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ピピさんの名前の誤字報告をいただきました。ありがとうございますありがとうございます(*-人-)
人妻への興味が薄い作者ですまん、ピピさん。
「人間が迷宮攻略にくじけたり、あんまり力を入れてないせいで守護竜たちがずっと迷宮に閉じ込められてるっていうのが、なんか申し訳ないので。そういう理由もあって、この迷宮の様子を見に来たわけです」
「そっかー。うーん、クリエくんの実力も見せてもらってるし……信じるよー」
いや、信じるかどうかっていう話はしてなかったんだが? なんでC級のまんまなのって訊かれたから、その理由を誠心誠意ぶっちゃけたんだが?
「そういうわけで俺はソロでも第2階層のガーゴイルを倒せます。ここまではOK?」
「お、おっけー?」
「それで俺の見立てだとですね、ナサーニアさんとアカラナイさんは俺抜きでも第2階層は攻略できると思うんですよ。ナサーニアさんに火力的な不安があるかなとも思ったんですが、《風矢》に精霊魔法を込められるならおそらく問題ありません」
「どんな魔法を込めればいいの?」
「闇精霊に『熱くして』と頼めばいいですよ。苦手とかじゃないですよね?」
そう言ってナサーニアさんの周囲に目線を走らせ、「こんだけ精霊に愛されてますもんね」というアピールをしてみる。
「えっそんなのやったことない。けど……できるんだよね?」
「できない理由はないです。イメージがうまく掴めないなら、最初に火精霊に矢を炙ってもらって、矢が熱くなってるっていうイメージを強化してから始めるといいかもしれません。慣れれば闇精霊に頼むだけで大丈夫です」
「うーん。火精霊じゃなくて闇精霊っていうのがなんか、イメージしづらいにゃあ……」
指に摘んだ矢を顔の前に立たせ、ブツブツ言いながら難しい顔で矢とにらめっこを始めたナサーニアさんだったが、すぐに「あっつうっ!」って言って矢を取り落した。ね、できるでしょ。あと涙目で指をフーフーしてるけど、息かけるんじゃなくて精霊魔法師なら水出せや。
「その矢を射れるようになれば、ガーゴイルぐらいの『ちょっと硬いかなー』ぐらいの相手ならすこんすこん射抜けるようになりますので、もう確定で2階層は突破できると思います」
アカラナイさんの剣も十分に通用しそうですし、って伝えたらまたなんか顔を見合わせてる。今回の空気はいまいち読めんな。当人たちも戸惑ってるだけなんだろうか。
「それで質問なんですが、おふたりはこの迷宮の最下層を攻略する予定はおありで?」
「考えたことなかったねー?」
「そうだな、おうかるってううぁさの3階層まで行っていたかっただけだ」
顔を見合わたままでそう言い合うと、揃って俺の方に顔を向けてきて、ナサーニアさんが言った。
「正直、アカラナイ以外と組みたいとも思わないんだよねー。あ、クリエくんはいいけど」
「まあ確実に、第3階層より先は頭数勝負みたいなことになるでしょうしね」
「それに、クリエくんがさっき言ってた感じだと、うちらとパーティ組んで攻略してくれるってわけでもないんでしょ?」
「ですね。多少のアドバイスはしますけど、それだけです」
「だったら無理だねー。まあもともと興味もなかったけど」
「わかりました。じゃあ第3階層までご一緒しましょう。もしいつか気が変わって最下層を目指したくなったら声をかけてください。有望な人たちを探してますので」
「クリエくんたちがとっとと攻略しちゃえばいいと思うけどなー」
「それは盟約が交わされたときの精神に反しますのでー」
「あはは、人間のくせに、エルフみたいなこと言ってるー」
「昔の人間もそうだったはずなんですけどねえ……。あと半分エルフなのに盟約を軽んじる人に言われたくないですー」
そんな軽口を交わしてキャッキャと笑ったあと、「というわけでこの話は内密に」とお願いすると、ふたりは強く頷いてくれた。
そのあと第2階層の魔物を相手にナサーニアさんの《焔矢》(ヒートアローだと言ったら却下されて、エルフ式の技名にされた)を練習して、この日の探索は終了した。次回にはたぶん第2階層を突破できると思う。
迷宮探索から帰ってきたらその日は酒場、というのが冒険者の習いだが、アカラナイさんの事情によりそういうわけにもいかないので、アカラナイさんの家というか野営地に集まろうという話になった。
「本当に俺のとこでいいのか? クリエ」
「いいに決まってますよ。そもそも冒険者が野営を嫌がってどうするんですか」
「あー、野営とか言ってるー! アカラナイの家なのにー」
「実質野営なんだから野営で良くないですか?」
「俺うぁ気にしてないぞ」
「ほら、本人がいいって言ってるじゃないですか。ナサーニアさんだって気にしてないくせに」
「んっふっふー。クリエくんは正直でいいねー」
そう言って抱きついてこようとしたので、アカラナイさんを盾にして回避した。抱きつかれて困るもんじゃないけど、ほいほい抱かせるような安い男だって思わないでよね!みたいな繊細な男心もあるのだ。
というかこういう調子に乗りやすい系のお姉さんには、お預けで対応するものだと相場が決まっている。それは落とすときの相場だった気もするが。
とかアホなこと考えて勝ち誇ってたら、ナサーニアさんは俺に向かってきた勢いのままでアカラナイさんに抱きついた。え? 何してんの? アカラナイさんはそういうの嫌って言ってるんだよね?
