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06

 ギルド長も交えた有意義な打ち合わせ(だったことを祈る)が終わった翌日、ディーレさんのヘルパー業務に向かうマーティンにくっついて行って、ディーレさんをパーティに勧誘することにした。


 快諾を貰えたらそのまんま迷宮に潜って軽くパーティの連携を合わせて、あわよくば第3階層の攻略を終わらせる目論見だ。


「パーティ……ですか……。いいですよ……?」

「おおう、あっさり決まった」

「クリエさんはいい人って……マーティンから、聞いたから……」

「うちのマーティンを信頼してくださいまして、誠にありがとうございます。今後とも末永く仲良くしてやってください」


 いちおう自重はしたけど、やっぱりこの程度のお節介は焼いちゃうよなあ。微妙な表情になって困ってるマーティンを眺めるのも楽しいし。


「わかった……。でも、クリエさんも……ミックさんも、あたしと……仲良くして?」

「ん? そりゃあ当然」

「俺もか? 構わんが……」

「じゃあ……呼び捨て……いい?」

「ほいほい、ディーレ」

「よろしく頼む。ディーレ」

「ん……。クリエ、ミック……よろしくね……」


 おお、これが「花が咲くような……いや、咲き誇るような、だね」ってマーティンが言ってた、ディーレの笑顔か。確かにとんでもない美少女だな。こんな子連れてたらそのうち「おいおい、ガキどもにはもったいねえかわいこちゃんじゃねえか。そんな奴ら放っといて俺らとパーティ組もうぜ」っていう定番のアレが発生するんじゃなかろうか。


 いや発生せんな。そもそもメリヤスでそんな感じの口調のやつ、ガルフかギルド長しか見たことないし。別パターンだと「フッ……キミはこのボクにこそ相応しい」っていう貴族系冒険者になるけど、冒険者やってるような酔狂な貴族も目の前にいるやつしか知らん。しかも全然タイプが違うし。


「それじゃあ今日はパーティの連携を確認しつつ、問題なければ第3階層の攻略を終わらせよう」


 人目はないものの念の為に声を落としてそう伝えると、マーティンとミックさんがほんの少しだけ驚いた様子を見せたが、すぐに「了解」と返してきた。第3階層の探索はディーレを除いた3人ですでに進めていて、あとは階層主を倒すだけという段階まで来ていたのだが、それもミックさんが同行してくれてる時点でいつでも攻略可能だという目処が立っていた。


 つまり延び延びになっていた予定をようやく終わらせるというだけなのだが、マーティンとミックさんにとって驚きだったのは、今日が初顔合わせになるディーレを加えたパーティですぐに挑むという点についてだけだろう。そして即座に2人とも「問題なし」と判断したということだ。


「階層主……つよい?」

「いや、たぶん弱い」

「そうだね。強くはなさそうだ」

「……俺らのときは十分に強かったが?」


 なんかパーティの心がひとつになってない気がしたけど、とくに問題はない。



 道中に関しては、第1階層は俺とミックさん、第2階層はマーティンとディーレがメインで戦うということにした。マーティンに教わっている剣の実践練習をするついでに、ディーレの体質についても確認しておこうという算段だ。


 ダニーさんから聞いた話では、クレアさんは迷宮内のマナに触れているだけでコンディションを保てていたとのこと。ハーフであるディーレさんも同じ体質なのか、生粋の魔族とは違って迷宮のマナだけでは足りず、瘴気を多めに浴びなければならないのか、という疑問がある。


 人族の領域に瘴気溜まりが作られ、魔物の発生源になる理屈については、一緒に住んでいた頃にオーダーから教わった。生物が死を迎える際には、その生物を構成していたマナの一部が変質して瘴気化する。ゆえに凄惨な戦いが繰り広げられた古戦場にはスケルトンが湧き、天然の毒ガスが噴き出す死の渓谷の周辺では魔物や魔獣が大量に発生するのだと。


『つまり、魔族が人族の領地に侵攻する際に必ずと言っていいほど大量の魔物を尖兵にしてなだれ込んでくるのは、それらの屍によって瘴気の道を作るためなのだ。さらには、強烈な負の感情に取り憑かれ続けることでもマナは濁るゆえ、戦争というのは人族よりも魔族が恩恵を受けやすい環境とも言える』


 陰陽道に「穢れ」の概念があり、「嫉妬に狂った女性が般若になる」という伝承すらある日本人としては、オーダーのこの説明はとてもわかりやすかった。魔族=般若というわけではなく、人族が憎悪や嫉妬や怒りといった悪感情を持つと、周囲のマナが変質しやすくなるということだ。


 頭の隅っこでそんなことをずっと考えつつ戦ってたら、2体目のゴブリンをうまいこと斬れずに手数がかかり、3体目のゴブリンを捌きそこねた。


「――ミックさん、助けてええええええ」

「もう助けた……奥の2体に気をつけろ」


 右腕にもたれかかってきて絶命しやがったゴブ2号をゴブ5号に向かって蹴り飛ばしつつ、4号が打ち込んできた短剣を左腕のバックラーで流す。第1階層限定の俺の近接スタイルは、師匠のマーティンに倣う一撃必殺の長剣ではなく、ショートソードとバックラーという安定スタイル。そもそもそれほど近接慣れしていないので、この機会にじっくり時間をかけて戦い、近接戦闘の勘を養おうという魂胆だ。


