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防疫戦

 起きた。疲れてたはずだけど、夜明け直前ぐらいに目が覚めたよ。この体は早起きしちゃうんだよ。歳をとると睡眠が浅くなるんだ、老化現象ってやつだね。しかたない。まだ、薄暗いのに廊下からは、話しながら歩いている多くの人たちの気配、窓からは、さらに騒がしい騒音といってもいい騒ぎ、馬の鳴き声も混じっているよ。よしよし、ちゃんと仕事しているね。取り敢えず最低基準はクリアしている。


 ドアを開けると、御付きの人がいた。早速報告を受け、今日の予定を確認したよ。軍が夜を徹して強行したので、港町の封鎖は完了しているだろう、防衛戦と認識しているので兵士たちの士気は高い。あと、軍と担当部署より住民の隔離とネズミ狩りのプランを確認してほしい、との要望が出ているとのこと。うん、大事なことだね。朝食を取りながらでも良いよ。というとすっ飛んで行った。ゆっくりと朝食を取りながら、隔離手順を微調整。そのあと、ネズミ狩りの手順の微調整。で、昼食。うん、そのあとやることない。まあ、そんなもんだ。優秀な組織だと、上が色々動かずに済むんだよ。それを、作り上げるのがとても大変ってだけだ。優秀な上司のもとでしか、優秀な部下は育たないし、能力も発揮できない。無能な上司だった場合、いくら優秀でも潰される。現状、よくやっていると思うよ。まあ、要するに国王も優秀なんだろう。午後に、飛び込みで相談された、いくつかの組織間調整。まあ、この程度のことはどんな場合でもある、どちらが仕切るかとかね。責任のなすりつけあいじゃない分上等だよ。やる気はあるってことだから。まあ、過剰なやる気もプロジェクトを進める邪魔になったりするんだけどね。で夕食が済んだ頃、最新情報が到着。最新っていっても今朝の状況だけど。港町の封鎖完了!近隣でのペストの発生は確認されていない。よし、ご苦労様!



 うん、おわった。作戦が開始されてから、7日後ぐらいが一番大変だった。けど、あとは徐々に収束。まあ、軍が前面に出ているからね。前世の基準で言えば、かなり力ずではあったけど。感情の問題や私権なんて簡単に権力で抑圧できるから、順調だったんだよ。家ごと焼いた案件もあったようだ。財産権も関係ない。国としてネズミ捕り機は無料配布、ネズミ1匹あたり銀貨一枚で買い取ったので、王都でも子供からお年寄りまで、一生懸命やってくれてた。結果、他の街への拡大は認められなかった。ただ、港町では人口の2割ほどが()()()()()()()()亡くなったことが公表された。それに残念ながら、王都から派遣した軍人と官僚から数名の死者がでた。戦死として扱ってもらえるよう上奏。当然、快諾された。まあ、上出来とは言えないけど、封鎖には成功したのだから、十分合格ラインだよ。最後の患者が亡くなって、30日後に人の封鎖は解除。港町からの搬出物の検疫は、さらに半年ほど続けることにした。海外からの人と物にに対する検疫は、常設化させた。


 明日は祝賀会。そろそろ潮時かな?崇め奉られ、行動を縛られるなんて柄じゃないよ。そして、老人の体はやっぱり不便だ。ということで、あの神様(ダメなやつ)のところへ逃亡だ!謝礼は捨てるのかって?それについては、ちょっと自信があるんだ。そして、いきなり消えた方がメリットがあるって。まあ、ちょっとしたイタズラだよ。おもしろくなくちゃネ。


 深夜、財布と持ち込んだ僧衣と頂いた新しい僧衣のみを持って、あいつに報告しに行く。一息ついたって。与えられた部屋には、私の物は何一つ残さずにね。で、あいつからお賽銭を奪って、翌朝市街壁の外側に転生。うん、あいつのところに預けていた、平民として着ていた服装で。新旧2着の僧衣はあいつのところに置いてきたよ。あいつのところを私の物置として使うことにしたんだ。いつでも取りに行けるのなら完璧なんだけど、いまひとつ使いづらい。とは言え、まあ、便利になったよ。活用させてもらうよ。


 翌朝、市外壁の門をくぐり、馬車で王宮近くへ向かう。ほら、王宮が騒然としている、で、王都外にむかっていくつもの早馬が放たれた。しばらくすると、「この僧について情報を求む」って、立て札が街のあちこちに立てられたよ。似顔絵と謝礼金付きで。おもわず謝礼金に目がくらんで、私自身を売るところだったよ。あぶない、あぶない。いや、想像していたより高額だったんだよ。金に糸目はつけないって感じで。


 パブなんかでも、神のお告げを受けた僧が、今回の国の危機を救ったって話で持ちきりになったよ。もちろん大げさに脚色されている。軍の先頭に立ち、勇ましくそれを指揮した。などなど...やってないよ、そんなこと!私は、王宮に引きこもっていただけだよ。いや、司令塔がウロウロしてどうするのさ。どこに連絡とっていいか判らなくなったら、プロジェクトは崩壊するんだよ。決して、危ないことを避けたり、怠けていたわけじゃないからね。ホントだってば!


