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作戦会議 後編

前編の続きです。会議中の私の頭の中の話から始まります。

 今回の大騒ぎの契機がペストというだけで、この世界では適当に生きていけるけど、冷凍保管倉庫があるわけじゃなし、離れた場所からから食料を大量搬入できるわけじゃないから、飢饉や災害なんかで村一つ絶滅しかけることなんて稀にある。稀だよ...普通にあったら人類全滅しちゃうからね。こちらの世界でも、新人類が発生してから20万年はたってるよ...たぶん。そちらの世界でも中世と現代の時間の差なんて誤差範囲でしょ。こんだけ続いてるんだから、人類絶滅なんてないよ。大丈夫だよ。大丈夫だよね?


 今回の会議では説明するつもりないけど、ペストが蔓延して壊滅状態になったときのためにプランは用意してあるよ。このプランが実行されなくて済むことを願っているよ。神様、お願い!ってあの神様(ダメなやつ)じゃ期待薄かな?


 まあ、今回の事態では、普通だと人口の半分程度が、失われるぐらいだと思うよ。それが、港町一つで留まるか、国全体に広がるかが問題なだけだ。ただ、前世の史実では全滅した村もあるわけだから、一応もっと悪いケースも考えておくことにしたんだ。ここでも単純に物事を考えてみるよ。


 1,000人の人口の村で考えよう。まあ、100人程度に減れば、人口密度も低くなるから今回の場合であっても感染リスクも減るし、飢餓の場合は必要な食料も減るから、なんとか落ち着くと思うよ。だけど1桁しか生き残れなければ、集団の存続はちょっと厳しいね。まあ、こうなったら廃村にするか、移民で村を存続させるの2択しかないから、考えないことにするよ。で、適当に100人生き残ったとするね。生き残ったのが全員男性、全員女性、全員再生産(せいしょく)能力なし...そりゃ全滅するよね。廃村か移民かの2択というパターンになる。


 前に話したように、最も重要なのヒトは、再生産能力を有する男女ということになる。男性の再生産年齢には結構長いんだけど、女性は短い。ざっくりいえば、ある程度経験を積んで、死亡リスクが落ち着いた30才前後の男性、20才前後の女性というのがもっとも効率いいね。で、生まれる子供の数(再生産数)は女性の数に依存する。仮に1世代で1人の女性から6人の子供が生まれるとすると...


 パターン1:女性1人に男99。逆ハーレムの世界だね。1世代で生まれる数は6人だよ!普通に全滅パターンだね。最初の出産で、唯一の女性が亡くなったらその時点で終了だよ。


 パターン2:女性99人に男1。ハーレムの世界だね。1世代で生まれる数は594人だよ!もともと100人いるから694人だ、あれ、人口結構回復したよ!!


 そりゃ、そのままパターン2はないよ...1人の男が死んだら破綻するからね。バックアップ(ひどい...)も必要だよね。女性80人から90人に、男性20から10人ぐらいかな。これでも1世代で480人から540人は生まれる。前に書いたように、こういう状態では乳幼児死亡率が高くなるから、そんなに単純じゃないけどね。たから、村の再生のペースは単純計算より必ず遅くなる。ただ、集団の存続が危機にさらされる際は、若い男性より若い女性を生き残らせる価値が、はるかに高いというこということは言えるよね。前世でもそういうことあったよ?女性兵士を前線に出したら、兵士の消耗率が上がって痛い目にあった国があるよ。男性が通常なら許容できないまでの危険を冒して、命を掛けても女性を守ろうとする本能は、集団として生き残るためには合理的なんだよ。進化の結果だね、すごいよ!


 ヒトは真実を知ることはできないから、まあ、どうなるかは今後の成り行きを見なければわからないけど、結果を反映しながら有利に進めるためには、最も合理的と考えられる戦略を最初に選択することは大事だよ。感情は切り捨てないと、より大きな悲劇をもたらすことになるからね。必要に応じて、現在は保護対象としている若い男性も、リスクがそれほど高くないと考えられる作業から順に、参加してもらうようようにするつもりだよ。若い女性はギリギリまで保護対象だよ。ギリギリを超えたらって?言わせるなよ。パリは燃えているか?うん、そういうことだ。いや、そこまでの状況に陥らないことを、心の底から願っているよ、あいつには願わないけどね。




 いけない、話が逸れたよ。会議に戻ろう。


 患者の看護と遺体の取り扱いだ。ペストじゃこの二つにそれほど大きな違いはない。まだ、遺体になっていないものと、遺体となったものをどう取り扱うかってことだね。治療?瀉血なんて、意味ないどころか、感染を拡大させるだけだよ。ペスト医師なんてものが、前世のこの時代には存在したが、生き延びた人そんなにいないよ。要するに治療する人は、ほとんどが患者になってしまうってことだよ。治療を行うということは、患者を増やして、防疫を妨げるだけ。火に油を注ぐようなものだよ。だから、患者に対して行うのは水分補給程度かな?あ、咳をしている患者は、さらに隔離してこちらは放置する。肺ペストの飛沫感染がもっとも怖いからね、拡大を防ぐためだよ。そして、もうこうなったら助からないよ。患者を増やさない方が重要だ。かわいそう?いや、苦しむのはそんなに長い時間じゃない、せいぜい1日程度だ。


