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01

全然書き溜まってませんが、更新を始めたほうが筆が進むかもという一縷の望みをかけて……。

本日3話更新予定ですが、2話かもしれません。

 冒険者たちでごった返す(・・・・・)冒険者ギルドの食堂でお茶をすすっていると、見知った顔に声をかけられた。


「おうクリエ、待ち合わせか? またうちとも組んでくれなー」

「あ、おはようジョルダン。空いてるときならいつでもいいよー」


 空いていれば指定席のように使っているこのテーブルに俺がいるときは、その日に組むパーティとの待ち合わせだというのがすっかり知られているようで、ジョルダンは委細承知といった感じでさっさと行ってしまった。気楽で良い。


 どうも、特級冒険者クリエ16歳です。トスマ王国のお隣、サクレメンテ王国領であるここ迷宮都市アラゴネッサにやって来てはや6ヶ月、16歳になりました。表向きにはD級冒険者ということで迷宮攻略に励んでます。


 正直、やってることはメリヤス時代のヘルパーに近い。アラゴネッサに来てすぐにソロで2階層までこっそり踏破して、出てくる魔物を把握したあとは臨時でパーティを組む日々だ。本来のパーティメンバーとはアラゴネッサの近くまで一緒に旅してきたが、そこからそれぞれ別行動を取ってマーティンとディーレはペアで迷宮攻略、ミオさんは放浪の治癒師時代と同じように気ままに過ごしてる。


 ホゲットから戻ってきたと思ったら、なぜか奥さんも一緒だったミックさんはメリヤスに置いてきた。新婚さんへの配慮というのもなくはないけど、当面はミックさんにアラゴネッサに来てもらってもとくにやることがないというのが主な理由だ。


 それを言ったらミオさんもそうだったんだけど、俺らがメリヤスにいないなら暇だしどうせなら他人のフリでいいから同じ町に行きたいとゴリ押されてしまった。移動の自由は基本的人権だからね、しょうがないね。


 なんでフルメンバーでパーティを組まないかの理由はもちろん、俺らが全部の迷宮を踏破するんじゃ迷宮と守護竜のシステムが崩壊してしまうからだ。それと同時に、メリヤスの迷宮を踏破した《白銀竜》が次にどの迷宮を攻略するのかというのは、看過できない政治問題だというのもある。


 どういう理由でその国を優先しているのだ、さっさとうちの国に来て迷宮からの恩恵を寄越せ――というのが正直めんどくさい。《白銀竜》はトスマ王国に縛られることのない自由な冒険者パーティだというのはリュクルス様によって宣言されているのだが、そうであっても「そこにトスマ王国の思惑が絡んでるんじゃないか?」と邪推するのが政治というもの。


 そんなめんどくさい連中のために俺らが恩恵を与えてやる必要もないので、主様の当初の思惑を尊重して、「その国が迷宮攻略を達成するだけの力をつけたなら、迷宮からの恩恵が与えられる」というのを基本路線にすることにした。


 そのために俺らは、それぞれの国とその迷宮に挑む冒険者達が力をつけるための黒子に徹することを決めた。冒険者ランクを偽って活動しているのは、そういう事情による。


 ちなみに《白銀竜》というパーティ名はトスマ王国による迷宮踏破声明のために2秒で考えたやつで、もう少しヒネった名前にするべきかとも思ったんだけど……みんなオーダーが大好きなので、全員一致で1秒ぐらいで可決してしまった。実際に名乗ってみたらしっくり来たので、俺も気に入っている。


「おーす、クリエっち。調子どうー?」

「おーす、メルさん。ぼちぼちっすよー。そっちは?」

「ダメだねー。アタシはいいんだけど、相方がうっかりハズレ掴んじゃってさー」

「あー、ご愁傷様です。3日ぐらい?」

「そうそう、よくあるやつ。まあ再起不能じゃなかっただけ良かったよ」

「やっぱ償還品って怖いっすねー。お大事にってお伝え下さい」

「ありがとー。クリエっちも気をつけてねー」


 そう言ってひらひらと手を振って朝食を取りに行ったメルさんは、まさに脳筋戦士といった感じの旦那さんと夫婦で探索をしている冒険者。過去に3回パーティを組んだが、旦那のベロンさんがおおらかというかおっちょこちょいというか注意力散漫で危なっかしかったのだが、どうやらついに、ドロップした償還品の取り扱いを間違えてしまったらしい。


