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 今後のざっくりとした打ち合わせと俺の装備強化の両方に目処が立ち、残り3日ほどの滞在予定中は各自自由行動となった。気が済むまでイクイリウム観光を楽しんで欲しい。山しかないけどな。


 それでもアウトドアに飢えていたらしいロマノフやギルド長は、ヤングバック師匠が猟に出ると聞いて嬉々として同行していった。ひょっとしてあのふたり、冒険者復帰とか目論んでるんだろうか。まあ、老人が適度に運動するのはいいことだろうから、止めはしない。


 残るパーティメンバーとダニーさんという顔ぶれは、とくに何をするというわけでもなく、オーダーの周りでダラダラしてる。その様子を眺めていて、みんなちょっと立ち止まりたいタイミングだったんだろうか、みたいなことを思う。充実した休暇になればいいんだが。


「そういえば雑魚狩り将軍クリエよ」

「未来の神弓クリエ様って呼んで? ドラゴンの爪を手に入れたいま、遠距離スタートのタイマンなら俺様サイッキョだからね?」

「ではチートアイテム依存の神弓クリエよ、強さを手に入れたその先のようなものについて、今はどんなことを思うのだ?」

「俺個人で言うと、とくに何もって感じかなあ。チートアイテム依存ってのはその通りで、アーチャーはやっぱり武器しだいっていうところが大きいから……。もちろん、狙いを定めるのをあと0.1秒速く、弦を引く距離をあと1cm長く、みたいな自分との戦いっていうか研鑽は続くんだけど」


 速さや早さは戦闘の余裕に直結するし、弓に負担をかけすぎない最大距離まで弦を引ければ最大の威力となる。射ち出す強さと矢の安定のバランスがきちんと取れていれば、だけど。矢を射るということが敵へのダメージを期待する行為である限り、その最大効率を求め続けるのは当たり前のことだ。


「ふむ。マーティンとディーレはどうだ? 強さを磨いた先には、何があると思う?」

「それは……その境地になってみないとなんとも。ただ、僕は貴族として、力は民のために振るうものという教えを受けました。しかしそれは、力というものの自然な帰結なのではないかと考えるようになりました」

「マーティン、どういうこと?」

「えっと、自分のために力を使っても、いつか飽きちゃうって言えばいいかな?」

「んー? 強かったらいろんなことができるし、何より自由になれるんじゃないの?」

「うん。でも自由になったその先で、自分のためにやりたいことがなくなっちゃうと思うんだ。誰にも邪魔されずになんでもやりたいことができるって凄いことだけど、それが当たり前のことになると、何をやってもつまらなくなっちゃうんじゃないかなって」

「自分のために……そっか……」


 まあそういうことだよなあ。慎ましくスローライフやってて日々の糧のために獲物を狩るとして、狩りを絶対に成功させられる力があるというのは絶対に便利だ。しかしそれが当たり前にできるというのは、「目の前にあるものを手に取る」ことの延長と言える。手を伸ばして物を掴むだけの行為を「これすっげえ楽しい!」と感じるには、「当たり前のことが当たり前であることへの感謝」みたいな境地が必要だろう。


 そういう当たり前というのは、何かの拍子に当たり前じゃなくなったときにようやく、どれほど素晴らしいものだったのかということを実感するものだが。


 考えがちょっと逸れた。概念Aが最終的には概念Bになるみたいなことだから、つい別の話みたいなとこに飛ぶな。まあ、地上最強を手に入れた勇者とか、かかってくる勇者どもをまったく寄せ付けない最強の魔王とかは、「つまんねえなあ……やることねえし……」ってなってスローライフを始めるって話だ。ソシャゲの課金無双の空しさ、みたいなところにも通じるかもしれない。


 しかしそんな虚無の世界に「他者の事情」が絡んでくると、自分にとって果てしなく無意味だった強さというものが、途端に意味を持ち始める。


 力があれば、自分より弱い者たちの助けになることができる。散る命を救うことや、障害を取り除いてやることができる。強者の性格しだいでは、自分の強さに憧れる者からの羨望の視線が気持ち良かったりもするだろう。


 俺としても課金無双に興味はないけど、羨望されたい気持ちはよくわかる。強さの半分が実家パワーとチートアイテムでできてる身としてはとくに、自分の実力そのものを褒められたいという欲求が強いかもしれん。


「僕は何よりもディーレを守りたいし、クリエやパーティのみんな、領民、家族、そういった自分にとって大切なものを守りたい。僕にとって強さや力っていうのは、他の人のために使うことで最大の意味を発揮するって感じかな」

「その気持、わかる! あたしもマーティンを守りたいし、クリエたちを守りたい!」


 その「守りたい」が自分のエゴなのか、他者に求められたら力を行使するのかっていうとこで話が微妙に変わってくるんだが、こいつらはたぶんそういう心配はないんだろうな。「他者のために」力を行使するだろう確信があるし、そこはエゴとも両立できるんだし。


