウィンドル殿がサンドイッチを取り落とすが、地面に落ちる前にキャッチし、ちゃんと持たせる。

「あの手袋の下、えっぐい傷跡が今も手袋の下に残ってんでしょ?」

「どうして…………?」

「ん?」

 俺はそこで噛んでいたケバブを飲み込んでから答える。

「昨日モールで小競り合いになった時、手を押さえつけたからさ。手袋の上からでも、皮膚が完全に変質して戻らなくなってんのが分かったよ」

「触っただけで分かったの…………?」

「んー、まぁそこは話せば長くなるけど、まぁそうだね。それにあの人、いっつも手袋付けてるじゃん? まぁ傷跡でも隠してるのかなって予想は誰でもするさ」

「そっか…………そうだよね」

「にしてもあれ、火傷でもないよね? 薬品か何か浴びせられたの?」

「それは…………」

 そこでウィンドル殿は言い淀み、しばし沈黙が流れた。

「大丈夫、言いふらしたりなんてしないさ」

 俺が助け舟を出すと、それでやっと、ぽつりぽつりと話し出す。

「僕も、もう何年か見ていないけど…………」

 ウィンドル殿は、いつもしている左手の黒い手袋を外した。

「ウェルデの腕は、こうなってる」

 濁った黒紫色の皮膚が、手の甲に広がっていた。


新聞部2名のあだ名は我ながら上手くできたと思います。

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