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思ったより再起動に時間がかかってしまいました。更新再開です。

「なるほどこういうヒントのやつか」

「ここまでたどり着いてようやく、大人数じゃないとダメだって気づくわけですね。えいえい」

「しかし……およそ寡兵でたどり着ける……そんな道のりには……思えなかったのだが……。ぬぐぐ……」


 る気全開モードのマーティンとディーレによる、まさに無双としか例えようのない魔物の屠りっぷり。そんな死の嵐に運ばれてたどり着いたのは、迷宮入り口のものとは比べ物にならないほど大きくて重厚な石扉の前だった。


 どう見ても大人数で力を合わせなきゃ無理な感じで、俺らで開けられるわけがないんだけど、いちおう身体能力を高める装備を持ったミオさんとミックさんで挑戦してみてる。


「おりゃー!」


 そして思いっきり助走をつけたディーレの飛び蹴り。ドゥオン!みたいな音がして扉が震えた。


「うん? 少しだけ動いた気がするね?」

「おおマジだ。なんかちょっとだけピカピカした床が見えるな? これたぶん扉がズレて、扉の真下にあった部分が見えてる感じだ」

「あたしまだ何回でも蹴れるよー?」

「その高い志もタフさも頼もしいんだが、ちょっと試してみたかっただけだから、今回はいいや。おつかれディーレ。マーティンに存分に撫でてもらってくれ」

「ん。えへへー、マーティン撫でてー♪」

「よしよし、よく頑張ったね。カッコ良かったよ」


 ちょろいっていうか、簡単でいいなあこいつら。


「ミックさんとミオさんもおつかれ。ミオさんあんま頑張ってる感なかったけど」

「むっ。クリエさんともあろうものが失礼ですね。わたしとミックさんが全力で押してもダメなのは最初に確認してるんですから、そのあとはディーレさんが扉を蹴る前に力を入れててもあんまり意味ないじゃないですか。効率よく力を配分してただけですー」

「おお……なるほど。まったく気づいてなかった……ごめんなさい」

「許しましょう。ですが、わたしを撫でてねぎらってくれてもいいんですよ?」

「えっなにその縮地みたいな距離の詰め方」

「命を救われた少女が、異世界で再会した恩人のことを憎からず想わないとでも思ってましたか?」

「おおおぅ……テンプレなのに全然思わなかった……」

「でしょうねー。そりゃあクリエさんにはサラさんがいますもんねー」

「なるほど。独り身だったら真っ先にそういう妄想したかもなあ……」


 なんか気まずいので、とりあえず撫でてみる。

 ていうかミオさん、いまソフトに告ってきたよね? 俺にはサラさんがいるって知ってるよね? ミオさんの意図が読めん……。


 まあでもこの人(ミオさん)なら多分、そのうちあっけらかんと目論見を教えてくれるんだろうから、ひとまず保留っていうか、あんま気にしなくていいのかな。訊けば訊いたであっけらかんと教えてくれそうだし。


「ふふ、これはなかなかいいものですね。できればクリエさんもうちょっとこう、近くに」

「こ、こんなもん?」

「遠いです。もっと車に跳ねられそうな少女を抱きとめるような感じで」

「ええ……それはハグというのでは……」

「密着して撫でるだけです。あのときみたいにやってください」

「ええェ……」


 仕方なくそうしていると、俺らの様子を見ていたディーレに要求されたらしく、マーティンもディーレを抱きかかえるような感じで頭を撫でさせられていた。なにこの地獄絵図。

 こういうときに我関せずを決め込んで、ごく自然に距離を取ってくれるミックさんの心遣いがとても染みる。ありがとうミックさん、もしミックさんに彼女ができてこんなことやらされてたら、俺もきっと同じように振る舞ってみせるからね……。



「脇道の先に……別の……まだ真新しい扉があったぞ……」


 地獄絵図が終わったナイスタイミングで戻ってきたミックさんが、周囲を探索してきてそう言った。戻ってくるタイミングがどんぴしゃだったので、たぶん「終わった? 終わった?」ってちょいちょい様子を見てたんだろうな。お手数おかけしました。


