02
起きたらラプ○スがいた。あの、国民的電気ネズミのやつに出てくる、あれだ。
『起きたか、クリエ』
『何やってんのオーダー』
『我が子を楽しませようと、この母からのちょっとしたサービスだが?』
『だからコノハハとか言うな。それアレだよね? 完全にアレだよね? 二次創作のガイドラインにがっつり引っかかる感じの』
『違う。これはデフォルメしたプレシオサウルスの着ぐるみだ。断じてラプ○スではないぞ』
『ほーぉ』
がおー、がおーとか超テキトーに鳴きながら、器用に前足?のようなヒレをぺちぺち動かしてうろうろするオーダー。なにこれ完全にかわいい。
『気に入ったようだな? クリエ』
『正直すごくいいです。本体の圧倒的な気品あふれる感じもグッと来るけど、日本人のDNA的にそのデフォルメ感とムーブは刺さる』
『む、ありのままでも良かったのか。言ってくれればいつでも脱ぐぞ?』
『あ、とりあえずもうちょっと着たまんまでお願いします。ところで、この世界に写真技術は……』
『無いな。網膜に焼き付けるが良い』
仕方がないので、しばらくはオーダーががおーと鳴くたびにキャッキャと笑って過ごす。異世界転生楽しすぎかよ。
あと、本気で網膜に焼き付けようと思ってガン見してたら、言ってくれればいつでも着直すと苦笑されてちょっと恥ずかしかった。プラチナドラゴンの着ぐるみ姿とかプレミア感ありすぎて、この機会を逃したら二度とないとか思うじゃん? ふつー思うじゃん?
『さてクリエよ、訊きたいことがまだ山ほどあるのではないか?』
ヒレをしゅぴっと上げてオーダーがそう言う。超絶かわいい。
『山ほどあるけど、まずは素朴な感想いい? なんていうか、性癖をがっつり理解されていいように転がされるのって、意外と気持ちいいもんだなあ……』
『性的な方面を要求されると嫌悪感しかないが、この程度のごっこ遊びなら私も悪い気はせぬ。明日はリザードn……もといティラノサウルスの着ぐるみにするか』
『あ、カメのやつでお願いします。いちばん最初のやつで』
『わかった。ではこの世界についての疑問を言うがよい。ここから私はクリエの師だ』
そう言いながらオーダーはどこからともなくメガネを取り出し、器用に着ぐるみの上から装着する。かわいすぎる。最高と最高が合わさって至高になるってこういうことか。
『えーと、そうだな……魔法があるのは聞いたけど、それはどういう感じの? 精霊的な?』
『精霊もいるし元素やマナの概念もあるな。細かいことを言えば、雑に無属性魔法と分類されているものの、実は超能力者というレアケースもある』
『ふむふむ、魔法の行使は魔法陣とか呪文とか?』
『本質的には無詠唱で問題ないが、イメージの強化やルーチンとして呪文や魔法陣が存在する』
『つまり爆裂娘も存在する?』
『する。魔法技術がテンプレ化された結果、流派ごとに発動呪文というものが定められているのだが、もともとは無詠唱で扱えるものなのだから、当人がしっかりとしたイメージを頭の中に描けるなら、おまえのかーちゃんでーべーそーとか言いながら蘇生の魔法だって使える。よって、アホみたいに長大な詠唱でイメージを練り上げるのに向いた才能は存在する』
『でもそれだと流派ごとの発動呪文とは――』
『うむ、異なる。よってそういった方法で魔法を発動させられるものは、天才と目される』
『なるほど爆裂娘だな……』
魔法は魅力的だけど、独学でホイホイ使ってたらたぶん目立っちゃうよなあ。回復とか蘇生とか、いざというときのために習得はしておきたいけど、ふだんの武器にするかどうかはちょっと考えどころか。どうせいざとなったら思わず無詠唱で使っちゃって、「……ねえ、キミひょっとして詠唱なしで魔法を発動した?」的なくだりが発生しそうでめんどくさいし。って、蘇生?