 3日コースというのはいわゆる《呪われ品》のなかでも強めなやつをがっつり握ってしまい、一気にマナを乱されて意識混濁に追い込まれたときの定番復帰日数だ。まる1日は使い物にならず、2日ほど様子を見て全快してから探索復帰というのが目安になっている。


 もちろんその《呪われ品》というのは魔族用の償還品なのだが、その知見はメリヤスでも伏せられたままで、ここアラゴネッサでもまだ解明されていないらしい。まあ、魔族の冒険者とかなかなかおらんしな。普通わからんわな。


 その後も知り合いに声をかけられては挨拶を交わすというのが続くが、なかなか待ち合わせの本命が現れない。なんかトラブルでもあったんだろうか。こういった朝の冒険者ギルドの喧騒にもすっかり慣れたとはいえ、正直あんまり会いたくないような連中にも会ってしまうので、できればさっさと迷宮に入りたいんだが。


 しかしまあ、ギルドに冒険者が溢れ返るというのは、俺らが攻略に挑んでいた頃のメリヤスではなかなかお目にかかれなかった景色なので、この場の雰囲気を味わうこと自体は嫌いじゃない。これはアラゴネッサの迷宮がとくに人気があるというわけではなく、詰まるところ俺らのせいだ。


 メリヤスの迷宮が踏破され、迷宮を有する国には守護竜の恩恵と魔道具が与えられることが知れ渡ると、メリヤス以外の国は血眼になって迷宮攻略に力を入れ始めた。世界中で目減りしていた冒険者は途端にその数を増し、冒険者を失わないようにと迷宮攻略に伴うさまざまな危険への知識が共有され、手厚い治療体制も充実することとなった。


 その結果、第2階層程度の探索難度が一気に下がり、迷宮の踏破は無理でもそこそこに魔物を狩って生計を立てるような職業冒険者たちが増えた、というのがこの場に満ち満ちている活気の理由だ。


 そういった浅層の冒険者たちは自然と少人数のパーティに落ち着きやすいのだが、そのうちに欲が出てパーティ増員の必要に迫られることがある。C級冒険者への昇格条件である第2階層のクリアを目指したいというのがその定番で、第2階層のボスであるガーゴイルは石像が動くタイプではないものの外皮が硬くてしぶとい上に数が多く、最低でも4人を揃えたパーティで挑まなければ壊滅は必至と言われている。


 すなわち迷宮のデザイン的には第2階層で最低人数チェックが為されてるわけで、主様にしてはいい仕事してると思う。これができるのにどうしてメリヤスだと第5階層になってようやく、しかも常識はずれってレベルの人数チェックになるのかは問い詰め――お、ようやく待ち人来たるか。


 長身のスラリとした女性が、フード付きのマントで全身を隠した人物を引っ張るようにして食堂に入ってきた。フードの人もやはり長身で、マント越しにもがっしりした体格なのが見て取れる。おそらく男性だろう。


「クリエくん、だよね? 遅くなってごめんねー!」

「ナサーニアさんとアカラナイさんですね? 何かトラブルでもありました?」


 声をかけてきたのは女性の方。赤髪を腰まで伸ばし、背負っている大きめの弓が髪の毛の海で溺れている。取り回すときに髪の毛に引っかかったりするんじゃないかと心配になるんだが、大丈夫なのかこれ。


「いやー、こいつ……アカラナイが人前に出るのが嫌いでね。やっぱり行きたくないって渋るもんだから、全身隠してりゃいいでしょって説得したんだけど、フード付きのマントを置いてる店が見つからなかったんだよー」

「あ、そういう事情があったんですね。それならまあ仕方がないというか、ご苦労さまでした。初めて組む人たちに『他の仲間は外にいる』とか言われると、やっぱりちょっと警戒しちゃいますからね」

「だよねー。クリエくん怒ってないみたいだし、どうにか間に合ったみたいで良かったよ」

「理由次第では怒ったし、今回の話はご破算でしたよ? とりあえずそういう事情でしたら、さっさと出ましょうか」

「ありがとー。そうしてくれると助かるよ」





「すあなかった」


 冒険者ギルドを出てすぐに、アカラナイさんがくぐもった声で謝罪してきた。食堂の時点で確認済みだが、フードの下の顔はフルフェイスのヘルムで隠されている。そのせいで声がくぐもっているのだろうが、なぜか発音がおぼつかないというのは気になる。