 さて、その問題の扉だが。


「真新しいというか……ピカピカだね?」

「俺らが少人数で第5階層も乗り切ると踏んでから、急拵えしたんやろなあ……」


『……脇道を作るところからだったから、そこそこ大変だったのだぞ。しかしこんなものわざわざ作らずとも、お主らなら大扉を蹴破りそうであったな……』

『それしか手がなかったら試したかなあ。ディーレとミオさんとミックさんのスタミナが保てば、だけど。で、この扉を入ってもいいんだよね?』

『うむ。入ったあとで準備が整ったら言うが良い』

『入ったあとで準備? まあいいか、お邪魔しまーす』


 とりあえず不意打ちギミック的なものではないらしいので、気軽に俺を先頭にピカピカの扉を開けて先に進む。

 足を踏み入れた先は、部屋と呼ぶには広すぎる空間だった。


「うっわー、広いね!」

「大人数で戦うための空間って感じだなー」

「階層主が出てくるっぽい扉も、随分と大きいね?」

「だなあ。相応のものが出てくると覚悟したほうがいいか」

「了解だよ。ミックさん、戦鎚をお願いします」

「うむ……ディ剣はそのまま……持っておくのか……?」


 ゆるい感じで入ってきたが、装備を整える段になってみんなが緊張を取り戻していくのがわかる。いよいよ最終階層の攻略だと、俺も自分に気合いを入れ直した。

 そうだ、ついでにアレやっとこう。


「ミックさん、最後の締めだと思いますので、アレお願いします」

「むむ……あ、アレか……」

「やろー! やろー!」


 気まずそうなミックさんをディーレが急かし、全員で肩を組んで円陣を作る。身体を倒して一呼吸置いたところで、観念したミックさんが腹の底から声を出した。


「いいかァ、てめえらッ! 階層主の野郎をぶっ殺すぞォ!」

「「「「応ッ!!!!」」」」

「ここを超えて、俺達は伝説になる! 気合い入れてけよォ!?」

「「「「お? 応ッ!!!!」」」」

「メリヤスゥ----ッ!!」

「「「「「ファイッ! オウ! ファイッ! オウ! ファイッ! オ----ウ!!!!」」」」」


 なんか白狼のときと違うアレンジが入ってたから一瞬戸惑ったけど、最後はきれいにまとまって、みんなの心が一つになった&気恥ずかしい感じの高揚感がバッチリだ。


「待たせたな、準備万端だ!」


 念話ではなくあえて大声を出してそう告げると、階層主が控えている部屋の扉がゴトリと鳴り、重い地響きを立てながら左右に開かれていく。ここに来てまさかの引き戸とは。


 引き戸の奥で寝そべっていた存在が、純白の身体をのっそりと起き上がらせる。

 一歩踏み出してきたかと思えば、こちらを鋭く睨みつけながら四肢をしっかりと地につけ、身体を低く倒していく。おそらく、威嚇の態勢だろう。

 そして一瞬の静寂のあと、ゴドルルルルゥヴワガアアアアァァァ!!みたいな咆哮を上げて、のそりのそりとこちらに近寄り始めた。


「あの、失礼かもしれませんが、クリエさん――」

「いや大丈夫。完全に似てるから、この場合は失礼でもなんでもない」

「吠え声もそっくりだったね?」

「えっ? マーティン、オーダーの地声って聞いたことあるの?」

「こないだお邪魔したときにね、オーダーさんが聞かせてくれたんだよ」


 へ? いつの間に? ていうかこないだの帰省でオーダーが地声で怒るようなイベントとか、そんなのが発生するような要素あったっけ?


「弱点も教えてくれたんだよねー?」

「うん。あれは為になったね」


 なるほどつまり? この戦いを見越して、オーダー先生によるドラゴンの倒し方講座みたいなのが開催されてたのか。息子の目を盗んでいつの間に……。


「しかしうちのママの叫び声は山じゅうに轟くはずだが……」

「なんか音を消す魔法って言ってたよー」

「あー……俺のお誕生日フェスで使ってるやつ……」


 聖なる山からズンドコズンドコ不穏な音が鳴り響くとなると近隣のみなさんが不穏に思うだろうということで、俺のお誕生日フェス開催のときには消音というか音を相殺して弱める術式を張り巡らせるのだが、どうやらそれと似たようなことをやったらしい。

 ちなみに術式はオーダーのオリジナルというか、地球知識のヘルムホルツ共鳴を採用している。そう言えばなんかカッコ良さげだが、実際は濃い空気の壁を二層作ったのち、内側の壁だけを穴だらけにして吸音ボード代わりにするという、とても原始もといプリミティブな方式である。それ大魔法でやるようなことか? というツッコミは免れまい。

 しかも術式の方も、どう考えても無駄に緻密なんだよなあ……。


「というわけで、そこまでして俺に隠す理由がわからん……」

「ささやかなサプライズって言ってたね?」

「クリエー、びっくりしたー?」


 したした。お前らが俺に隠し事してたってことにびっくりしたわ。

 なんていうか微妙なサプライズだけど、まあオーダーらしいというか俺らしいというか、誰も困らないし事前にバレても問題ないという点で、悪くないサプライズなのかもしれない。


