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02

本日2話め。

 新しい顔ぶれでパーティ組んだら、即迷宮に入って普段の立ち回りを見せてもらうのが俺のジャスティス。


 ジャスティスとか言ってみたが、ただの基本だ。俺みたいな助っ人の場合、そのパーティのいつものやり方をまず把握してから合わせていくのが効率的なので、実力を見せてもらわないと始まらない。顔合わせしてお互いにできることを話し合って、じゃあこんな感じでやってみましょうかーていう人もいるけど、最初の打ち合わせ通りのままでうまくいくことなんかまずないんだから、その手順はすっ飛ばしてもいいと思うんだが。


 まあ人それぞれか。


 で、ナサーニアさんとアカラナイさんのパーティは、なるほどこれなら第2階層の攻略にも挑みたくなるわっていう程度に熟達していた。ぶっちゃけだいぶ強い。長剣で前衛を張るアカラナイさんと、弓使いのナサーニアさんという構成は俺にとってすごく馴染みがあるもので、マーティンと出会った頃を思い出す。


 俺らのときはマーティンの戦闘力がぶっ壊れてたというのがでかいが、手前味噌ながら俺も弓使いとしては規格外の火力を叩き出せたので、後衛の俺が先手を取って敵の数を削り、前衛のための安全マージンを作るというのができていた。


 まあ、そのうちに「そのマージン、必要か?」てぐらいマーティンがぶっ壊れ火力を発揮するようになり、俺は殺戮マシーンと化したマーティンの後ろで、支援という名のアテレコをするぐらいしか仕事がなかったわけだが。


 それはさておき、このパーティも安全マージンの確保に関しては同じことが言えて、ナサーニアさんはなんと、俺がブラストアローと勝手に名付けて愛用してるエルフの弓術をモノにしていた。たぶん1階層だけならソロでもイケそうなレベルの弓使いだ。アカラナイさんの剣術もなかなかのもので、ぶっちゃけ2人だけでも第2階層ボスのガーゴイルにいい勝負できそうだし、高確率で勝てそうでもある。欲を言えばナサーニアさんにもう少し火力、もしくは支援役としての切り札が欲しいか。



 いつも第2階層を狩場にしているという2人は、ゴブリンの上位種が勢揃いする第1階層のボス部屋もあっさりと突破した。今は第2階層へと続く階段に腰掛け、今後の打ち合わせを兼ねた休憩の時間だ。


 水分補給を終えたナサーニアさんは水筒をアカラナイさんに投げ渡すと、階段に座った姿勢のまま俺の方にスライドして距離を詰めてきた。


「で、クリエくん的にあたいらのパーティはどうだった?」

「なんでナサーニアさんっていちいち近いんですかね……。実力には正直驚きました。とくにナサーニアさんの弓に」

「でしょでしょー? いろんな冒険者を見てきたけど、アレできる人間って、なかなかいないんだよねー♪」

「ですよねえ。それで、わざわざ『人間』って言ったりするナサーニアさんって、ひょっとしてエルフなんですか?」

「うんうん。半分だけだけどねー」


 少し照れくさそうな感じでそう言うと、ナサーニアさんは耳のあたりで長髪をかき上げて見せた。6年前に見たエルフよりも少し短いかな?といった感じの尖り耳があらわになる。じっくり観察したいところだったが「内緒だよ?」と言って早々に隠されてしまった。


「アカラナイもそれ脱いじゃえばー?」

「俺うぁかあうぁんが、クリエが嫌がるかもしれない」

「だーいじょうぶだって! あたいの目を信じなよ、クリエくん絶対そんなタマじゃないから!」

「あんたがそう言うんなら、そうなんだろうな……」

「クリエくん、心の準備しててね? ちょっとしんどいのが出てくるから」


 俺の心配なんか1ミリもしてない感じのナサーニアさんが、悪戯っぽくそんなことを言ってきた。ギルドの中でもヘルムで顔を隠していたのと、発声がおぼつかなかったのでそういう可能性については一応想像済みだ。なのでとくに気負うようなこともなく、俺も頷きを返す。