「遅刻のことなら本当に気にしてませんが、謝罪は確かに受けましたよ、アカラナイさん」

「そうか、それならありがたい」


 遅刻の件が蒸し返されたついでに迷宮への道行きで大まかな事情を聞くと、アカラナイさんは他の冒険者たちからバカにされているらしく、ギルドはどうにも居心地が悪いらしい。


「あー……なんかそういう扱いされてる人の話を聞いたことがありますね。アカラナイさんのことでしたか」

「『浮浪者』ってやつだよねー。でもそんなの言わせときゃいいんだ。アカラナイの良さはあたいがわかってるから」

「周りが何を言ってようが、パーティ仲がいいのが一番大事ですからねー」

「え? ひょっとしてクリエくんはそういうの気にしない感じ?」

「気にはなりますけど、噂話を鵜呑みにはしませんね。とくに仲間はずれとかそういうやつは。アカラナイさんの噂にしても、『浮浪者』というのがなんか気に食わないですし。冒険者なんか宿代が払えるだけの浮浪者みたいなもんでしょ――って、ちょ!? ナサーニアさん!?」


 いきなりナサーニアさんが飛びついて抱き締めてきたので、盛大にびっくりした。


「いいねー! さっすが評判のいいクリエくん! 『調和者』って呼ばれてるのは伊達じゃないんだねー!」

「いやなんですかその二つ名みたいなの!? そんなん言われたこと1回もないんですけど!?」

「えー、有名だよー? D級なのに腕利きで立ち回りにもソツがなくて、パーティの足りないところをきっちり補って普段以上の力を発揮させてくれる『調和者』だって」

「はー、それは嬉しい評判ですね。真面目にやってきた甲斐があったというか、組む相手を選んできた甲斐があったというか……」


 俺をパーティに誘ってくれるなかにリピーターが多いので、かなりポジティブに評価されているという実感はあったけど、そこまでしっかりした評価で噂になってるというのは予想外だった。正直嬉しい。噂にしてくれた連中とまた組むときは、ちょっとだけ張り切ってサービスしてやらねば。


「それなんだけどね? なんでクリエくんはあたいらと組んでくれることにしたの? 噂話を鵜呑みにしないっていっても、あたいらの評判いい話なんか聞かないよね?」


 後ろから俺を抱え込んだままで器用に歩くナサーニアさんが、ちょっと真面目そうな声色でそう言った。


「いやそんな不思議がることじゃないですよ。噂話そのものがまず弱かったですし、アカラナイさんが街を嫌って外の森で生活してた『浮浪者』だからってそれが何だって話で。まあその話と繋がったのは今ですけど。そして臨時パーティの募集に関しては冒険者ギルドがいろいろ情報くれますしね。ナサーニアさんたちが他の冒険者に絡まれることはあっても、大きな問題は起こしてないことも知ってます。それと……」

「それと?」

「……探索の腕が確かというのがでかいですね。さすがに具体的な成果までは教えてくれないんですけど、ナサーニアさんとアカラナイさんが迷宮に潜って、とくにトラブルもなく十分以上の成果を上げて帰ってきてるというのはギルドから聞きました」

「へ? それだけ?」

「いや十分じゃないですか?」


 裏付けが取れるような悪い話がなく、探索の腕が確かだというならそれで十分だ。なぜなら俺の目的はD級冒険者としてアラゴネッサで生きていくことではなく、この迷宮を攻略できる実力者たちの目星をつけることなんだから、探索の腕こそを最重視している。ボランティアみたいなことやって他の冒険者に好かれるのも悪い気分じゃないけど、そういうのは完全にオマケだから。


 などと特級冒険者モードに浸っていたら、「そっかあ……」ていうちょっと甘ったるい声でナサーニアさんが抱擁を強めてきた。背中に当たる柔らかな双丘の感触が超気持ちいい。


 じゃねえよ! この人ずいぶんスキンシップ強めだけど、どーなってんだよ!


 そして個人的にはナサーニアさんの距離感よりも、マーティンばりに精霊に愛されてるっぽい体質のほうがもっと気になる。ひょっとしてあれか、精霊に愛されてる連中って、揃ってどいつもこいつも距離感おかしいとかそういうことか。

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