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少し短いです。駆け足で投稿したので誤字も多いかもしれませんがご容赦を。読み直してあんまり荒いようなら、そのうち書き直すかもしれません。
マーティンとお互いの健闘をねぎらって拳を合わせていたら、ギルド長が駆け寄ってきた。
「おう、クリエ。早く償還品を取らねえと!」
そう言いながらゴーレムの残骸へと引っ張っていかれる。ん? マーティンがほじくりだした魔石みたいなのならここにあるけど、この中に魔石が入ってるとかそういうことじゃないの?
何を言われてるのかさっぱりわからないという表情で目を合わせたら、ギルド長は大きなため息をついて大斧でゴーレムの頭部?を指し示した。
「アレを砕くんだよ。半分ぐらいが空洞になってて、アタリなら償還品が入ってる」
マジか。初手からゴーレム殺しで頭を吹き飛ばさなくて良かった。いやその場合はふっ飛ばされた召喚品が部屋のどこかに転がるだけで、別に大した問題はないか。どうせゴーレムを倒し終わるまで、落ち着いて償還品の吟味なんかできやしない。
試しに頭の端の方を狙ってゴーレム殺しを射ち込んでみると、ぽっかりと空いた穴の中から腕輪が顔を出してた。裏返した革袋に手袋のように手を突っ込んで、直に触らないようにして腕輪を回収する。革袋越しでもビンビン伝わってくるヤバい雰囲気に、思わず全身が総毛立った。腕輪の周囲のマナの流れがめちゃくちゃだ。
(なんじゃこりゃ!? 呪われ品だとしたら、エグいレベルの呪いなんじゃないか!?)
俺の表情が強張ったのに気づいたらしく、マーティンが苦笑している。そりゃまあ笑うしかないよなあ。記念すべき初回討伐の報酬がコレって……。しかしまあゴミかどうかは持ち帰って鑑定してみるまでわからないし、アホほど強力な呪われ品なら、そのうちいつかろくでもない使いみちがあるかもしれない。
ギルド長いわく、ゴーレムを倒しても魔石のドロップはないそうだ。胴体の中央にある魔石みたいなやつは「核」とか「弱点」とか呼ばれてて、やはり普通はそこを砕いて倒すのだと。
マーティンがほじくり出してきたやつ、どうすっかな。記念に飾っとこうか……。
第2階層の階層主部屋からは転移陣で入り口まで帰還できるが、せっかくだからもう少しだけ居残って祝勝会に興じようとギルド長が提案してきた。階層主が討伐されてから半日の間は階層主部屋の扉が閉ざされるので、伝説の冒険者と新人冒険者たちという異様な顔ぶれでの宴を他の冒険者に見咎められることもない。
ようやく肩の荷を下ろせただろうギルド長とロマノフの心情を思えば、さっさと街に帰ろうぜなどと言えるわけもなく。俺とマーティンも快諾して宴が始まる。ギルド長もロマノフも、ちゃっかり酒を持ち込んでやがったのには驚いたが、俺たちがゴーレムを倒せると確信してくれていたのだと思えば悪い気はしない。
せっかくの機会なので、俺としては確信に近いことを訊いてみる。
「ロマノフ、ギルド長――肩の荷は下ろせそう?」
ずっと一緒に暮らしてきたロマノフにすらはっきりと訊けなかったことなので、やっぱり曖昧な訊き方になってしまったが、俺の問いに破顔する伝説の冒険者コンビを見て安堵の思いが湧く。
「おう、想像以上だったぜ。一階層の戦いぶりだけでも、俺らの時代とはまったくレベルが違うってのを思い知らされてたが……まさかゴーレムをあんなふうに倒しちまうとは……」
「わたくしはこの日が来るのを疑っておりませんでしたが、思ったより早かったというのは嬉しくもあり、寂しくもありますね」
「寂しいというのはクリエの師匠として、ですか?」
師弟の機微についてマーティンが問う。そのあたりに気が回るということは、自分も誰かに師事していたことがあるんだろうか。さすがにあるよな? 才能だけでこの強さっていうのはさすがに……。でも天才マーティンだもんなあ。独学でこの強さってのも十分あり得そうだから困る。
「まさしく。わたくしごときがクリエ様の師でい続けられるとは思っておりませんでしたが、できればもう少しだけ、成長を見守っていたかったというのが本音でございます」
潔癖なロマノフらしい考えだけど、そういうもんじゃないと思うんだよなあ。
「ロマノフさん。弟子にとって、師はいつまでも師ですよ。ね? クリエ?」
「お、おう」
俺が言うまでもなくマーティンがまとめてくれるのかと思ったら、きっちりこっちに話を振ってきた。なんという気配り。なんという潤滑油プレー。如才ないっていうのはこういうことを言うんだろうなあ。
「俺にとってロマノフはずっと師匠だし、弟子が超えていったからって師匠が見守ってちゃいけないわけでもないでしょ。そもそもあの屋敷、ロマノフ込みで買おうと思ってるし」
「マジか? こいつが住み着いてるあの不良物件を買ってくれんのか? ギルドとしては大歓迎だぞ」
「えっ? クリエはあのお屋敷を買おうと思ってるの?」
「まあ、マーティンが協力してくれるなら、だけど。ていうか一緒に買って住まない?」
「あ、それはいいアイデアだね」
どさくさに紛れてパーティ継続の確約と屋敷の共同購入を持ちかけてみたら、あっさり承諾してくれるマーティン。これが運命力ってやつか……!