「……いい子に会えたよねえ、アカラナイ……」
「あったくだ……。あんたのおかげだな……」
あ、そういう感じですか。絆深いっすね。
ナサーニアさんはアカラナイさんが冒険者たちに受け入れられないことに怒っていて、アカラナイさんはそう思ってくれるナサーニアさんに感謝しつつもちょっと負い目があった的な。
そんでようやく俺みたいなのに会えて、これまでの苦労がリミットブレイクしたというのがこのシーンか。
なんでこんなつまんないことで、この人らがちょっとでも胸を痛めなきゃならんのだろうなあ。ふたりだけで世界がほとんど完結してても、他の連中に受け入れられないっていうのはしんどいよな。
町に戻ったところで一旦別行動にして、俺はVIP向けの超お高い治療院へと足を向けた。あのふたりには、聖女の癒やしが必要だ。
お高い治療院の正門前を素通りして裏手に回ると、フードを被った人物が裏口前で待ち構えていた。人目がないことを確認して素早く裏口に滑り込むと、その人物の後を追って治療院の離れをずんずん進む。
離れの一番奥の部屋に入り、扉を閉めた途端にフードの人が飛びついてきた。
「もー、会いたかったですよう。それで、なんかあったんですか?」
さすがミオさん話が早い。パーティのみんなとは月イチで秘密の会合をしているが、それ以外で接触するのは特別な事情が発生したときだけと決めてある。普段この治療院にはまったく近づかない俺がわざわざ来たということで、まず事情を聞かせろという構えだ。
ちなみに俺の接近をミオさんが察したのは、彼女がこじらせた愛の力……ではなく、ロマノフがなぜか俺の帰宅を察して門の前で出迎えたときにも使われていた、オーダー由来の謎テクノロジー。やっぱりセンサー的なもので俺を認識しているらしく、センサーに引っかかると通知が届くらしい。
ミオさんを引っ剥がしつつ、事情の説明に取り掛かる。
「ぜんぜん緊急事態とかじゃないから安心して。実はようやくグッとくる人たちに会えて、ぜひみんなに紹介したいなと」
「おお、半年かかってようやくですか。ということは迷宮攻略の目処が立ちそうなんですか?」
「いやそれはたぶん期待できない。実力的にはイケてるけど、そういう欲がないみたい」
「あー、いかにもクリエさんがグッと来る人たちって感じですねえ」
「薄々気づいてたんだけど、俺ってスカウトに向いてないよね? この作戦、失敗だったかな……」
「まーでも絶対に迷宮を攻略しなきゃいけないってわけでもないですし。守護竜さんたちが気になるなら、最悪念話とかで声をかけてあげればいいんじゃないですか?」
「んだなあ。なんなら会うだけ会って喋って帰るとかでもいいんだし」
「それでいつか歴史に名を残しましょう。守護竜介護のクリエって」
「はははこやつめ」
はははとか笑ってみたけど、言われてみればこれデイサービスとかそういうやつだ。孤独で気力が萎えていく守護竜さんたちに手を差し伸べて、少しでも元気に過ごしていただこう的な。
「俺、何やってんだろうね?」
「なんでもいいんじゃないですか? 何かやらなきゃいけないってこともないでしょう」
「いやでも何かやらないとほら、ミオさんが俺に期待してる『人の命を救う』ってやつが」
「それ、リュクルス様の解放でいっぱい救ったと思いますよ? もっと良くなるのは大歓迎ですけど、クリエさんがちまちまヘルパーやってるよりも間違いなく大きな成果が上がってます」
そして、「わたしが何か言ったからっていうの、やめてくださいねー。勝手に期待してるだけですから」って釘を刺されてしまった。別に使命感に追われてたわけでもないけど、たしかにけっこう意識してたな。
「見込みのある冒険者たちを支えるっていっても、けっきょくダイレクトに技術指導とかになるってのも今日で痛感したしなー。ちょっとやり方考えるかなあ」
「ぜひそうしましょう。わたし的には、クリエさんと離れ離れにならないですむやり方がベストだと思います」
えらく真剣な顔で言うね?って言ったら、そりゃあ真剣ですよって返された。俺とミオさんも、あのふたりが言ってた「夫婦みたいな相棒」みたいな感じなのかなって思うけど、こうもグイグイ来られるとなんか違う感じがしてくる。枯れた感じが足りない的な。
「まあそのへんの話は定例会かでするとして。ミオさん今日の夜ってヒマ?」
「毎日ヒマですよ? なんならマーティンさんたちにも声をかけてきましょうか?」
「お、それは助かる。じゃあ日が落ちたら町の外のこの辺に……」
アカラナイさんが根城にしているあたりの地図を描いたら、キャンプファイアーでもするんですか?って訊かれた。たぶん実質そうなるけど、そこは野営って言おうね。