「ということは、あのオーダーそっくりのドラゴンの攻略法は?」

「ばっちり! 生え変わりそうな鱗を剥がして弱点を作る!」

「そのために持ち替えた戦鎚だよ。任せてもらいたいね」

「お、おう……」


 司令塔クリエさん、存在理由の危機なんですけど。豆鉄砲みたいな火力しかない俺があんな硬そうなの相手に、いったい頭脳労働以外で何をしてればいいんですかね……。


「鱗を剥がしたらクリエの出番だよ?」

「えーと、決め手はオーダーの爪ってこと?」

「うん。それで動きを止めて、仕上げは僕たちだね」

「なるほど了解。仕事があるみたいで安心した」

「というか、序盤から援護してくれていいんだよ?」

「まあやってみる。口とか目とか狙って。目はともかく口中に矢が刺さる気はあんまりしないけど」

「ふむ。そこを確認するいい機会だね?」


 戦闘知識に貪欲というか、ポジティブだなあ……。まあでも他の迷宮のラスボスもこんな感じっていうかドラゴンである可能性が濃厚なので、確かにここで経験値を稼ぐというのは大事かもしれない。

 倒したあと政治的に面倒なことにならなけりゃ、腐るほど周回して経験を積みまくるって手もあるし。


 そうやって自分の仕事を把握して安堵しているのは俺だけで、ミオさんはさっさと俺の前に立ち、ミックさんも素早く白竜の尻尾の方へと回り込んでいく。このふたりもオーダー先生の講座は受けていたらしく、動きによどみがない。

 ミオさんは俺の護衛で、ミックさんは牽制役。本命のアタッカーはマーティン……いや、ディーレかな。


「ところでみんな、竜の息吹(ドラゴンブレス)への対策は?」

「オーダーさんいわく『もし迷宮にドラゴンが現れても、たぶんブレスは使ってこない』ってさ」

「ほーん。無理ゲーになっちゃう試練は用意しないってことか」

「むりげー? よくわかんないけど、越えられる範疇の試練ってことなら、きっとそうなんだろうね」

「じゃあ難易度は激低ってことか。勝てる気しかしなくなってきた」

「ところがですねー」


 そう言いながらミオさんが構えた大盾の表面で、ガイィン!という衝撃音が響く。なんか直前にフヒュッ!みたいな音がして、白竜の方からなんか飛んできた。


「ドラゴンドロップって、唾でも作れるらしいんですよ。で、こうやって飛ばしてくると。なのでわたしがクリエさんの護衛に立ってます」

「えー……16年ぐらい竜の息子やってるのに、初めて知ったんだけどそれ……」


 オーダーのサプライズ、地味に効くな……。もうちょっと息子にいろいろ教えてくれても……って、攻略要素みたいなのは教えるなって言ったの俺だった。

 いやでもなりふり構わないって宣言したんだから、そこはやっぱり教えてくれても……。


「たぶんサプライズが効いてるんでしょうけど、しっかりしてくださいね?」

「お、おう」


 なんだろうなこの、修羅場だっていうのに気が抜けていく一方なこの感じ。あの白竜がオーダーにそっくりなせいで、いまいち緊張感が出ないとかそういうことだろうか。


 まあでも、しっかりしろって言われたんだから、しっかりしないとな。


「見てろ、次に大口開けてドロップを飛ばしてきたら、そんときがてめーの最後だ……!」

「盛大にフラグ立てますねえ」


 弓を引き絞って集中を高めていく俺に、ミオさんの声はもはや届かない。フラグかどうか、しっかり見届けてもらおうじゃねーの。


 フヒュッ!


 ガイィン!


「クリエさん? いま番えてる矢って、ひょっとして二矢めですか?」

「……一矢めです……」

「放てなかった、と。それで、誰の最後って言ってましたっけ?」

「いやだってあいつ! ドロップ飛ばすときに口とか全然!」

「だからしっかりしてくださいって言ったじゃないですか。クリエさん、唾を飛ばすときに大口開けますか?」

「いや、口をすぼめて……あああ!?」

「ですよね。だからドロップを飛ばしてくるときに大口は開けません。おとなしく目を狙っててください」

「はい……」


 やり場のない怒りを矢に乗せて、俺は淡々とブラストアローを放つ。視野の広いドラゴンの隙を突いて目を射抜く芸当なんかできるわけがないが、少しでも気が散ってくれれば儲けものだ。


 ……なるほど確かに、おとなしく目を狙ってるしかないんだな……。すげえ的確に指示出しされてんだな……。


 このまったく調子が出ない感じの戦闘、さっさと終わらねえかなあ……。

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