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 ロマノフがギルド長との折衝に出向くのと、伝説の冒険者が探索に復帰(1日だけだが)するのは見られたくないということで、第2階層の攻略は深夜からこっそりと、ロマノフがギルド長との話をまとめてから行うことになった。マーティンと2人で2階層を攻略してみせるという俺の言い分を完全に信じてくれたロマノフだが、それでも階層主戦には万が一があるということで、現役時代の装備に身を固めて合流してきたのは予定通り。


 そこにまさか、ギルド長まで同行するとは思ってなかった。ロマノフと同じぐらいの歳と聞いていたので60歳は超えているはずだが、その歳でよくそんな大斧担げるな。それほど背が高くないのに筋肉ムッキムキなのに加えて白髪白髯ということで、見た目完全にアレだ、斧担いでるタイプのドワーフ戦士。あと前々から思ってたんだけど、ガルフとキャラが被ってる気がする。


「おう、クリエ。面白いもんを見せてくれるって聞いたから期待してるぜ」


 お前には言ってねえよ耄碌じじい、という言葉をぐっと飲み込む。イジり倒したくなるタイプのおっさんなんだが、10歳児の無理な相談を聞き届けてこの5年間なにかと良くしてくれた恩人なので、ついつい敬意を払ってしまう。


「任せてくださいギルド長。退屈させませんよ。このマーティンが」

「僕!?」


 いやまあ今日の主役は高確率でお前だし。もちろん俺もサポートするけど、ブラインドショットとか超地味だからロマノフはともかく脳筋にしか見えないギルド長とか凄さに気づいてくれなさそうだし。


 せめて第1階層の階層主がスケルトンの群れとかだと俺にも見せ場があるんだけど。なんなら昨日のアラシシでも可。



 償還品の長剣に持ち換えたマーティンの慣らしを兼ねて、第1階層の魔物はほとんどマーティンひとりに任せて進む。今回の目的は第2階層の階層主戦だから、素材のことは気にせず倒していいぞと伝えたら、一刀両断の殺戮マシーンと化しててわろた。それを見てロマノフとギルド長が「むぅ……」とか「おお……」とか言ってるけど、この子まだ冒険者になって3日目で、第1階層の魔物と戦うのはまだ2回目なんざますわよ奥様方。


「マーティン、剣の調子はどう?」

「悪くないね。というか前の剣よりも切れ味は確実にいい。違和感みたいなものもとくにないよ」

「おお、それはよかった。となるとますますアタリかな」

「うん?」


 うっかり思わせぶりなことを言ったせいでマーティンが困惑してるけど、ヘタに先入観を持たせると俺の予想が思いっきりハズレだった場合に問題が起きそうなので、ごめんちょっと言い間違えた的な顔で誤魔化しておいた。


(マーティンの主人公力が自重してなければ、たぶんあの長剣っていわゆる【ゴーレムスレイヤー】なんだよなあ……)


 初日にマーティンと反省会をしたときに、「お前が運命の相手か」って言ったのには訳がある。この迷宮の階層主はランダムポップが基本なのだが、第2階層と第3階層に限っては、初見の際に出現する魔物が「ほぼ」決まっているのだ。それは第2階層だとゴーレムで、第3階層ではゴブリンアーチャーとハイオーガの混成パーティということになっている。


 ちなみに第4階層は純白の巨大な狼で固定されていると言われているが、2回めの階層主戦に挑んで生還したパーティはロマノフたちしかいないので、固定かもしれない、ぐらいで考えたほうがいいだろう。


 弓をメインに使っていて、いざとなったら毒にも頼れる俺にとっては、オーガだろうと狼だろうとそれほどの脅威とは感じない。時間を稼ぐすべさえあるなら、あとは毒矢を当てるだけで事足りるからだ。もちろん毒が効かなかった場合は、いさぎよく即投了なんだが……。


 とはいえ毒が効くという一点に賭けてソロで挑むなどという話ではなく、選択肢として毒を採用できそうであり、効けばまず確実に倒せるという意味で、脅威ではないということ。要約すると希望が持てるともいう。


 ただしゴーレム、テメーはダメだ。毒とか絶対効きそうにないし、ブラストアローを駆使したところで焼け石に水っていうか、石巨人に針っていうか。前世で読み倒した異世界モノで「いかなゴーレムであろうと、関節などの可動部の装甲は薄い。そこを狙って的確に斬りつけていく」みたいなのさんざん出てきたけど、バリスタとかでそれなりの太さの木の杭を撃ち込むならともかく、標準サイズの矢をぷすぷすと刺したところで「ついに自分の重さに耐えきれず、ゴーレムの関節が砕ける……」ってならないでしょ。


 という深遠な事情によって、俺には前衛職の――できれば大剣とか長剣とか斧とか鎚とかをぶん回してくれる――相棒が必要だったわけだ。そこに極上のカモ(マーティン)がネギ(長剣)しょってやって来れば、これはもう運命なんだろうなって思うよね。


 そんなことを考えていたら、第1階層の階層主部屋までたどり着いてた。


 アラシシだったので、ブラストアローとブラインドショットを組み合わせて一撃で転倒させて、二射目で念入りにとどめを刺した。瞬殺すぎてロマノフとギルド長が真顔になるのはわかるけど、なんでマーティンまでびっくりしてんの?


