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説明パートです。ちゃんとラノベ知識でフラグを潰してるアピールですが、読み飛ばしても今後にそれほど影響ないと思います。

 ゴーレムの討伐成功から1週間が経ち、俺とマーティンはめでたくCランク冒険者に昇格しているのだが、その後迷宮探索は行っていない。俺たちの戦いを再開しようにも、その前にまず立ち止まって整理しておくべき事が多すぎるのだ。


 第2階層から帰還したその日のうちに、マーティンはさっさと定宿を引き払って我が家に引っ越してきた。それから毎日、俺がマーティンに精霊魔法を指南し、マーティンが俺に剣を教えて午前が終わり、ロマノフを交えて今後の指針について話し合っていると午後が終わる。何をダラダラと話していればこんなにも時間がかかるのかというと――。


「そもそも迷宮ってなんだと思う?」

「迷宮は迷宮でしょ? 質問の意図を絞ってくれないとわかんないよ」

「人類がいつか攻略すべきもの……ですかな?」


 ――というところから確認していく必要があるからだ。迷宮が何者かの意図によって作られているのは明白なのだが、わざわざ攻略できる余地が与えられている理由がさっぱりだ。最深部に「何か」があるとして、それを手に入れるためになぜ試練を課すのか、なぜ無償で与えないのかというのがわからない。


 考えたところで迷宮の製作者が「正解!」と教えてくれるわけでもないだろうから、結局の所は推測をもとにその意図を汲み取るしかない。だが少なくとも、「試練を与えられるのだから最深部には素晴らしい褒美が待っているに違いない」などというのが楽天的な想像だということぐらいは理解しておく必要があるだろう。


 個人的には確信に近い思いがなくもない。俺みたいな「転生したら冒険者一択!」みたいなのがわざわざ転生させられてて、まんまと冒険者になって迷宮のカラクリに挑んでるっていうことは、たぶんそういうことなんだろう。もしくは、転生者の知識で開拓できることは迷宮以外にもたくさんあって(実際いくつも思い当たる)、それらのどれでもいいから進歩させることが転生者である俺の「使命」なんじゃないかなと。


 なのでたぶん、迷宮の攻略は成し遂げていいんだろう。最深部にある「何か」がこの世界にとって益になるのか害になるのかはわからないが、その「何か」を掘り起こすことは俺を転生させた存在にとっての予定調和であるはずだ。


 しかし害であったときに、ここにいるロマノフやマーティン、ギルド長やサラさんやガルフや冒険者の人たち、学園で共に過ごした仲間たちなど、そういったものを喪うのは許容できない。


 だから問うし、話し合う。決していいことばかりじゃないかもしれないが、一緒に決めて、一緒に覚悟してくれという想いを込めて。



 たとえ迷宮攻略が繁栄をもたらす素晴らしいものだったとしても、それはそれで問題がいくらでも出てくるというのがまた面倒だ。利が生まれれば欲も生まれるという、人の業についての保険はどれだけかけておいても決して足りることがないんだろう。


「迷宮が無限の資源庫であり、今ほどの危険を冒さずにそれらの資源を持ち帰れるようになったとすると、いったいどのようなことになるでしょうか? はい、マーティンくん答えて」

「国の繁栄につながるね。でも、まずはその迷宮の直近の街が、王都以上の力を持ってしまうから……」

「そうならないように国がコントロールする必要があるが、果たしてそれだけで安定するんだろうか? ロマノフだったらどう思う?」

「迷宮攻略が繁栄をもたらすと約束されるなら、攻略を成し遂げた他国が自国よりも発展しているかを逐一探らねばなりませんな。迷宮攻略がうまくいかない国にもまた、油断をするわけにはいかないでしょう。外交で技術提供を求めてくるならまだしも、自国の冒険者を派遣し、有用な償還品を自国の迷宮攻略に役立てるために持ち出すなどといったことも考えられます」


 とまあ、迷宮攻略が国の繁栄に寄与するということになれば、ことは自国だけでなく、他国も巻き込んで政治問題に発展する可能性が否めない。自国の繁栄のために迷宮攻略のノウハウを秘匿するのか、有用な償還品が他の迷宮でも効果を発揮するとして、それらが国外に流出するのを許容するのかなど、事が起きる前にシミュレーションしておいたほうがいいことはいくらでもある。


 そういう場合にまず守るべきは、冒険者ギルドの独立性だ。餅は餅屋という言葉があるが、冒険者たちと肌感覚を共有していないような国の宰相あたりに迷宮に関するコントロールを任せると、目先の利のために冒険者たちが犠牲になるようなことが多々あるのでは、という懸念が拭えない。


 例えばマーティンがその効果を実証したゴーレムスレイヤーのように、迷宮探索の切り札になるような償還品の存在が冒険者ギルド以外に知られるというのも厄介だ。それほど便利なものがあるなら、国で徴収して騎士団に与えて迷宮を攻略すればいいではないか、といった短絡的なことを言い始める貴族が絶対いるってラノベで習った。


 俺とマーティンが中心になってメリヤスの迷宮を攻略するのは決定事項として、その際に得られた迷宮や償還品に関する知識や情報をどう取り扱うのか。どこまでの情報をどれだけの範囲にまでフィードバックするのかといったことは、他の冒険者たちに重大な影響を与える可能性が高いだけに、慎重に考えておかなければならない。