「わたしは……自分のために、ですかねえ。誰かの命を拾い上げたその先に何があるのか、そういうのを考えるのには疲れちゃいました」

「ふむ。他者のために力を行使するという点において、癒やしの力と殺す力は表裏一体であるからな。ミオのように考えるなら、すべてはエゴのためにとも言えよう」

「もともと他者のためにあるような力だからこそ、結局は自分のことだなっていう考えになりやすいんだとは思いますけど」

「なるほど……。僕の戦う力にしても、誰かのために力を振るえば、それは救う力ってことになるんだね……」

「結局のところどんな力を持っていても、まずは自分の大切な人のために、というのだけは変わらない気がしますね?」


 まあ、そういうことだよなあ。全能の神様でもない限りどれほどの力を持っていようと、その力が及ぶ範囲を少しずつ、自分が納得できるレベルで広げていくことしかできない。それは力の強弱や大小に関わらずだ。


「強さを手に入れたその先には、愛すべき隣人がいたっていうのは面白いね? 強さのために隣人や愛を切り捨てた場合、その人はたどり着いたその果てで、いったい何を見るんだろうね――」


 動機が違いすぎて想像もつかんが、果たして何を見るんだろうか。そこまでして強さや力を渇望した人は、その願いを叶えた先でどうなってしまうんだろうか。


 せめてそれが「こんな……こんなもののために俺は……」っていう絶望や後悔じゃないことを祈る。





「そういえばミオさん」

「はい、なんでしょう?」

「さっきの話に戻るのかもしれないけどさ、なんで当時のミオさんは、うちらのパーティを手伝おうっていう気になったの?」

「ああ、それはモロにさっきの話ですね。わたしがひとりひとりを選んで誰かを助けるのはしんどいので、そういうのをなるべく間違わなそうな人を見つけて、その人が死なないようにしようって思ったんですよ」

「なるほど?」

「言ったじゃないですか。クリエさんは冒険者たちが無駄死にしないように頑張ってるって。それって極論すれば『わたしが力を使わなくてもいい世界』に近づくってことですよね?」

「な、なるほど? そこまでのスケールで考えてないけど」

「世界平和が本当に、ほんっとうに実現すれば、核兵器なんかいらないじゃないって感じですねー」

「ああ、絶対に実現しないやつだ」

「たとえですよ。た・と・え。そんなわけでクリエさんみたいな人さえ生かしておけば、わたしが頑張らなくても人が死ななくなりますし、クリエさんが間違ったとしてもわたしへの直接的なダメージは軽減されますから、損よりは得のほうが多そうないいアイデアかなと」


 すげードライな発想だった。効率厨かよ。


「効率厨的な視点でも、まず隣人から助けるって感じになるのか……」

「しっかりした隣人選びから始めないとものすごく効率が悪くなるっていうところは、この方法の難点ですね。クリエさんが何も考えてない人だったらわたしの闇が深くなるところでしたが、結果的にはわたしも救ってもらえることになったので、いろいろすっごく感謝してるんですよ?」

「そっかー。じゃあ俺が死なないように、ぜひ頑張っていただきたい」

「それはもう、命に換えても」


 そう言いながら微笑するミオさんの顔に、「前世でクリエさんがそうしてくれましたからね」って書いてあるもんだから、思わず冷や汗が流れる。


「前世ではすいませんでしたごめんなさい二度とやりませんだから命に換えないでくださいお願いします」

「聞けませんね。ああいうのばっかりは自制できるもんじゃないっていうのは、わたしもきっとそうですから。後先考えずに思わず取った行動で死んじゃうのって、たぶん普通のことなんですよ」

「し、死生観が深い……」

「ダテに2回死んでませんから」


 それ言われるとすげー説得力ある気がするけど、死んだ自慢って「ふんすー」って感じですることかな……。


「結局のところ武力的な強さっていうのも、まず隣人を『絶対に』守れるところからっていう、そこを目指すことになるんかなあ」

「そうなるとやっぱり、いつまでも強さを追い求め続けることになりそうだね」

「だよなあ。もうこのへんでいいやと思ってたら実力不足で、大切な人を守れませんでしたーってなるのは悲惨だ」

「そうは言っても相手もあることですから。わたしだってクリエさんが不治の病とかになったら救えませんよ?」

「まあ、そんな感じで『これはしょうがない』と思えるかどうかなんじゃないの?」

「人の命に関しては、どうしたっていつかは喪うものですからね。だからってわたしが割り切れたかというと――」


 割り切れはしないよなあ。でも、誰だっていつか死んじゃうのも真実だ。


 いつかどこかでそいつが死ぬときに、本人も周りも「天命だった」と納得できれば、死っていうのは気楽なもんかもしれないけど。


 ああ、死んだやつは転生してどこかで生きてるって考える手もあるか。輪廻転生の概念を思いついたヒンドゥー教とか仏教とか古代ギリシアの人たちって、マジもんの天才だったんだな。

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