 よほどナサーニアさんを信用してるのか、なんのためらいもなくヘルムを脱いだアカラナイさんの顔は、焼け爛れたようなものだった。頭から火の中に突っ込んだんだろうか、頭髪もない。


「こいつねー、たぶんこのケガを負ったときのせいだと思うんだけど、記憶がないんだってー」

「そうだったんですね……魔物でしょうか?」

「たぶんそうー。やられてるのは頭だけで、肩とか胸とかなんともないから、火じゃなくて酸とかで焼かれたんじゃないかなーって思ってる」

「よく命がありましたね……」

「ねー。たぶんソロじゃなかったんじゃないかなー。タイマンでとどめを刺さない魔物って、ちょっと想像つかない」

「なるほど確かに」


 そんな俺とナサーニアさんの会話に興味を示す様子もなく、アカラナイさんは水筒を頭の上に掲げると、ひっくり返して頭のてっぺんから水をかぶっている。気持ちよさそうだなアレ。


「あれね、焼けちゃったせいで汗が出にくいから、暑いんだってさ」


 なるほど汗腺まで及ぶ程度の大火傷だったのか。さっきの心配よりもっと深刻な意味で、よく生命があったな……。


「なんか意識ないっていうか、たぶん朦朧とした状態でフラフラしてたみたいでねー、奇跡的にこのへんまでたどり着いたところで『俺は誰だ!?』ってなったみたいで。それで街の人を頼ってみたんだけど、なにしろ見た目がコレだし記憶もないしで、しばらく牢に入れられたってさ」

「でもまあ、普通なら釈放ですよね? 何をしたわけでもないし本当に記憶がないんだし」

「そーなの。でもとにかく見た目がコレだから。会った人はいい顔しないし、ガキんちょたちにもわーゾンビーとか言って石投げられたりするし、仕方なく町の外で暮らすことにしたんだって」


 まあ、噂なんかこんなもんだよな。他の人に気を使ってわざわざ町の外で暮らしているアカラナイさんに、なにが『浮浪者』だ。腹立つ話だな。


 しかしその感じだと、冒険者になるというのは無理筋だったのでは。そもそもナサーニアさんとはどうやって知り合ったんだろうか?


「完全に興味本位なんですが、ナサーニアさんとアカラナイさんが組むようになったきっかけとか聞いてもいいですか?」

「あ、ぜーんぜんいいよ。っていっても大した話じゃないっていうか、あたいこそ興味本位だったって話なんだよね。アラゴネッサに来たとき酒場で『浮浪者』の噂を聞かされて、それでどんなもんか見とこうかなーって」

「あったく、俺うぁいせ物じゃないぞ」


 苦笑するような感じでアカラナイさんが合いの手を入れてきた。素顔を見た今なら、顔がひどく焼けて唇を失ったせいで日本語で言う「ま行」と「わ行」、そして「ば行」の発音が難しいというのがよくわかる。なので今のが「まったく、俺は見せ物じゃないぞ」と言ったんだというのも理解しやすい。


「あたいの話もちょっとだけするとね、エルフの子として森で暮らしてたんだけど、人間の血が入ってるからっていうので面白くない目に遭わされることも多くて。それで森を飛び出して50年ぐらい旅してたんだよね」

「ええ……それって、混血がバカにされるみたいな話ですか?」

「そーそー。まあ寿命も純血よりは短くなっちゃうし? 優れてないって言われるとそうなんだけどさー」

「まあ面白くないですよねえ。ご両親の仲が良かったならそれも含めて」

「やー、やっぱりクリエくんはわかってくれるなー。うんうん!」


 にぱぁ、みたいな感じで満面の笑顔を浮かべて、しきりに頷くナサーニアさん。この感じだとたぶん、ご両親はラブラブだったんだろう。


「そんなわけで故郷にいい思い出はないんだけど、エルフの暮らしは好きだったんだよねー。あれもこれもって欲張るんじゃなくて、森から必要なものだけを貰って、返せるものは森に返してって感じのやつ」