 当面のところは俺らが最終階層を踏破するまでは秘匿しておくつもりだが、貴重なCランク以上の冒険者の死亡数が急増するなどの不測の事態が起きた場合には、いくつかの特効装備(スレイヤー)の存在を公開し、ランク制限付きで入手できるように手配することになっている。



 そして何よりも頭が痛いのは、迷宮攻略に限らずこの世界を大きく発展させるであろう、マナの究明に関してだ。推測はいくつも立てていて実証できたものもいくらかあるが、迂闊にこの知識を広めてそれをきっかけに魔法が急激に発展などといったことがあると、いったい何が起きるのかがまったく想像できない。


 これは「悪い想像がたくさんできすぎて、そのうちのどれになるのかがわからない」という意味だ。


 というのも、精霊魔法に限っては精霊に好かれないと始まらないので向き不向きがあるものの、この世界の人たちは無自覚なだけで誰もが魔法を使える可能性が高い。魔法とはマナに干渉して現象を起こす技術であり、オーダーが無詠唱でも大丈夫と言っていたように、それに適した明確なイメージを持つことさえできれば、誰にでも発動できるのだ。


 誰もが存在を知っているのに、現状で誰もが使えるようになっていない理由についてはまだ確信が持てていないのだが、おそらくは体内からマナを取り出し、現象を起こすための材料にするための「やり方」が知られていないのだろうと思っている。マナは誰もが持っているものだが、これを認識して出し入れしたり流れを作ったりというのは、なんとも説明しづらい感覚が必要なのだ。


 例えるなら、耳をピクピク動かせるかどうか。動物の多くは耳を動かす筋肉を持ち、人間にもその筋肉はあるのだが、大きく退化しているためにふつうは意識してこの筋肉を使えない。そういうものに近い。


 そしてマッチョな人なら誰でもできると言われる胸筋ピクピクは、ある程度まで筋力をつけると自然に「こうかな?」という感覚で動かせるようになるもので、マナの操作も感覚的にはそれに近い。マナを扱う謎の器官だか感覚だかをこの世界の人間は備えているのだが、その力を認識してコントロールできるようになるには、いわゆる才能や外的な補助が必要なのだと推測している。


 そんな世界でマナへの理解が進み、誰もが気軽に魔法を使えるようになれば、魔法の技術は急速な進歩を遂げるだろう。しかしその過程において、魔法による暴力犯罪は必ず多発する。許可証もなく誰もが銃を所持できる社会がどのようになるのかは、全米なんちゃら協会で学習済みだ。協会名がいまいち思い出せないが、いったい何フル協会だったっけな……。


 ゆえにマナの本質と魔法についての知識もまた、秘匿されるのが望ましい。しかし償還品を頼りに迷宮攻略を効率化するのであれば、マナの特性を理解して精度の高い鑑定を行う必要がある。それは俺がやっている鑑定もどきなんかよりも、さらに進歩したものであるべきだ。「あとは迷宮で使ってみないとわからない」ではお話にならないのだ。


 とはいえ現状だと他にやりようがないから、マーティンもロマノフも巻き込んであらゆる償還品を迷宮で死ぬほど使い倒して「鑑定」する予定だけど。想像するだけで苦行すぎて気が滅入る。



「こうやって話すたんびに思うんだけどさ、クリエが凄い発見をしたあとすぐに『その先のこと』について見越してるのって、やっぱり【竜の知恵】なの?」

「んー、乱暴に言うとそうかな。世界の理についてオーダーが大雑把に教えてくれて、あとは修行したり冒険者やったりしてる間に自分で考えた的な?」


 前世の40年とラノベでいっぱい勉強したからなんだけど、俺の知識はそっくりオーダーにも受け継がれてるので、そういう前世補正もまとめて【竜の知恵】ということにしている。嘘は言ってない。いつかは転生についても明かすつもりだけど、それにはもう少しだけ時間が必要かな。


「なるほど……やっぱりクリエは凄いな」

「それなー、たしかに知識に関しては自覚があるんだけど、マーティンがそれを言い始めた頃って、俺まだ竜の子だってバレてなかったよね?」

「たぶんそういうことじゃなくて……分かる人には分かる、っていうのかな……。勝手な想像かもしれないけど、ひょっとするとサラさんも、クリエのそういうところに惹かれてるんじゃない?」


 まあ、言いたいことはわからんでもない。カンのいいきみらが察しているのは、実年齢55歳ならではの落ち着きというか年輪というか、そういう特殊な雰囲気のことなんでしょうね……。


 しかし、サラさんか。サラさんなあ……。今後は冒険者ギルドと手を組んでコソコソやっていくことを考えると、彼女にある程度の事情は説明しといたほうがいいかもなあ。隠しとくとなんかのきっかけで勘付かれて、興味本位でストーキングでもされた挙げ句に公にできない何かがバレて、慌てて口止めしなきゃいけない未来が目に浮かぶ。


 ラノベ読んでて「めんどくさそうなフラグは徹底的に潰しとけばいいのに」とか思ってたけど、実際にやるとなるとけっこうしんどいもんだな……。

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