『オーダー、この世界って蘇生ありなの?』
『魂から記憶どころか性癖までがっつり読み取られておいて、蘇生なしってことにはならんだろう』
『ほうほう、魂が抜けると死亡判定っていうシステム?』
『うむ。死ぬと身体から魂が抜けて、時間とともにマナに還元されるタイプのヤーツだ』
『それ魂が拡散したりマナになったりする瞬間に蘇生するとどうなんの?』
『植物人間みたいになったりするし、他の魂がウロウロしてると混ざったりする。戦場とか』
『なにその非情なデスペナ。ちなみに蘇生魔法の希少性は?』
『蘇生魔法を使えると自覚した高位神官が、王国ひとつにつきひとりぐらい。実際はもう少しいるのだが、絶命してすぐに蘇生魔法を使える場にそういう人物が居合わせることが稀なため、素質的には使えるのだが自覚できていない者もいる』
『寿命との整合性は?』
『どれほど魂が元気でも、老化などによる肉体の劣化――魂を留めておく器の劣化は避けられん。穴の空いたバケツに水を注ぐがごとく、戻した端から魂が抜けていく』
なるほどなるほど。器の損傷度合いが魂を留める強度に関わるということならば、肉体を木っ端微塵に砕かれた場合はほぼ絶望と思っていいのか。あーでも、ゴーレムとかホムンクルスとかあるよな。
『人の魂を他の器に宿すことは?』
『方法は確立されていないが、なんかの拍子にできる。剣に宿る師匠的なアレもないことはないが、基本的には夜中に髪が伸びる人形とか、呪いのアイテム的なやつ』
『すごくファンタジーですね』
『ぶっちゃけると聖剣とか神剣とかに人格をもたせるとなると、サイエンスのほうのSF要素が必要だ。そして、この世界の技術でそれを実現するのは不可能と言える』
『でもなんかの拍子に』
『うむ。すごくファンタジーだからな』
いや、それもうすごくアバウトなファンタジーだからね。整合性がなかったりあやふやだったりするもんを全部ファンタジーにぶっ込むと、ファンタジー原理主義の人たちに怒られるぞ。
『オーダー師匠、技術的に無理とおっしゃいましたが、中世の世界観ですか』
『うむ。剣と魔法だな。嬉しかろう』
『すっごい嬉しい。あ、鍛冶自慢のドワーフいんの? エルフは? 種族ってどう?』
『ハーフリングもいるし獣人もいる。ケモナー属性がないクリエ的に獣人はどうでもいいか』
『ネコミミのカチューシャとかならグッと来るんだけど、本物はちょっと……』
『実物見たら印象変わるかもしれんぞ?』
『わかる。異種族の風俗行くやつのアニメ見て、意外とアリか?って思ったし』
『愛しい我が子の教育に悪いので話を戻すぞ。魔族もいるし魔王もいる』
『魔王いるのかー……。じゃあ勇者も?』
『いない。強いて言うなら魔王を倒したものが勇者、というか英雄。チートスキルが存在せぬ以上、すべては素質と努力の賜物ゆえ、さぞかし称えられるだろうな。そういうわけで、勇者召喚の概念もあり得ぬぞ』
『つまり召喚されると自動的にスキル付与みたいなことはない、と。あーでも、別の世界から高位の存在を喚び出すっていう手もあるんじゃない?』
『ふむ、それは不可能ではないな。例えばクリエの身体は、いわゆるホムンクルスというか、クローン技術と魔法の合わせ技で作られているので、そういった魂の容れ物さえ用意できれば転移も召喚も可能だ』
衝撃の真実――! えっ俺ホムンクルスなの? ていうかクローン? だとしたら誰の?
『オーダー師匠、だいぶ気になるのでそのへん詳しく』
『それではあちらを御覧ください。へその緒代わりに取ってある、愛しい我が子の卵の殻となります』
『殻……? ひょっとして俺の?』
『うむ。私の卵に人間の細胞を定着させたのち、クリエの魂を魔法でねじ込んで温めた』
『あっじゃあけっこうガチで、オーダーって俺のママなんだ?』
『この母はそう言い続けているではないか』
『とにかくコノハハはやめて。存在しないはずの勇者ルートの匂いがする。しかしそうなると、俺のパパは……』
『あー、すまぬがそれは適当にそのへん歩いてるのから取ってきてな……』
『どうせなら気に入った相手の細胞が欲しいとか思わなかったの?』
『そういう後悔はある。しかし、クリエの魂に触れるまで、私に強い自我はなかったからなあ……』
『そっかー。概念を後から知るっていうのも難しいもんだなあ』
『しかしクリエは愛おしいぞ』
『ありがとうママ。だいぶ照れくさいけどちゃんと嬉しい。でもオーダーと記憶を共有してるせいで、TSした自分に産んでもらってような錯覚もあって、情緒がだいぶ大変』
『TSものは苦手だからのう』
『前世でLGBTに理解があるほうだと自負してたんだけど、俺自身はしょせんノーマルだしなあ……』
『私はクリエの性癖を嫌悪するが、同時にクリエは私の愛しい子供だ』
『ぐう。母の愛が深い……。まあでも記憶を共有してようが、嫌悪する部分があるのは当然か。この機会に俺もじっくり考えて、オーダーに愛を返せる子供になりたいって思ったよ』
『ふふ。こういうのは考えるものではないぞ。私とクリエにはまだたっぷり時間があるのだ。ともに過ごすうち、自然と良い関係になるであろうよ』
マジなんなのこの人格者ドラゴン。惚れるわー。TS乗り越えたら母子●●までオッケーになるんじゃないかって、自分がちょっと心配だわー。
愛が深くて濃くて溺れそう。あと眠い。おやすみなさい、ママ。
そう言ったらまた「はうン……ッ!」とか言いながらのたうち回ってた。ちょっと母性が強すぎるんじゃないかっていう心配もなくはない。