 頃を見計らって、あいつのところにいく。単にこの国では問題が解決したことを伝えるだけだけど。フッフッフ...お賽銭が一変していたよ。銀貨、金貨が明らかに増えていた、それだけで財布がパンパンになったよ。よっしゃ、計算道理!いや、知ってたからね、前世でもペスト後、教会が潤ったていうこと。というわけで、面倒なことに関わることなく、収入増加だ。「私の神秘化作戦」成功!さらに、なんかあった時は、あの僧の容姿に転生して、どちらかの僧衣をまとって、この国に転生すればいい。今後、この宗教が滅びない限り、半永久的に、絶対的な立場を得られたってことだ。容姿は、王宮や教会なんかに絵画として飾られるだろうから、あいつにその容姿で、私を転生させてもらえばばいい。それぐらいやれるだろうさ。間違いなくディフォルメされるだろうからね。あの時の実際の容姿が正しいのではなく、絵画の容姿が正しいということになるから。


 うん、特殊能力ないけど、なんとかなるね。お金と権威と使い勝手が悪いとは言え無限の収納庫は手に入ったんだから。そのうち、あいつのところに私の部屋作ろうかな?適温適湿で過ごしやすいんだよ、あそこ。そうしたら私のプライバシーも保てるしね。うん、これでこちらの世界でも、快適かつ安全に過ごせるようになるよ。




 いやだって。もう仕事したでしょ?この国の信仰心が上がったら、体調が良くなったって?だから、ほかの場所でもお願いしたいって?やっぱりあいつが無能なのは、自業自得だったのか...まあ、それはいいのだけど。いや、他の国でもペストを防いでくれってお願いされても、大変なんだよ、あれ。今回はたまたま条件が良かっただけで、国の体制がガタガタだったり、民主主義の国だったりしたら、あんなやり方通用しないんだから。いやだよ!


 まあ、受けたよ。ごねたけど。あいつのところに私の空間を確保することを条件に。あいつのメリット≒私のメリットだからね。ただ、その前に港町に行くことは了承させた。私は、現場で実際何が行われたかを知らないんだから...確認は必要だよ。まあ、時間稼ぎともいえる。すぐには仕事したくない、うん。そんなこと言っている間にもヒトが死んでいるって?知らないよ、それがもともと決まっていたその人の運命なんだから。


 で、王都に戻り旅の準備をして、乗合馬車で次の町まで出発。途中の町もそれぞれ一泊して、どうだったか確認しなきゃいけないからね。次の仕事のための情報収集だよ。決して観光じゃないからね。ましてや時間稼ぎでもないよ。信じてよ!


 まあ、途中の町はなんてことなかった。観光地もなかったし、食べ物もあんまり美味しくなかった。温泉ぐらいあってもいいだろ!チクショー。そりゃ、王都の方が庶民向けの店でも宿でも洗練されているよね。まったく、計算外だったよ!


 で、港町に入る。結構明るいよ、雰囲気。まあ、お祭り騒ぎじゃないけど。肉親を亡くしたのか、ボーっとしている人もいるからね。あー、結構やらかしているわ...港近くの商家外の一角なんか、丸ごと焼かれている。多分最初にペストが発生した店とその近所だね。ここはほぼ全滅だし、わずかな回復者は、別の場所で看護に当たったはずだから...まあ、手っ取り早いわな、こうやったほうが...とはいえ、周りから中央に向かって焼いたな。まあ、ネズミを壊滅させるためには効率的だよ、確かに。ただ、これ巻き込んでるよね。まだ生きている人も...そういうことかい!ペストに()()()()とされた死者数の公表とか、軍の先頭に私がったったという噂の理由は。チキショー、責任を私に押し付けやがったな。


 うん、私はヒトの財産を破壊し、殺しもしたってことだよ。いや罪悪感はないよ。だって、特定の他人ひとを指名して殺したわけじゃない。知らない他人ひとだし、直接手を下したわけじゃないからね?ちょっと、さげすむむような目で見ないでよ!

挿絵(By みてみん)

 じゃ、言い訳タイムだ。

 1,000人の町があったとする。方法Aでは500人が死ぬ(赤丸)。方法Bでは200人が死ぬ。もちろん、どちらの方法をとるか決めた段階では、誰が死ぬのかは判らないし、死亡者数も推定に過ぎない。まあ、大体こんな感じかなっ、ていう程度だよ。で、どちらの方法をとろうが、死ぬ人達は死ぬ(赤丸と青丸の重複部)。今回の場合だと、防疫戦開始前に死んでいた他人なんかは、はこの部分に含まれると考えていいよ。で、この人達にとっては、どちらの方法であろうが関係ない。問題は、重複部以外の赤丸と青丸の部分だよ。


