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ゲーミング竜

 全世界迷宮攻略指南ツアーを敢行するにあたり、メリヤスにいる間にどうしても片付けておきたい案件があったので、リュクルス様に面会すべく、オーダーの手で絶賛改装中の迷宮へとやってきた。


「――というわけでリュクルス様、携帯できる顕微鏡をプレゼントしてください」

「……甥っ子の言い分はわかるが、顕微鏡など作りたくないのう……」

「しかしリュクルスよ、クリエの言い分はもっともだぞ」


 ことは全世界の迷宮攻略の難度に関わる問題であり、ひいてはメリヤスの迷宮の改装計画にも関わることなので、俺の意見をオーダーが強めにバックアップしてくれている。


 俺の要求はズバリ「償還品に刻まれてる魔法式を研究して解読したいから、魔法式に使われてる微小な文字を判別できるレベルの顕微鏡をくれ」ということだ。


 ぶっちゃけメリヤスの迷宮を攻略するにあたって何に一番苦労したかというと、償還品の鑑定に尽きる。しかも攻略を終えてもなお、屋敷にはまだ未鑑定の償還品が山積みだ。


 どうせ他の国の償還品も、メリヤスで見つけたゴーレムスレイヤーみたいなクリティカルな攻略装備が用意されてるに決まってる。そういった武器の存在が広まり、冒険者たちの手に渡ってさえいれば、俺達以外の冒険者の手でメリヤスの攻略はもっと進んでいたはずなのだ。


 そのためには、償還品の効果を高い精度で鑑定できる技術が必要で、その唯一の方法が償還品に微小な文字で刻まれた魔法式の解読である以上、顕微鏡のような魔道具が必須ということになる。


 なのに、リュクルス様の反応は渋い。やはりこの世界に顕微鏡という技術は早すぎるのだろうか。


「リュクルス様、作りたくない理由をお訊きしても?」

「我としてはむしろ、どうしてそのようなものを作りたくなると思えるのかという、その理由をだな……ああ、全世界の迷宮攻略の難度を下げるためだったな」


 この感じだとアレだな、リュクルス様が顕微鏡を作りたがらないのって、その技術がこの世界には時期尚早とかそういうことじゃなくて、なんか自分の好き嫌いの問題っぽいな。


「顕微鏡、嫌いですか?」

「……好きではない」

「その理由をお訊きしても? 場合によっては考え直しますが」


 そう言って食い下がると、リュクルス様は不貞腐れたような上目遣いになり、ものすっごい小さな声で言った。


「……光らんではないか……」

「はい?」

「……顕微鏡など、光らんではないか……」

「ええと?」


 1ミリも理解できないので、なぜなぜホワーイ?って訊き返しまくってたら、リュクルス様がキレた。


「なぜ察せられんのだ! 我は【光の恩恵】を司る煌竜だぞ!? そんな我が与える魔道具が、顕微鏡などという光らん地味なやつであるなど、つまらんではないか!」


 なるほど何言ってんだこいつ。


「つまりこういうことですか? リュクルス様は、ピカピカ光る魔道具を作りたいと?」

「うむ! その通りだ! よって顕微鏡など……あ、甥っ子よ、こういうのはどうだ? 顕微鏡の外側を光らせるのだ! 設定してる倍率によって違う色に光ったら、カッコいいしわかりやすいと思わぬか!?」

「いや、あんま目立たないやつがいいです」


 なんで顕微鏡のガワを光らせる必要があるんだよ。ゲーミング顕微鏡か? 1680万色とかに光るのか? 倍率に応じて色が変わるって、倍率いくつまであんだよ。1680万倍か? 電子顕微鏡でも100万倍までが限界って聞いたことあるんだが?


「このゲーミング竜はダメだ。オーダー、顕微鏡作ってもらっていい?」

「まあレンズ自体はクリエが旅立つときにすでに使っているわけだしな。あとは工作が得意な母が工夫したということで、なんとかなるのではないかな」


 そう、我が家は既にレンズ自体はこの世界で再現しているのだ。よってリュクルス様に期待してたのは、それを便利なペン型顕微鏡に加工して貰うというだけのことだったのだが。ゲーミング顕微鏡じゃないと作らんというなら、わざわざこの駄竜に頼む必要はない。


「甥っ子が辛辣なのは知っておるが、姉上様まで……」


 なんか駄竜がごちゃごちゃ言ってるけど、俺とオーダーはペン型顕微鏡の仕様を決めるのに忙しいので、耳を貸してやる余裕がない。


「100倍ぐらいまではイケるかな?」

「余裕だな。この母に任せておくが良い」

「ゆくゆくは冒険者ギルドにも配備して、鑑定窓口を機能させたいんだけど」

「そっちはまたそのときに、それこそ標準サイズの顕微鏡ぐらいのほうが有り難みがあるかもしれぬな」

「言えてる。じゃあペン型は俺だけのチートアイテムでいいかな」


 そんな感じで盛り上がっていたら、涙目のリュクルス様にシャツの裾を引っ張られた。


「……仲間はずれにするでない。迷宮内で鑑定したいこともあるだろうから、対物レンズの近くにライトがあるほうが便利であろう……我に作らせろ……」

「あ、それは名案。じゃあリュクルス様にお願いします」

「叔母上と呼んでくれてもいいのだぞ? それとな、甥っ子よ――」


「――ゲーミング竜というのは、どういう意味だ?」


 リュクルス様が「ゲーミング○○」という言葉をご存じなかったことにより、俺の中にあった「主様は2000年らへんまでのPCゲームしか知らない疑惑」は、ほぼ確信に変わったのだった。



 ちなみにリュクルス様が作った魔道具の試作1号だが、観察対象を照らすライトをONにするとガワも256色に光るという予想を1ミリも裏切らないガラクタだったので、速攻で突き返してガワが光らないやつに作り直させた。


 その後に望み通りのペン型顕微鏡を手に入れたところで、俺が生きていた時代でピカピカ光る定義は1680万色だと教えてやったら、なんか凄いショックを受けたあと、凄い勢いでオーダーにLEDについて教わってた。


 完全に余計なことを教えてしまった。後悔しかない。

これにて3章にくっつける間話も終了です。4章の開始まで、しばしお待ちをー。


語字報告いただきました。ありがとうございますありがとうございます。

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