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 第2階層の攻略に臨むにあたって何か特別な準備が必要とは思っていなかったが、せっかくなので持ち帰った償還品のなかに何か使えるものがないかぐらいは確認することになった。


 命を落とすなどで前の持ち主が迷宮内で手放した装備品をもとに、何らかの効果を付与して迷宮内の魔物に与えるという償還品については、俺もまだいろいろと予想がつかず「(すごく)(不思議)な異世界テクノロジー」という認識に留まっている。


 ロマノフたちが活躍していた20年以上前から判明している事実としては、その多くは一流の職人が作り上げたものに匹敵する品質であるということだ。ある償還品のケースでは、前の持ち主を知る冒険者が「あいつが使ってたナマクラが一級品になって返ってきた」と証言したことが伝えられている。


 ならばということで冒険者ギルドの号令のもと、大量のスクラップ武器防具に目印を付けて迷宮に捨ててみたところ、いつまで経ってもそれらの装備品が迷宮に回収されることはなかったという。また、それは浅い階層に限った話であり、ギルドが秘密裏に第4階層まで運び込んでいたスクラップ装備については、つけていた見張りが全滅させられた挙げ句、スクラップの山は忽然と消え失せていたという噂もある。しかし、ギルドの目印がついた装備品が返ってきたというのは、いまだかつて一度も確認されたことがないらしい。


 別の噂によれば、第4階層に現れるハイトロルがおよそ人間では扱えない大きさの金棒を振り回していて、迷宮鉄とは明らかに異なる輝きを放っていたらしい。こういった噂話が混じり合った結果として、「迷宮に消えた装備品は魔物の武器に作り変えられる」という推測はまことしやかに囁かれている。


 実際に迷宮に潜ってさまざまな償還品を目にしてきた俺の感想としては、「律儀に冒険者の装備をリサイクルするのに拘る必要はないはずだが、トロルの金棒のようにデカ過ぎて償還されても困るような武器の中にも、冒険者の装備から作られたものがあっても不思議はない」といった感じだ。つまり噂に関しては、すべて事実に近いのだろうと思っている。


 他に判明している事実としては、一部の償還品には「呪われる」という形容がぴったりのものがあり、使い続けていると身体が衰弱していくなどといったデメリットを被る。こういった呪いの影響は迷宮の中でとくに顕著だ。償還品はギルドに持ち帰って鑑定してみるまで値がつかないというのはこのためで、鑑定師と呼ばれる職員が呪われた償還品かどうかを見極めることで、アタリの償還品とハズレの償還品が選別されるということだ。


 この「呪い」というものに関しては俺の中でいくらか予想がついていて、おそらく償還品の中にはマナに影響したり、マナに影響されやすいものが存在する。地上と迷宮ではマナの量や質が違い、迷宮のほうが濃くて不安定ということになっているのだが、地上よりも迷宮の中のほうが呪いの影響が強く出ることからも、この推測で間違っていないだろう。


 たとえば使用者のマナに影響する場合、それが冒険者にとってプラスになる影響なら魔法武器や魔法防具ということでもてはやされるが、マナの流れを乱されるなどのマイナスな影響であれば呪われた武器防具……といった感じに。


 償還品そのものがマナに影響されやすい(されにくい)というのは、例えば火の魔法に関わるマナの動きに影響されやすければ「炎の剣」のようなエンチャントが可能で、その逆であればたいていのエンチャントは可能なのに炎だけは纏わせられない、といったようなことだ。こういった特性の発現に関しても地上より迷宮内のほうが顕著というのは、いくつかの償還品で確認済みだ。


 で、問題は目の前にあるこの長剣なんだけど……。


「見事な剣だね……ギルドで鑑定してもらって呪われていなければ、僕が使ってみたいぐらいだ」

「呪われてる心配はなさそうだから、そこは大丈夫なんだが……」

「え? 鑑定しなくてもわかるの?」

「鑑定したからわかるんだよ」


 マーティンが「いつ?」と言っているような表情でキョトンとしていたので、「いま」と書いてあるような顔で見つめ返してみたのだが、残念ながらまったく伝わらないみたいだった。


「ギルドの鑑定師がどうやってるのかは知らないんだけど、俺のオリジナル鑑定……みたいな感じ?」

「なんで疑問形なのさ」

「正直これが正しいやり方なのかがわからんからなあ。鑑定師はもっと効率的なやり方を知ってるかもしれないし、ひょっとしたら俺のほうが精度がいいかもしれないけど」


 説明にちょうどいいハズレの武器がいくつかあったので、実際にそれを使ったほうが早そうだ。


「マーティン、この剣を握ってみてなんか感じることある? 別に構えてみたりしなくていいから」


 いかにも切れ味の良さそうなショートソードを手渡すと、マーティンが小首をかしげる。


「んー? とくに何も感じないかな。もうちょっと重心が先の方にあるといいかなって思うけど」


 うん、そういうことは聞いてないんだけど、たしかに俺、なんか感じることある?ってアバウトに質問したね。俺が悪かったね。でもまあ次の武器ならそういうすれ違いの心配はない。