 看護と遺体に関する仕事に当たらせるのは、幸運にもペストから回復した者を基本とするようにした。あとは、希望するのであれば患者の同居家族、ただし必ず高齢者を優先する。働けない者でも、患者の口に水を浸した布を当てて、水分補給をさせることぐらいはできる。すでに感染している可能性があるので、隔離も兼ねているんだけど。まあ、ひどい話だ。その際には患者に直接触れないようにすること、手や顔をこまめに洗うこと、布で口を覆うこと、手袋をはめることは力説した。あと、手袋や患者が使った食器なんかは煮沸することだね。溶き卵が固まる温度で15分以上。念のため、酒精の高い蒸留酒で拭うのも効果があるかもしれないとは伝えた。パブにあった蒸留酒は一通り試したけど、それほどアルコール度数高くなかったようなので、これは自信がない。ほら、パブ通いも大事でしょ?


 幸いにも、この国は火葬なんだよ。この問題は大きくって、土葬を火葬に変えさせるなんて、ほとんど不可能だからね。これについてはヒトの心の問題が大きすぎる。なんで、そんなことにこだわるのかわからないけど、まず、理屈が通らないんだ。変えさせようとすれば、その描写だけで火葬戦記が書けちゃうよ。ホントだよ?若者の保護区域の反対側に、常時薪を焚べておいて、王都から新たに持ち込んだ布にくるんで、遺体を運びそのまま焼く。前世の史実では、生き埋めも行われたからね。ずいぶんマシだよ。


 で、最後にネズミ駆除作戦!この国にもネズミ捕り機あったよ。よかった。そりゃ、穀物なんか食べるから、ここでも立派な有害動物扱いだよ。ネコ?かわいいよねネコ。ネコにネズミを取らせるなんて、そんな危ないことさせないよ。冗談じゃないよ!いや、ネコもペストを媒介するんだよ。ネズミを捉えた時に蚤が移るんだ。だから、港町ぜんせんでの主力兵器はネズミ捕り機になる。もちろん、まだペストが持ち込まれていない可能性が高い、王都ではネコも有用だけどね。


 港町とその近隣の町に、大至急、王都で賄える可能な限りのネズミ捕り機を送るようにさせる。王都より北方に当たる街からはネズミ捕り機を供出させ、王都で使うか送る。で、捕まえたネズミには近づかないこと、長い松明で離れたところから焼く。蚤飛ぶからね。1m以上。絶対安全とは言えないが、ネズミから離れていれば離れているほど安全になるからね。で、焼けたネズミは買い取らせる、国に。もちろん王都でもネズミ捕りを奨励するため、捕まえたネズミの尻尾を買い取らせる。人口密度高いからね、王都。決して私の安全のためだけじゃないよ?


 ここまでが、最初の指示かな?あ、忘れていた。港町の近隣の町でペストが発生した場合、大至急私に報告させるよう指示しなきゃ。そのためにも貧民にまできちんと病気のことを理解させるんだよ。うん、「なんとかします」だって。あとは、担当する部門ごとで具体的な行動計画がまとめられ、人や資材の調達、運用、情報の通達が行われるはずだ。ちょっとした情報と導きがあれば、ちゃんと動けるんだよ、ヒトは。この前この国に転生したばかりだけど、国家としてはちゃんとまとまって、大きな問題もなく運営できていることは実体験済みだ。まあ、無能がいても周りが補佐すればなんとかなるだろう。念のために一言付け加えておこう、業務の障害になることがあれば、遠慮なく伝えてくれって。組織の違いや地位の上下には私は関係ないからね。大きなプロジェクトを動かそうとすると、メンツみたいなくだらないことで妨害してくるやつが大抵現れるんだよ。私はそのしがらみから外れた、なんちゃって聖職者だし、権威は持っているからね。まあ、調整役ぐらいやれるさ。まあ、あと私にやれるのはその程度だ。


 で、解散。用意された部屋に案内された。豪華だったよ。とりあえず体洗いたい、休憩したい。とにかく疲れたよ。緊張?緊張はしてないよ。まあ、大舞台にはある程度慣れていたからね、前世で。豪華な僧衣が用意されていたよ。じゃ、まず体を洗おう、お付きの方準備よろしくね、お願い。すでに準備は整っているそうだ。優秀な専属秘書って良いものだよ。部下とはちがって、こちらの気持ちまで配慮して、先回りして動いてくれるからね。ホントあれはいいものだよ。多分、今日はもう何もやることないはずだ。王様への報告?今の私は王様の家来じゃないよ、責任者がやるさ。それに、今夜から明日にかけて、各部署から軍の動員とか、資材調達の承認とか、山ほどの申請書が王様の承認を得るために提出されるはずだ。王様にそんな暇はないよ。

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