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フェンシング・ウィザード  作者: 藍華れをな
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第一章 つまらない勇者

ふと、空を見上げていた。

ホームルームの教室で、ぼんやり眺めた窓の先には変わらない向かいの校舎と中庭が見える。

ゆっくり流れる雲は、肉眼でも動いているのがわかるくらいだ。

流れていく雲を見つめながら、何かが横切って行くのを見つけた。

「人?」

一瞬だけ、人が空を飛んでいるように見えたけれど、その後に続く小鳥達に紛れて、よくはわからなかった。

まさかな、と思い直して、自分が見た幻覚が可笑しくて苦笑いを浮かべた。


何もない、平凡な1日が今日も終わろうとしている。


適当に起きて、適当に学校へ行き、適当に過ごして帰る。

みんな同じ場所に集まって、同じことをして、あーじゃない、こーじゃないってくだらない会話をしながら過ごす。

なんか良くわからないけど、泣いたり怒ったりで、同じ時間の中でも、俺なんかより忙しそうだな。

そんなことを観察して考えながら、朝霧紅矢(アサギリコウヤ)は、いつもの帰り道の土手際をトボトボ歩いていた。

スポーツバックをリュックのように背負い、行き場のない両手はズボンのポケットに仕舞われている。

やる気のない半開きの瞳からは、大きく息を吸いながら開けた口が閉じると同時に、涙が滲んでその目尻を潤していた。


「紅矢」

ふと、声が聞こえて自分の名前が呼ばれた気がして振り替えると、凛とした長い黒髪、手足の長い少女が真っ直ぐこちらに向かってかけてきた。

「ああ、麗美か」

その姿を確認して、紅矢は確信して名前を呼んだ。

幼なじみの川津麗美(カワヅレミ)だ。

彼女は紅矢と同じ高校1年生で、弓道部に所属している。

なんだかんだ幼少期から一緒にいて、家も隣同士なので付き合いが長く、高校に入学してからも家族のように接してくれる。

「今日、部活早く終わったんだ」

紅矢の問いかけに、麗美は近付きながら「うん」と頷く。

麗美の部活が長引かない時は、一緒に帰るようにしていた。恋人同士だーなんて、からかわれたこともあるけど、本人達にはそれが普通すぎて、別に気にしたことは無かったし。


「紅矢も部活なにかやれば?」

「俺は帰宅信者だからムリ」

「は?なにそれ」

麗美は、紅矢の発言に疑問を感じて眉間にシワを寄せた。

たまによく訳のわからないことを言う紅矢に、その都度呆れている麗美はもうお手上げと言うように首をかしげる。


「あーつまんね。なんか面白いことないかな」

おもむろに紅矢は空に向かって声を上げた。

「急になに?面白いことって」

呆れたトーンのまま、麗美は聞き返す。

「なんかさー、俺は実は勇者だった!みたいな、常識じゃ考えられない可笑しな事」

楽しそうに拳を掲げる少年のような紅矢を横目に麗美は、全く何を言ってるんだかと表情だけで訴えてみせる。

すると、楽しくなったのか紅矢の妄想発言はどんどん続きが出来ていくのだった。


「どっかの国のお姫様が悪い国の魔王にさらわれちゃって!お姫様を助けて下さい、勇者さま!なんて言われちゃって!」


「ゆ、勇者って」

麗美はもう、中二病だと思った。


「そう!俺は勇者だ!きっとこれから俺を迎えが来るんだ!」

「誰が?」

つい、紅矢の妄想に麗美は聞き返してしまう。

その問いを受けて、紅矢は続けた。

「お姫様の国の家来だ!もう来るぞ!」

また問い返してみる。

「どこから?」

「そこから!」

言いながら紅矢は、気合いを入れて麗美がいる更に隣をビシッと指差す。

その指先に釣られて、紅矢を見ていた麗美は同じ方へ振り返った。


時間が止まった気がした。


紅矢は指を指したまま、麗美は振り返ったままその場に固まる。2人の前には、執事のような黒服に身を包んだ短髪の男が空に浮いていた。


「お迎えに参りました、勇者様」

その男は当たり前のように、勇者と呼び掛けて2人に向かって丁寧なお辞儀をした。


「・・・・・・え?」


2人は目を見合わせて驚きを隠せない。

「紅矢、そんな力あった?!」

執事のような男と、紅矢を交互に見ながら麗美は動揺を隠せない。

「い、いや。あれは冗談で」

言いながら紅矢は両手を前に出してイヤイヤと振ってみせた。

2人は何が起こっているのかまるで解らずに、ゆっくり確認するように、また男の方へ顔を向けた。

「あ、あの・・・」

「お迎えに参りました、勇者様」

紅矢の動揺をもろともせずに、男はただ迎えに来たと言い返す。


「迎えって・・・」

「参りましょう」

「えっ!?」

聞き返す紅矢を気にも止めずに、男はパチンと指を鳴らして見せた。すると、乳白色の透明な光の壁が現れ、紅矢と麗美を包み込むように囲んだそれは、一瞬で男と共に空に飛び上がってどこかに消えてしまった。


3人がいた場所は、一瞬で誰もいなくなって普段の静けさを取り戻しているのだった。


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