 重複部以外の赤丸の部分が、方法Bをとることによって生き延びた人達だ。で、重複部以外の青丸の部分が、方法Bにより殺された人達ということになるね。要するにこの人達が()()()()()()()()()人達ということだ。しかも、私は恣意的に高齢者をこの層に組み込んだんだよ。まあ、その人たちやその家族が、私を恨むのは彼らの自由だよ。でも、それと私がそのことについて罪悪感を抱くかどうかは別物だよね。少なくとも、私は彼らとなんの関係もない。私にとって彼らは単に、集団の一部を構成する数字の一つ一つにすぎない。だから、個人個人を認識する必要なんて全く感じないよ。1から1,000まで並んだ数字の一つ一つは、完全に等価だ。それぞれには意味がない。だから何番が抜けようが気にならないよ。気にするのは、いくつ数字が抜けたのか...てことだけだよ。で、この数字が年齢の若い順に並んでいるとしたら、今回は大きな数字が抜けやすくなるように仕組んだだけだ、私は。


 そして、私は赤丸より青丸が少しでも小さければ()()、少しでも大きければ()()と判断するだけだよ。結果がでるまで、感情が関与する余地は微塵もない。ネコは別だけど。ただ、結果が感情を引き起こすことは、私にもあるよ。もちろん、方法Bを選んだ時には、方法Aが実際にどんな結果が生じさせるかは、絶対に知ることはできない。その逆も然りだよ。ただ、知り得ないことを考えても仕方ない。それは最初の予測でいいんだよ。人間、開き直りが肝心だよ?いいかい??というか、終わった後で、「何人死んだ責任を認めろ」なんて言うなよ、絶対。何れにしてもなにか起これば、死のリスクは高くなり、そして、死にやすい人ほど簡単に死ぬ。要するに必ず死者は出るってことだ。それを、結果が出終わった後にガタガタ文句をつけたって、なんの意味もないことだからね。

 ああ、あいつが波長が合うっていうのは、悔しいが認めざるを得ないかな。


 うん、その後あいつから指定された、いくつかの場所に転生して仕事したよ。数十年の時間を掛けて。上手く行ったことも、途中で見捨てたこともあったよ。それなりの人たちだったからね。彼らがどうなろうと私は知らないよ。その時生き延びる者は生き延び、死ぬ者は死ぬ。そしていつかみんな死ぬ。それだけのことだよ。この世界に来てから、50年程になるけど、最初の国のパブ仲間や港町の子供達であっても、もう死んでるよ、たぶん。ああ、最初の防疫戦の時の、国王の最後は看取ったよ。あの時の格好をして。市外壁の門兵が、私を見るなりすっ飛んでいったよ。で、国王の功績を祝福し、死後の安寧を祈ってあげた。もちろん、一切の謝礼は拒否したよ。なんちゃって神官だよ。それで、お金をもらったら詐欺師じゃないか。その程度なんだよ、私にできることって。


 ただね、そうしたらしばらくはお賽銭に、金貨と銀貨が増えるんだよ。いや、そのためじゃないよ?でも、お仕事をしてお金をもらうのは当然だよね?直接じゃないから、これは詐欺じゃないよね?


 色々な国王と出会えた。何人か()()()()はいたんだよ。もちろん()()()ではないよ、全然。狡猾で残虐で人をとことん利用し...でもね、その基本には国を守る、よくしようという一貫した意思が感じられた連中だ。数ヶ月も一つの目的のために働いたんだから、仲良くもなるさ。敬意をもって私を迎えてくれたしね。なんちゃって神官だって、最後に安らぎぐらい与えてあげるのも悪くないって考えたんだ。みんな涙を流して喜んでくれたよ。もちろん、仲良くなった高官もいた。ただ、流石にそんな人たちの噂は遠くまで流れてこない。国王ぐらいだったんだ、その最後が近いということを、私が知ることができたのは。


 私?なんか、時間なんかどうでもよくなったよ。男性だったり、女性だったり、若者だったり、老人だったりなんでもありだからね。ただ、幼児にはなったことはないな、まだ。ロリとかショタって愛でる者であって、自分がなるもんじゃないよね?いや、そういう話を、友達から聞いたことがあるっていうだけだよ。信じてよ!たまに、あいつのところでグダグダしてたりするし、私の部屋に引きこもれば快適に読書できるよ。そうじゃないと、あいつがやたら話しかけてくるから、うるさいけど。


 まあ、今はパブで騒いでいる。あいつ、神としての力も強くなったみたいなんだよ。寝てる間だけじゃなく、起きてる時も転生できるようになったよ。たった、それだけだけど。私には相変わらず、それ以外の特殊能力も特殊アイテムも何もない。でも、いいんじゃないかな?いや、結構快適になったんだよ。満足しているんだ。というか、異世界転生モノの、特殊能力や必要アイテムって、()()だけで十分なんじゃね?うん、こちらの世界に転生したばかりの頃、あの神様(ダメなやつ)に文句ばっかり言ってて悪かったよ。若気の至りってやつだ。今度、あいつに謝っておこう。

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