プロローグ
誰もいなかった。
何もない闇の中で、自分の吐息だけが微かな生命を維持しているのが、ただただちっぽけで寂しかった。
「父さま・・・?」
さっきまでいたはずの父の姿がなかった。
何かを叫んでいた横顔から、切れ長の目がチラリと見える。
とても怖い顔をしていた気がして、一瞬だけ胸の中がキュッと苦しくなった。
父の前には、髪の長い綺麗な女の人がいた。
でも、その人も笑顔ではなかったから、大丈夫かな?って思いながら交互に2人を見ていたと思う。
何を話していたかはわからなかった。
突然、女の人の両手は父に向かってしっかりと伸びた。
そのままの小さな手の平から、何かが光って、それは父の目の前に迫ってきたんだ。
放たれた光に夢中で、隠れていたカーテンの隙間からチラッて顔を出していた僕は、その状況とは少し違う事を考えていたと思う。
あんな綺麗な人、見たことなかったから。
夢中になって見ていたら、父さまがこっちを振り向いて僕のことを持っていた杖で黒い魔法を出して突き飛ばしたんだ。
咄嗟の事で、何がなんなのか全くわからなかったが、父は悪い魔法を僕に向けたりはしない。きっと、何か理由があって僕に魔法をかけたに決まってるんだ。
「どこにいるの?」
何も見えない空間の中で両手を伸ばしてみても、それが本当に伸びているのかわからないし、左右に探す手が何かに触ることもなかった。
一体どこにいて、どこを歩いているのか。暖かいか寒いかもわからない。自分がいまどんな表情をしているのかも、存在さえも解らなくなる。
それでも、自分で声を発して父の姿を探しながら、ゆっくり歩いていた。
宛てもない、長い長い漆黒の迷路を。