「ふむふむ?」

「そしたらさ、人間がそういう暮らししてたから、こいついいなーって思って!」

「あー、アカラナイさんは町の外でそんな感じの暮らしだったんですか」

「俺うぁ欲ありたかったけど、狩りが下手くそだっただけだ……」


 なるほど必要なものだけっていうか、なんなら必要なものすら森から頂けなかったと。


「それで声かけてみてねー、名前を聞いたら『あからない』って言ったから、あたいずっとそれがこいつの名前だと思ってたんだけどさー」

「こいつが俺をおうけんしゃにしてくれたとき、職員に『アカラナイさん』って言うぁれてびっくりしたんだぞ」

「いやナサーニアさんなんでもっと早く、アカラナイが名前じゃないって気づかなかったんですか」

「だって、ずっとあんたとかこいつって言ってたからさー」

「だったら名あえを聞く必要なかっただろ」


 そんなことを言ってアッハッハとか笑ってるナサーニアさんとアカラナイさん。


 いやいいパーティだなこの人ら! なんだよこのほっこりする感じ! お前ら付き合ってんのか!? ていうか男女2人パーティでこの雰囲気だもんな。付き合ってるっていうかもはや夫婦なんだよな?


「なんか夫婦みたいですね?」

「それがさー、あたいこいつにフラれてるんだよねー」

「うったんじゃない、しあらくあってくれって言っただけだ」


 ああ、フも発音しにくいのか。なんだよ結局保留してるってだけで、友達以上恋人未満じゃねーかよ。


「あたいね、母親がエルフで父親が人間なんだけど、会ったことがない父親のいい話しか聞かなかったせいか、なーんか人間が大好きなの」


 ナサーニアさんがなんか語り始めた。これいったい何が始まるんです? なのにこいつが見向きもしてくれなくてさーみたいな、愚痴の皮を被ったノロケとか?


「クリエくんを触りたがるのもそのせいなんだよねー。こいつを見つけたときも、逃げ回るのを追いかけまくってどうにか仲良くなったのはいいんだけど、あたいが触ろうとすると、なんかすっごい嫌がるの」

「それは……すあんな……」

「いーのよ。あんた優しいから待てって言ってくれたけどさ、あたいを避けるあの感じからして、たぶん心に決めた女性がいたんだと思うよ」


 はー、本能的に女性を回避してるみたいな感じか。すげえなアカラナイさん、誠実の化身かよ。


「だからあたいはフラれたってことでいーの。ひょっとしたらあんたが死なずにいられたのって、恋人が身代わりになってくれたとかかもしれないしね……」

「…………」


 うわ沈黙おっも。まあでもアカラナイさんが一命をとりとめたのって奇跡的だから、そういう線もなくはないよなあ。


 しかしとりあえずこの空気をなんとかせねば。ここは直球でいこう。


「なんかすいませんね俺が夫婦とか訊いちゃったせいで」

「いーのいーの。普通訊くでしょそういうの。今日じゃなくてもそのうち」

「訊きますねえ」

「だからしょうがないって。そーいうわけであたいとこいつは、夫婦みたいな相棒って感じ?」

「だな」

「なるほどしっくりきますね。了解です」


 ほんとに気持ちのいい人たちだなあ。俺もうすっかり絆されちゃってこの人たちに嘘はつきたくない気分になってるから、油断すると「実は俺、特級冒険者のクリエです!」とか言っちゃいそうだ。


 さすがにそこまではバラさないにしても――。


「それじゃあお詫びというわけでもないですけど、俺のことも少しだけ話しますね」


 と見せかけて、ナサーニアさんのことを聞きたいだけなんだが。精霊魔法使えますよね?とか。


 見せかけるわけじゃないか。俺のことを話すのも本当だ。

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