 しかし悲しいかな、ショートソードというのは本当に低火力で、しっかりと刃筋を立てないとゴブリンを斬り飛ばすにも苦労する。だいたい予定通りのフォームで繰り出せる初撃で1体目の首を落としても、2体目からはアクシデントの連続で、思い通りに剣を振るえることなんかほとんどない。


 当然、ショートソードは選りすぐりの償還品で切れ味は抜群だし、バックラーだって償還品だ。スレイヤーだとか回復効果とか、そういうスペシャルなのは一切ついてなさそうだけど。


 そういうわけで道具には文句が付けられず、純粋に俺の腕がどうしようもない。今だってゴブ1号を瞬殺したのち2号の首も欲張ってみたら刃筋が乱れてショートソードが食い込んでしまい、慌てて抜いた挙げ句に打つ手に困って胸を突いたものの(すなわち魔石が砕けて回収できない)、再び剣を抜くのに手間取ってKONOZAMAだ。


 自戒を込めてゴブ4号はパリィしたところで後ろに回って足を斬り飛ばす安定策で放置しておいて、その隙に5号としっかり3回打ち合ってから首を飛ばし、動きの取れない4号を仕留めて一件落着。3号? ミックさんが投げナイフで瞬殺したので俺は知らん。


「ミックさん、助かりました~」

「……構わん。そのために俺がいる」


 黙々と魔石回収をしてくれているミックさんに感謝すると、毎度ながらのイケメンな返事。ミックさんのカバーに期待して欲張った立ち回りに挑戦してるのは事実だが、俺の動きをよく見て的確にカバーしてくれるっていうのが、簡単なことだとも思わない。ありがてえ、ありがてえ……。


「クリエは、そんなに強くないの?」


 ミック神に感謝の祈りを捧げてたら、髪の毛と瞳がかなり紫がかってきたディーレが直球をぶっ込んできた。


「んー、総合的に見て、マーティンほど強くはないかなー。とりあえず今は近接の特訓中」

「えー? マーティンより全然弱っちいけど」

「ディ、ディーレ。クリエはもともと猟師で、弓のほうが得意なんだよ」

「そうなんだ? なんで弓を使わないの?」

「当面の目標のために、できることを増やしたくて。あとはマーティン説明頼む」

「任されたよ。ディーレ、こっちにおいで」


 そのへんの事情がわかっているゆえの苦笑を向けてくるミックさんと視線が合い、苦笑で応える。償還武器を検証する手が足りないから、アーチャーがザコ相手なら近接で戦えるように練習してます、とか普通は思わんもんな。


 しかしディーレの物言いがド直球だってのは、マーティンから教えてもらっといて大正解だったな。脊髄反射で2回ぐらい「あ"!?」って言いそうになったわ。あのアマほんま……。



 全幅の信頼を置けるミックさんやマーティンにカバーしてもらっていても、そこそこ命の危険に直面しつつ近接武器で戦うのは、本当にストレスフルだ。しかしそれもここまで。階層主部屋の前で弓に持ち換えた瞬間に、これまでの道中で溜まりに溜まったストレスを解消する最上の手段が与えられる。


(アラシシだったら最高威力のブラストアローに熱のエンチャントも加えて、射抜いた矢が反対側の壁に突き立つぐらいの勢いで瞬殺してやる……!)


 そう考えて昂り切った俺の前に現れたのは、3体の迷宮狼。ダルい。これはダルい。


 とりあえず右手に魔石は握り込んでしまったので、群れのリーダーと見た一回り身体が大きい個体を、せめてもの憂さ晴らしにブラストアローでオーバーキルしたのち、リーダーの不在に一瞬戸惑った2体のうち右側のものを射抜く。


 そして3体目の狼は、もう俺に向かって飛びかかってきてるんだよなあ……。こいつらこれだからダルいんだよ! 俺は3射するのに10秒かかるの! これでもすっごく速いの! でも猛り狂った狼が40mぐらいの距離を詰めてくるのに、5秒もかからないから弓との相性は最悪なの!


 バックラーで「防具スゲー」と味をしめてから愛用し始めた、迷宮アラシシ皮のアームガードを狼の口に突っ込んで、素早く魔石を握り込んだ右手を狼の頭に叩きつける。たぶん警察犬の調教師みたいな絵ヅラになってるんだろうなと思いつつ、右手と狼の頭の間の空間に風の爆発を起こして狼を吹き飛ばした。


 すでに致命傷を与えた感触があったが、念の為に矢をつがえて頭を射ち抜く。


「……狼を射るのが、本当に上手くなったな……」

「あれは初めて人殺しに加担したショックで、狙いが定まらなかっただけですからね……」


 ミックさんと初めて遭った日に、フォレストウルフをうまく射てなかったのはしばらくトラウマだったけど、すっかり解消できたもんだと思ってた。それがまさか、再び呼び起こされてしまうとは……!


 階層主でストレス発散どころか、別のストレスも積み上げられてしまったので、八つ当たりで第2階層で最初に出会ったトロル3体を50m離れたとこから瞬殺してやった。


 マーティンから事情を聞いたらしいディーレが「凄い! クリエ、ほんとに凄い!」って大はしゃぎしてて、それでだいぶ溜飲が下がったのは嬉しい誤算だった。


 仲間ってイイモノダナー。

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