「んじゃ次、これはどう?」


 償還品としては珍しい、弓。アタリなら俺が使ってみたかったんだよなあ。


「ん……なんか力が抜けるような……って、めまいがする!?」

「露骨に呪われてる償還品だとそれぐらいわかりやすいんだ。つまりマーティンはいま、身を以て『鑑定』したってこと」

「こんなの鑑定って言わないでしょ!」


 いや、言うんだよなあ。最初からそんなに不用意に掴んだり握ったりしないだけで。


「まあ、だから俺のオリジナル? みたいな?って言ったんだけどな」

「こんなことしてて、クリエは身体がおかしくなっちゃったりしないの? ちゃんとギルドの鑑定師に任せたほうがいいんじゃないの?」

「いやいや、いきなり触って確かめるわけじゃないから。最初はそうやってたけど」


 あくまでも俺の仮説なんだけどと前置きして、マナに影響したり影響されたりするんじゃないか説をざっくばらんに説明しておいた。手を近づけてマナの動きを探ってみれば、がっつりマイナスの影響が出るような償還品だとマナの流れがめちゃくちゃになるので、実際に触れずともハズレと見抜くことができるのだ。


「それでショートソードのほうなんだけど、そっちは俺の鑑定?だと『よくわからない』んだよ。火の精霊が寄り付きたがらないから火の魔法を通すのには不向きなんだけど、ひょっとしたら炎を断ち斬るような使い方ができるかもしれないし、できないかもしれない。そもそも火と相性が悪いのはたまたまで、本命はもっと別の効果なのかもしれない」

「ううん?」

「たぶんギルドで鑑定すれば、そのショートソードは普通に切れ味のいい償還品として売り物になると思う。でもそれだけじゃない何かが、あるかもしれないしないかもしれない。少なくとも火と相性が悪いことは確かなんだけど」

「そういうことか……必ずしもわかりやすい効果があるわけじゃないってことだね?」

「そういうこと。例えばこっちのショートソードとか」


 必ずしもわかりやすい説明じゃなかったのに、察しが早くて助かるなと思いつつ、ハズレ装備の方によけておいたショートソードを渡してみる。


「これは……さっぱりわからないね。どんな効果なの?」

「とても微量のマナを吸い取って、そのまんま放出する」

「……それになんの意味が?」

「特に意味とかないと思うけど、たぶん地味に腹が減るのが早い」

「うわあ……ほんとに地味な嫌がらせみたいな剣だね」

「ハラヘリの剣と名付けよう。捨てるんだけど」


 ギルドに持ち込んでこの地味な呪いが見破られずに償還品として売り出された場合、買った冒険者のエンゲル係数が高まってしまう。それはちょっと忍びない。


 いや正直言うとちょっと面白い。やっぱり売るか、この剣。


「それで、クリエの見立てだとこの長剣にはどんな特徴があったの?」

「最初のショートソードに似てるんだよ。呪いのようなデメリットはないんだけど、土精霊が寄り付きたがらない。この特徴は初めて見るから効果がさっぱりだ」


 俺の言葉に小首をかしげるマーティン。あれひょっとしてその表情、「どうしてわからないの?」って言いたい感じ? たぶん君のパパより実年齢いってるクリエさんでも、わからんものはわからんのですよ?


「えっとさ……試してみれば、わかるんじゃない?」

「なにを?」

「さっきクリエが言ってたじゃない。炎を断ち斬れるかもしれない、って。炎の斬り方なんかわかんないけど、土だったら斬ってみればいいんじゃないかな」

「おおう。天才かよ」

「なんでも天才ってことにするの、やめてもらっていいかな?」


 すごくいい笑顔で注意された。そうか、土だもんな。斬ってみりゃいいのか。クリエさん実年齢のわりにまだまだ考えなしだった。推測したあとは検証だよね。当たり前だよね。




 庭で試してみた結果、地面がすぱーんと斬れた。本日の豚もといオークの出荷作業で剣士的な何かに開眼した可能性も否めなかったので、念の為にマーティンがもとから使ってたほうの長剣でも試してもらったが、そっちは地面にめり込ませるまでが精一杯だった。もちろんそっちも鑑定してみたが、とくにマナ的にどうこうといったこともなく、普通によくできた長剣という判定。


 そういうわけで償還された長剣の効果は明らかになったが、追試として薪割りもやってみた。これはマーティンの技量が高すぎて、傍で見ていても違いがわからなかったのだが、本人曰く「手応えは変わらない」とのこと。ならば凡人で試すかということで俺も薪割りに挑戦してみるも、長剣を振るというのが難しすぎて、どっちの剣でも薪を割る以前の問題だということがよくわかった。


 そのうち剣を教えるよ。だから精霊魔法を教えてね?って、優しくいたわってくれたマーティン、好き。


 できればそっとしておいてくれたほうが、もっと大好き。

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