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本日2話目。短いです。2000文字程度。中途半端なとこでヒキになってしまったので。
「お主、我が還した装備を大量に持っているはずだが、何か気づいたことはないのか?」
「気づいたこと……? えーと、人族用と魔族用と思われる装備があ「はああああ……」
全部言ってないのに、なんか盛大にがっかりされてしまった。
「我が買いかぶりすぎたかのう。しかしつい先程、重大なヒントを与えたのだぞ? もう一度よく考えてみよ」
「いや降参しますから答えを「も う い ち ど よ く か ん が え て み よ」
泣かす。この美人いつか絶対泣かす。オーダーの関係者だろうがもう知らん。迷宮の床が抜けるぐらいドラゴンドロップを絞り出させてやる。
しかしまあけっこうな無茶振りとはいえ、勘が鈍いやつと思われるのもそれはそれで癪に障る。たぶん「解明したこと」じゃなくて、もっとシンプルに「気づいたこと」でいいのだ。
「おーいマーティン、ちょっとその戦鎚貸してくれない?」
「これをかい? 構わないよ」
この際現物を見るのが一番手っ取り早い。マーティンが持っていた戦鎚を床に置いてもらい、「気づいたこと」を探す。
償還品の装備を見て気づくこと、気づくこと、ねえ? もとは冒険者たちが持っていた装備なのだから、武器それぞれの特徴とかそういうことではないはず。それでいて償還品に共通した特徴といえば……。
「あ」
「何かわかったのかい? クリエ」
「ああ、たぶん――リュクルス様、ひょっとしてこの渦巻の紋章は集積回路のようなものだと、そういうことですか?」
そう言って反応を伺うと、リュクルス様はなんだかつまらなさそうな表情というか、駄々をこねる子供のように唇を尖らせて、髪の毛を指に巻き付けてくるくると弄り倒していた。表情が豊かでおもしれえなあこの美人。
「つまらんのう……解明しろとは言っておらぬのに……」
ドンピシャ正解だったらしい。なんだかこっちが悪いことをしたような気分になってきたので、どうにか気持ちよくなっていただかないと。
「まさかこれがそういうものだとは……。転移陣などを見る限り、魔法陣というのは円形を基調として描かれるものだと思っていたのですが、まさかこれが魔法的な働きを……」
「そ、そうなのか? お主でもまったく気づかなかったのか?」
立ち直るの早ぇなあオイ。大げさに感心してみせた俺がバカみたいじゃねーの。
しかし魔法陣という可能性についてほとんど考えていなかったし、魔法陣たるものこんな落書きみたいな螺旋形ではなく、ビシッとした円形だと思い込んでいたのも本当だ。
「ふっふっふ。それが主様の偉大なからくりよ。その螺旋にはな、微小な魔法言語がびっしりと書き込まれておるのだ。顕微鏡?というものをお主が持っておれば、気づけたかもしれぬがなあ」
「うっわあなろほどー」
「ははは、なんじゃその間抜けな驚き方は」
いや驚くよ。危うく直球で「うっわアナログ」って言いそうになって危なかったわ。CPUがどうこう言っといて、ちっちゃい魔法文字がびっしり書いてあるとか、米粒に写経するのを極めましたーみたいな話で違うテンションの驚きがあるわ。
しかしまあリュクルス様の機嫌も直ったようでなによりだ。「どや? 主様は凄かろ?」みたいな表情はちょっと腹立つが。
「ところで、我からもいくつか訊きたいことがあるのだがな」
えっ、これまでの流れでこっちから訊いたことってなんかありましたっけ。リュクルス様が勝手にいろいろ喋り始めて、その流れでちょいちょい質問はしたけども。
「まずひとつめの問いだが……。お主、こないだ来たときからなんかインチキをしておるな?」
「へ?」
「とぼけるでないわ。マンティコアといい、そこに伏している我の分け身といい、お主が矢で射ただけで腰砕けにされておるではないか。我が還した装備は数多あれど、そのような効果を付与した覚えはないぞ」
「あー……」
これはどう答えたものかな……。こっちとしてもリュクルス様とオーダーの関係について訊きたいところだから、直球ど真ん中で「えーと、俺はオーダーというドラゴンの息子でして……」って言っちゃえばいいのかな。リュクルス様が世界を発展させるために生み出された?存在というのなら、たぶんオーダーの同僚みたいなもんなんだろうし……。
「インチキついでにふたつ目の問いも言わせてもらうぞ。そもそもお主がその気になれば、魔物と戦わずしてここまで来れるはずであろうに、なぜそうせぬのだ? もっと小さな頃に4階層までスタスタとやってきていたではないか」
「あ、それもご存知でしたか……」
うん、詰んでる。どっちもオーダー由来のアイテムなので、これはもうカミングアウトするのが手っ取り早い。
「えーと、実はですね――」
リュクルス様にオーダーの息子であることをぶっちゃけようとしたそのとき、ズッバアアアアアアンみたいな音がしてボス部屋の巨大な方の扉が勢いよく開いた。
開け放たれた扉の向こうに立つ人影はひとつだけ――って、あれリュクルス様じゃないの?
慌てて目の前のリュクルス様の方を見ると、呆気にとられた顔で扉の向こうのリュクルス様を眺めている。パーティメンバーを見回せば、みんな初代リュクルス様と二代目リュクルス様を交互に見てて、混乱ここに極まれりといった感じだ。
「おねえ……さま……?」
ようやく言葉を絞り出した初代リュクルス様だったが、その言葉の意味そのものは理解できても、どういう状況なのかはさっぱりわからないままだ。
扉の向こうにいた人影こと二代目リュクルス様ことお姉様は、スムーズな足取りでどんどんこっちに近づいてくる。
そして、初代リュクルス様の前で立ち止まり、腰に両手を当てたかと思うと、やにわに俺の方を向いて高らかにこう言ったのだった。
「母、参上!!」