「ていうかギルド長、なんなら買う前からマーティンを一緒に住ませたいんだけど、そういうの大丈夫?」
「おお、構わん構わん。ヘルパー見習いってことでギルドの職員扱いにしちまえばいいだろ」
トントン拍子で話が進む。いい機会だから今後についてもいろいろ相談しとこうか。
「んじゃ屋敷の購入にも関わる話なんだけど、さっきのゴーレム戦のマーティンのアレの説明を」
「おお、教えていただけるのですか。あれはマーティン様の特殊な技量なのですか?」
「マーティンだからできたとも言えるけど、正確にはマーティンと武器の両方だな」
ゴーレムとの戦いでマーティンが使った、土精霊が寄り付きたがらない【ゴーレムスレイヤー】と呼ぶべき長剣の話をきっかけに、俺の独学の鑑定による償還品の効果の見立てについて話すうちに、ロマノフとギルド長の表情がどんどん真剣なものへと変わっていく。
自分たちが現役のときに見落としていた償還装備の可能性を今さら知るのはきついだろうけど、その当時の償還品の認識が「その程度」だったのは仕方のないことだ。当時最強だったロマノフたちが第5層以降の攻略を断念して以来、20年以上も償還品が持つポテンシャルが発見されなかったのは、いくつかの不運と怠慢が積み重なった結果だろう。
「――これも俺の推測に過ぎないんだけど、おそらくこの迷宮は手強すぎるんだよ。第2階層に降りた途端に、地上ではなかなかお目にかかれないトロルやオーガと戦う羽目になって、しかもそれらの魔物は迷宮の力を得ているから地上にいるものより遥かに手強い」
「なるほど。そのせいで早々に冒険者が間引きされちまうから、償還品の真の効果にも気づきにくくなるってことか……」
「俺が自己流で鑑定ができるようになったのも、精霊魔法が使えるからというのが大きかったし。あとはまあ、ロマノフが知ってる通りに『竜の子』だから。この世界の理に詳しいっていうのもある」
「ちょ、クリエ! 竜の子って!?」
「えーと、そのまんまの意味。俺ね、お母さんがドラゴンで、いろんなことを教えてもらって育ったの」
「「は!?」」
ギルド長とマーティンがハモる図ってのもなかなかないかもしれないな。あとロマノフ、ようやくこのネタで喋れる同志ができて嬉しいみたいな顔するな。
「まあマーティンはそのうち実家に招待するよ。休みが取れるならギルド長も来ていいけど」
「「絶対だよ(だぞ)!?」」
場がちょっとカオスになったけど、どうにか今後の金策と償還品の検証のために迷宮に潜りまくるっていうことと、その成果をギルドにこっそり買い取ってもらう段取りをつけた。俺達の戦いはこれからだ。
このへんまでが2章の中盤という予定でしたが、すっかり予想以上の分量になりましたので、章立てを見直して2章の終盤とすることにしました。もとの章タイトルがぼんやりしてたのであんまり心配していませんが、もしも混乱させてしまいましたらごめんなさい。
そんな感じで成り行き任せでもって、一切の告知もせず、ただ書いては投稿しているだけのお話ですが、見つけてブクマ&評価をしてくださっている方々、いつもありがとうございます。