「いや、昨日はほら、もうちょっと……」

「あれは普通に矢を射るだけだと手強いってのを見せただけでしょうが」

「そうか。弓矢だもんね。離れてても……そうか……」


 ものすごく理不尽なものを見た的な空気を出すの、やめてもらっていいですかね? 相手に触れる必要がない必殺の武器っていうのは、突き詰めるとこういう無情なものなんだから。拳銃とかライフルとかミサイルとか知ったら、マーティンはどんな顔するんだろうか。





 アラシシの瞬殺っぷりに錯乱したのか、ギルド長が「なるほど……お前らになら託せる。どうか、俺たちの無念を――」とか序章のエンディングみたいなこと言い始めたので、速攻で尻を蹴飛ばして黙らせた。


「く、クリエ、何をする!?」

「何をするはこっちのセリフだ耄碌じじい。俺らが攻略するのは2階層だっつうの。まだマーティン活躍してねえだろ」

「い、いや、マーティンはもう十分にその実力を……」

「あんたらの時代ならそうだったんだろうな。いや……今でもそうか。とにかく! 俺もマーティンもまだ本気出してないんだから、2階層を攻略するとこまでしっかり見届けてくれ。全部終わったみたいなムード出してんじゃねえよ」

「わ、わかった」


 俺とマーティンが規格外というのは確信していたけど、さすがにこの程度で「儂らの時代は終わった」みたいなことを言われると、もうちょっと自分らに自信持ってくれって言いたくなる。ギルド長やロマノフたちの伝説がとっくに色褪せているべきだったのは間違いないし、新しい伝説を俺らが書き換えていくんだけど、まるで第4階層の階層主もたったの二射で仕留められるみたいな空気出されても困る。


 なんだろうなこの、敬意を払っている先人たちを自分が追い越していく切なさみたいなの。別に俺は褒められなくていいから、先人の偉業に敬意を払い続けてくれって言いたくなるこの感じ。


 ――たぶん、俺もおっさんだからかなんだろうな。



 第1階層の主だったアラシシからは、償還品の指輪がドロップした。マーティンとパーティを組んで3回目の挑戦にしてようやくだ。償還武器や償還防具は人間型の魔物が身につけていることが多いのに対し、指輪や護符などのアクセサリー系は獣や不定形の魔物が身体のどこかに隠し持っているというのが定番で、今回は胃袋からあっさり出てきたのでありがたかった。グロい話で申し訳ないが、昨日のやつは胃袋を開いたあとに食道や腸、その他の臓器も丹念に調べた挙げ句にハズレだったのだ。


「初ドロップだね?」

「だなあ。どんな指輪なのか気になるけど、それは帰ってからのお楽しみだな」


 そう返すと、マーティンはロマノフやギルド長に聞かれないぐらいに声を落として訊いてくる。


『クリエならこの場でもある程度の鑑定ができるんじゃないの?』

『鑑定そのものはできるだろうけど、リスクが高い。迷宮だと呪いの効果も強まるから、うっかり触れるのはもちろん、触れなくてもこちらのマナに干渉される可能性がないとは言えない』

『……なるほど。そうそう都合良くはいかないもんなんだね』

『多少のことじゃマナに干渉されないというか、乱されないぐらいにマナの扱いに長ければ、迷宮の中でも鑑定できるんじゃないかと期待してるけどな』

『じゃあ、そのうちできるね』


 だってクリエは凄いから、って言いたげにステキな笑顔で返事するのやめろ。眩しいだろ。


「――おう、俺たちはいつでも行けるぜ」


 装備を第2階層に適したものに整理し終えたところで、タイミングよくギルド長から声がかかる。その声を合図に俺たちは立ち上がり、第2階層へと足を進めた。昨日マーティンが狩り尽くしてしまったのか、通路の向こうからやってくるのは見飽きたサイズのオークではなく、1体のトロルだった。


「昨日とは様子が違うのかな?」

「パーティの構成が変わったからかもなあ。1体だけだから、とどめまで頼む」

「了解したよ」


 蛮族トリュフ王子のマーティンから漂う豚寄せの魅力的な匂いを、伝説の冒険者コンビの加齢臭が打ち消してる可能性をぼんやりと頭に浮かべつつ、トロルの胸元にブラインドショットを射ち込む。この世界のトロルはトールキン巨匠とかJKR女史系で、身長が3m近くもある大型モンスターであり、たぶん精霊の系統樹に連なる存在じゃないかと予想している。根拠はずばり「精霊魔法の効きが悪い」だ。


 とはいえ効きが悪いだけで完全に無効化、いわゆるレジストされるわけではないので、俺とマーティンの間では初手ブラインドショットからのマーティン無双というのがルーチン化されてる。トロルとは昨日ほんの2回戦っただけだし、オーク戦と何が違うのかというと何も違いはないのだけど。


 視界を奪われたトロルが慌てて棍棒を振り上げたときには、マーティンはすでに足元へと潜り込み、トロルの右足の膝裏を斬り払って腱を断ち斬っている。支えを失って崩れ落ちるトロルの巨体から素早く飛び退いてかわすと、もはや惰性で棍棒を振り下ろしただけの右手首を一閃。瞬く間に武器と移動のすべを奪われ、激痛に耐えるかのように天を睨んで絶叫するトロルの首に銀閃が走り、静寂が訪れる。


 その隙に弓から山刀に素早く持ち換えた俺が、その勇猛さを示すかのごとく堂々たる疾走で一気に間合いを詰め、トロルの胸部に痛撃を与えて完全にとどめを刺す。まさかの俺の働きに、マーティンも目を瞠るだけで微動だにできない。


「何やってんの、クリエ?」

「いや、たまには勢いのある魔石回収もいいかなって」


 ちょっと面白かったから、勇猛で堂々たる魔石回収、そのうちまたやろう。

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